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21.07.22

《おいしいつくり手》手で考えるキッチン道具 /ヨシタ手工業デザイン室 𠮷田守孝さん

あたりまえに使う道具が心地よい。それはあたりまえに、生産することの意味を大切にしているから。 ヨシタ手工業デザイン室の𠮷田守孝さんに話を聞きました。

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■デザインは素材から。手で模型をつくり、改良、その繰り返し


手で触れ五感に感じることを大切にしたい、手を動かし道具や素材との対話から気づき着想したい —
ヨシタ手工業デザイン室の〝手工業〟(しゅこうぎょう)の由来には、こんな言葉があります。なぜ素材を大事にしているの?手工業とは?

「私は独立する前、柳デザイン事務所 柳宗理先生のもとでデザイン活動をしてきました。そこでは、自分たちでプロトタイプをつくるのが基本でした。

デザインを考案して最後に実現化していくわけですが、模型をつくる作業であるとか、図面だとか、その多くの作業は手で行います」

▲まな板スタンドを説明する𠮷田さんの手

「デザインというと頭のなかで考えたりひらめいたイマジネーションを表現するひとつの手段のように捉われがちです。

けれど、つくってみて気づいたり、こうしたほうがいいんじゃないかとか、触ってみてわかることもすごく多いと思います。

手を動かしながらこういうかたちのほうがきれいなんじゃないかと、つくりながらイマジネーション膨らませていくというのがデザインする上での私の基本です」

▲センヌキB。面で栓を抜くようにつくられている
▲千切りピーラー


「手を使うことの大切さは、小さい頃からもよく言われていました。私は九谷焼の上絵をする家に生まれたんですけど、近所には湯呑の奥まで百人一首の句をものすごく細かく描く職人がいたり、親父は今もすごく細密な仕事をしています。

親父からは、カレーライスも箸でたべさせられたりして、やっかいな親父だなと当時は冗談のように思っていたんですけど、今ではそれも良かったと思っています。脳の神経の回路っていうのは、かなりダイレクトに手の情報が入っていくのです。

素材の手触りだったり、質感、重量感、さわってみないとわからないじゃないですか。そこからその良さを活かしていくという流れで、ものを考えたり発想したりということを大事にしています」

■触り心地のよい、ステンレス材

「ラウンドバーシリーズのピーラーやセンヌキは、まさしく素材との出合いから始まりました。新潟の燕三条で材料のステンレス材を触ったとき『これはとても触り心地がいいし、手に馴染むな』と。

手で使う道具に使える、とくにステンレスですから 水まわりで使う道具がいいんじゃないかと思ったわけです」

▲規格品のステンレス材を利用したラウンドバーシリーズ。左からセンヌキB、細千切りピーラー、千切りピーラー、ピーラー(皮むき)

「金属加工の現場は、金型形成、旋削、研磨などいろんな加工技術があります。

加工はいくらでもできるんだけども、そもそも素材の段階で既に触り心地や質感がよいということは、あとの加工がものすごく少なくてもいい道具ができるということ。 素性がよいと工程を少なくしてもいいものができます」

▲JR武蔵小金井駅から徒歩5分のところにスタジオ兼ショップがある

■やりたいのは、モノづくり。つくり方が変われど、道具そのものの本質は変わらない

ステンレスラウンドバーの材料としての素性(形状)がよかったことから、ピーラーとセンヌキなど手で使う道具を作ることにした𠮷田さん。素材の適正や目的を見極めることが大事で生産工程は必要な数量や目的に応じて選ぶという感覚、と話します。

「私はデザインの立場でモノづくりをやりたいと思っている。アイテムにこだわらず、それぞれの目的とか材料の特性に応じたもののつくり方を選んでつくるイメージです」

▲ラウンドバーシリーズのピーラー、生産開始当時の様子

「生産の量が少ない段階では、その加工場の持っている設備の範囲で設計とデザインをして制作をします。需要が増えてきて、生産数が増えると金型をつくる流れです。

ものをつくるということのなかには、手づくりから、少し量産を意識した手仕事もあり、機械生産に手加工の仕上げを取り入れた工業製品もある。完全にオートメーションでつくるジャンルもある。

それはものをつくる数が違うことで、加工の手段や生産システムが違ってきますが、私はものづくり自体は変わらないことじゃないかと感じているのです」

▲短い区間でS字に折り曲げているこのセンヌキ。「シンプルにラウンドバー素材の使い心地をかたちにできている」と𠮷田さん

ものつくりの継続と発展にはSDGsに関わる課題が含まれている。その問題意識を共有したい

使い心地を追求しながら、量産にも応じられるものつくり。その手法は、SDGs(持続可能な開発目標)との接点も多い。2016年にヨシタ手工業デザイン室が発表した「TRIP WARE ー旅するうつわー」は、リサイクル陶土を使用したうつわだそう。

「美濃焼は業務用の食器など全国の焼き物出荷の6割くらいを出荷している。使っている材料は、天然の資源を使うわけですが、規模が大きいので山を削る露天掘りだと聞いており、これは環境破壊に繋がります。

そのことと、その材料自体が枯渇すると自分たちが焼き物をつくり続けられなくなるという危機感が産地にはあると思います。

だから、産地では20年かけて焼き物の回収から再生材料の加工から、実際に製品にするまでというのをすごくしっかり取り組んでいる。焼き物の分野でここまでの規模でできているところはありません。素晴らしいと思います」

▲トリップウェア。岐阜県多治見の有志企業が集い、リサイクルシステムを開発。そのリサイクル陶土を20パーセント使用している

𠮷田さんは、デザインは問題を解決することが大切で、表面的に商品が受け入れられることだけを目指すのではなく、本質に立ち戻り、取り組みの意味を問うことの必要性を唱えます。

「多くの地場産業とそれに従事する人にとって、事業継承にはSDGsに触れる課題があるように思います。消費する側からみていると、そこはみえてこない部分ですが、買って使うひとの前につくるひとがいるのです。

つくるひともただつくっているんじゃなくて、多くの産地は昔からの歴史があり、現代に至る流れがあって、つくり手の人たちの今の生活もある。

毎回、現場に行くと、こういう産地固有の課題がみえてくるというのが刺激になっています。問題に対して意識を深めながら、課題解決に向けてどういう筋道をつけていくかが大事です。それにはいまの状況とこれまでの経緯や歴史を必ずセットにして考える必要があります。

世の中は、そんなにシンプルではないのです。同じ素材を使う業種でも、自分たちで小さくやっている、ある程度の規模でやっている、業務用のところを中心に供給しているメーカーもあれば、オリジナルのブランドで直接販売しているつくり手もいる。 どういう業態がいちばん良いとか悪いとかはありません。世の中は全体としてまわっていきますから」

素材をみつめ、つかう人、つくる人と産地、技術をつなげるデザイナーの思考はどこまでもフェア。ヨシタ手工業デザイン室のモノづくりを知ることによって、今の社会に必要なことがわかるのかもしれません。

写真提供:ヨシタ手工業デザイン室 6、7、9枚目

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カテゴリ:おいしいつくり手

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