創作ユニット 未草 暮らしまわりのものを自分たちの手で

東京を拠点に制作活動を行う一方、 長野県黒姫に移住の準備をすすめる 「未草」の小林寛樹さんと庸子さん。 4年かけて取り組んだ整地があらかた終わり、 現在は母屋を建てるために資材を置く 小屋作りに取り組んでいるそうです。
寛樹さんによる家具や生活道具、彫刻、 庸子さんによる布や紙の作品は、 どれも「衣食住全てにまつわるものを自分たちの手でつくりたい」、 そんな思いから生まれたもの。 作品の素材は様々ですが、廃材や古い布を使ったものもあり、 私たちが捨てようとしているものにも 美しさが宿っていることに気付かされます。

お二人が暮らす東京の家を訪ねました。

  • エンベロープ

    どういったきっかけで黒姫に移住されることになったのですか。

  • 寛樹さん

    自分が大学卒業後オーストラリアで暮らしたのですが、そこで自給自足で生きている人たちと出会い、その生き方に惚れ込んでしまったんです。実際目で見ると自給自足の暮らしは遠いものではなくきれいに暮らして、電気や水道、ガスがなくてもちゃんとした料理が出てくるし、夜はロウソクの灯りのもとで本を読む時間がありました。

  • エンベロープ

    何だか豊かな感じがします。

  • 寛樹さん

    彼らの生活が涙が出るほど美しくて、自分もそれをやろうと思いました。帰国後は理想の土地を探しながら、生活道具や家具、家づくりのための技術を勉強し、素材も木工、鉄、真鍮と少しずつ増やしていきました。彼らにならって、捨てられてしまうものを集めてものづくりをやっていたんですけど、それだけでなく自分で倒した木を使うとか、材料を作ることからやりたかった。衣食住全てに渡ってできる限り自分たちでつくろうという思いで立ち上げたのが未草です。

  • エンベロープ

    土地はどうやって探したんですか。

  • 寛樹さん

    展示会のため犬たちも一緒に車で全国色んな場所に行くんですが1、2週間そこで作品の材料のために捨てられているものや落ちているものを探しつつ、土地も探してきました。そうした中で偶然、黒姫に出合って二人とも一目惚れをし、そこから通いだして今の土地につながりました。

  • エンベロープ

    そして開拓がはじまるんですね。

  • 庸子さん

    ジャングルのような森だったので、一年目は小さいのこぎりで枝やつたを切る作業を延々としました。 歩けるようになった時に、土地の形状やどんな木々が生えているのかがやっとわかりました。

  • エンベロープ

    木を切る前の段階で、それだけのことをしなければいけないんですか。 それにしても「木を切る」ということの想像がつきません。

  • 庸子さん

    木を倒した後の先端って下で見ている時の想像をはるかにこえて大きいんですよ。自分たちがものすごく小人になったような感じがします。木は使えるものは家の材料に、そうじゃないものも薪などにして無駄にしなようにしています。さすがに先端の枝葉は燃やしますが。さらに、木は切るよりも根っこをとるほうが大変なんです。去年の冬にあらかたの整地が終わり、今年は母屋を建てるために、いろいろ持ち込むものを置いておくための小屋をたてる予定です。そして来年は母屋の基礎部分を着工できればいいなと思っています。

  • エンベロープ

    開拓をすることに不安はありませんでしたか。

  • 庸子さん

    土地が見つかってから開拓がはじまるまでの時間は、あまりにも早すぎたので不安になる暇もありませんでした。つなぎを着て帽子をかぶったら、もう深く考える間もなくやっちゃっていましたね。ワクワクした感じで。

  • エンベロープ

    身体はついていくものなんですか。

  • 庸子さん

    はじまったのが4、5年前だったのでその時は20代か30代に入るかくらいだったので今よりももっと元気でした。年々体力がさがってきているような気がしないでもないですけど(笑)。でも森に入ってしまうと、終わるまではいやだなんて言ってられないというか。

