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17.07.14

8月スタート/「あなたのローマ字を整えるお稽古」渡邊絢さんインタビュー

みなさんは自分の文字が好きですか。8月からSHEDではじまる「あなたのローマ字を整える お稽古」は、お手本通りのきれいな文字を書くのではなく、その人らしい文字を探し整えていく教室。「紙事」の屋号で活動する渡邊絢さんが案内人となり、その人自身が気づいていなかったことを引き出し、自分自身で文字が操れるように導いてくれます。お稽古について、渡邊さんご自身についてお話を聞きました。

■ものごころついた時から紙に惹かれて

―紙事の活動について教えてください。

「紙にまつわる色々なことに関わっています。具体的には今回のような文字のお稽古、封筒の受注会、個人や店舗の紙もののディレクションなど紙しごとの形は 多岐に渡ります。人には引き出しのようなものが身体の中に沢山あると思っていて、開かずの引き出しを開けて普段使っていない所作や視点などをつっつくみたいなことがしたくて。それを何でもって自分の生業に結びつけていこうかと考えたとき、私にとって幼い頃からずっと近くにあった紙でやってみようと思ったんです」

―なぜ紙だったのでしょうね。

「なぜこんなに紙とともに人生があるのか、その答えを探すためにこの仕事にたどりついた感じがします。自分でもこれだけ紙に執着する理由が正直わからないのですが、一つ言えるのは母も祖母も紙が好きだったこと。私も3歳くらいからずっと好きでポストカードや紙片を集めたり、サンタさんに大量のメモパッドとペンをお願いするような子供でした。

仕事も紙に関わることがしたいという思いがあり、大学卒業後はカタログの編集に携わりました。その後人事部に異動になり、採用活動全般と内定者が入社するまでの研修を担当しました。会社の中で仕事が完結するのではなく、外で得たもので仕事をするのだと伝えたくて、みんなで山に登って拾ってきた木の葉などを使って会社に戻ってものづくりをしてみるとか、身体の中にずしんと腑に落ちるような研修をあれこれ考えては実践していました。
私がその時思っていたのは〝育み〟とはすぐにその結果が出るものではなく、長い目で彼らと向き合っていくということ。私の手から離れても、彼らがこの先自分のことは自分で背負って選び、社会にかかわる一人として力強く歩み進めるための選択の物差しがどこにあるのか一緒に探してゆくことを、研修の中で沢山してゆけたらいいなと思ってやっていました。そしてまさにそれが、今のお稽古にも通じていると思います」

「会社員として3年務めた後は、紙を染める修行をしにドイツへ。“クライスター・パピア”という本の裏表紙に使われたり、家具の内張として使われていた中世ヨーロッパ時代の技法を学びました。師匠からは赤や黄色、緑とかぱきっとした色味を求められるんですけど、私がやるとどうしてもグレイッシュな色になるんです。あなたがやればやるほど着物の色味を思い出す、やっぱり日本人なんだねと言われてました。

帰国後に、今の仕事をはじめました。どうやって紙と関わって生業にしてゆくのか、いろいろなことを体感として試しながら取捨選択して形づくってゆきたいと思っていたので、紙にまつわるあらゆるお仕事をさせていただきながら自然に現在のようなかたちになりました」

■お稽古ではどんなことをするのでしょうか?

―8月に開講する「あなたのローマ字を整えるお稽古」はとてもユニークな試みですが、どのようなきっかけではじまったものなのですか。

「私自身がそもそも自分の文字にあまりしっくりきていなかった、というところが全ての始まりだと思っています。ある時自分の字を改造するために、憧れていた祖母の流れるようなつなぎ文字をなぞって書き込んでみたら、私の筆跡といい感じに混ざり合って、祖母の文字でもない新しい私の文字ができあがったんです。 それまでは、ちょっとしたメモ書きの字を見てもなんだか気持ちが乗らなかったのですが、ほんのわずかだけど何かを記したくなったり変化が訪れました。〝何か生活に変化があったの?〟と文字を見た人にも言われたくらいです。

日々目にし、綴る自分の文字を、いわゆる綺麗な文字というより自分の気配を残した上で整える機会は、なかなか一人では持てるものではありません。縁のあったメンバーと机を囲み、いろいろな文字や生活のバリエーションを持ち寄って、文字も自分自身をも整える時間を持てたら、とはじめました。

お稽古ではカリグラフィーの道具を使いますが、ルールにはしばられず自分にしっくりくる文字を探します。生活や好きなものが変化した時に、文字も自分でしなやかに操れるようになったらいいんじゃないかと。自分のローマ字を通して、今の状態を自分で知る助けにもなれたらと思ってます」

―文字と向き合うってなかなかない機会ですね。5回のお稽古はどのように進行しますか。

「1回目は自分の名前を整えます。長年自分が付き合ってきた名前を使って、いろんな文字に触れてもらって文字と遊んでもらいながら、自分のトーンを選んでいきます。2時間でこんなに整えられるんだという体験ができるはずですよ。

自由な文字とは逆の、ルールのある文字のこともより自由になるためには知る必要があると思っていて、2回目は正統派のカリグラフィーを少しだけ体感していただきます。3回目はローマ字の小文字、4回目は大文字、5回目が数字です。5回のお稽古で、自由に文字を操れる視点を身につけてもらえたらと思います。それができるようになったら一生ものではと」

■その人が薫る文字、文字を通してみえるもの

「手紙ってその人の筆跡だからいいと思うんです。その人の文字だから、文字が声色となり鮮明に聞こえてくるような気がします。お稽古で目指していくのは一般的なきれいな文字というより、自分が薫る文字を綴れるようになることです。自分の文字のスタイルをつくることでファッションが変わる人もいれば、自分の名前にしっくりきてなかったけど好きになったという人もいました。お稽古で何をつかむかは本当に人それぞれです」

―文字から気づくことがあるんですね。

「文字のお稽古ではありますが、単に文字だけの話でもなく、いろいろなことを考えたり、知ったり、新しい景色が見えたり気づきがあったらうれしいです。頭だけで考えるのではなく、自らの手を動かしながらなので爽やかじゃないですか。そんなきっかけづくりがお稽古でできたらと思っています」

写真:紙事(2.3.4枚目以外)

■「あなたのローマ字を整えるお稽古」の詳細、お申し込みはこちらのページへ

カテゴリ:エンベロープ, shed

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