  • 寛樹さん

    たぶんやらざるをえなくなるとできると思いますよ。自分たちが開拓からはじめたのは、拓いてある土地が買えなかったから。でもジャングルであれば買えるっていうのがわかって、それならそこを拓くしかなかったんです。

美しさを宿す暮らしのもの

  • エンベロープ

    それでは未草の作品について聞かせてください。
    まずはハンガーからお願いします。

  • 寛樹さん

    いいハンガーになかなか出会えなくて、ずっと困っていました。アンティークだと高いし、数がそろわない。ある日真鍮屋さんの隅に置いてあった真っ黒で売りものにならない材料を見てつくったのがきっかけです。洋服に汚れがつかないようにでもピカピカになりすぎないように磨いています。

  • エンベロープ

    もともとはご自分たち用につくったものなんですね。

  • 寛樹さん

    そうですね。箱も自分たちのためにつくったものなんですが、欲しいという人がいて。

  • 庸子さん

    寛樹さんの石膏の彫刻を販売するのにダンボールの小さな箱に入れていたんですけど、せっかく大切にしていただきたいのにダンボールは何だかちょっと違うなって思い、つくりはじめたのがきっかけです。

  • エンベロープ

    色んな大きさがありますね。

  • 庸子さん

    4つのサイズはすべて寛樹さんの彫刻にあわせたサイズなんです。それを、あとちょっと大きくしたらハガキもぴったり入るよねとか、A4のノートや書類が入るよね、といった感じで微調節しました。

  • エンベロープ

    どうやって使っていますか。

  • 庸子さん

    はがきサイズは、写真やデータなど机の上にちらばっているものを整理するのに使ってます。一番大きい箱は、コピー用紙や書類を経過ごとに入れ替えていくのに使ったり、深さのある箱は梱包材、糸など巻いてあるものや文具をガサッと入れてますね。

  • エンベロープ

    出しておいていやじゃない収納ってとても便利。置き場所が定まらない細々としたものを覆い隠してくれそうです。色も味があっていいですね。

  • 庸子さん

    先ほど使い道のない枝葉は燃やすと言いましたが、そこで出た灰を使って着色しています。色々実験して、この濃さに落ち着いたんです。

  • エンベロープ

    庸子さんのコースターには古い生地が使われているんですよね。

  • 庸子さん

    実家の近所に160年つづく麻の機屋さんがあって、佇まいも普通のおうちで最初は気づかなかったんですけど、ある日大量のいい麻が捨ててあったんですよ。これはもしかしたらあそこのなんじゃないって訪ねていったらやっぱりそうで。製品にできないものが出るそうで、セール品でもさばききれないものは捨ててしまうという話を聞いて譲っていただけないかって、それがきっかけです。日焼けしたり汚れていたり普通の人は買わないような布ばかりだったんですけど、ちゃんと手入れをしてあげるとまだまだ使えて、技術があるからいい品なんですよ。ただその何年か後におばあさんが倒れられてしまって機械を扱える人がいないため、その機屋さんの製造は終わってしまったんです。

  • エンベロープ

    裏側は革なんですね。

  • 庸子さん

    これは捨て革って呼ばれているものでメーカーやブランドが使って余ったものは捨てられちゃうんですよ。それを集めている業者のところでいいなって思ったものをピックアップしてきます。色あせているものもあって自分たちは味があって好きなんですけど、そういうのってブランドの量産には耐えられないのかもしれませんね。

  • エンベロープ

    そのほかに寛樹さんの石膏のしろくまのテープカッターや領収書、便箋・封筒もあったりして、こうして見ると作品の幅が広いですね。

  • 庸子さん

    未草は何作家って伝えづらいんです。開拓で伐ったクリや桜の木などを今乾燥させているんですが、それで器や箸とか日常的なものを作りたいと話してます。あといずれは着るものも、シャツやパンツくらいは作っていきたいなと思っていて、アイテムは増えていく予定です。そんなに沢山ではないけど、自分たちの生活のためのものプラスアルファできたものを気に入ってくださる方に使っていただけたらいいなと思います。

未草さんの作品をエンベロープでご紹介します。
こちらからご覧ください。