濱野太郎さんの織物

イラストレーターとして雑誌を中心に活躍した後、画家を経て織りの世界に入った濱野太郎さん。
自らの手で羊毛を洗い、自分がイメージする質感そして色に染め、紡いで織る。
長い道のりを経て完成したその作品は、とても複雑な色使いでまるで一枚の絵を思わせます。

画家だった濱野さんが織物作家になったのは偶然のきっかけ。「はじめて体験した時に、油絵は上から色を塗れるけれど、織りは縦糸と横糸が重なった色の粒が残るんですよね。それを見てあ!って思ったんです。表現方法として自分に合っているのかもしれないと思いました。」

濱野さんが使うのは、ご自身の手で紡いだ糸と紡績糸です。
手紡ぎ糸の場合は、羊の毛を洗うところから手掛けています。

これが洗っていない羊毛。触ってみると、とてもしっとり。

糸にするには、このしっとりとした脂分の調整が重要です。
落としすぎると糸がパサパサしてしまうし、逆に残しすぎるとベタベタしてしまう。
羊によって含まれる脂分が違うから、羊毛ごとに石鹸洗剤の量やお湯につける時間、
その後の洗いをどれくらいにするかを見極めながら洗わないといけません。

洗った状態がこちら。頬ずりしたくなるくらい、ふわふわ!

ここから自然のままの色で紡ぐものと、染色するものに分かれます。染めるとこんな風に。
鮮やかなもの、シックなもの様々な色がありました。

染色後そのまま紡げるのではなく、いくつもの工程が待っています。
「例えば、毛がからんでいると紡げないので解毛してあげないといけません。
あと一見一つの色のようでも実際は光によって色が変わるような、微妙な糸を作りたいから、色を混ぜるんです。
そのためには手を使わなければいけなくて…」そう言って濱野さんが取り出したのはハンドカーダーという道具。

「電動機械も使いますが、必ずこの道具は使いますね。そうすると色が動いてくるんです。」

紡ぎながらも色を変えていきます。紡ぎ車のペダルを踏み、手で羊毛を撚っていく濱野さん。
するとボビンに糸が巻き取られていきます。
150mずつ綛上げし耐久性をあげるため、2回紡ぎ車にかけます。

この後、整経(織物の幅に必要な縦糸を揃える作業)・巻き取り・綜絖通し・筬通しなどを経て、いよいよ織りへ。

表情豊かな手紡ぎ糸。何色とは決め難い
複雑な色づくりは手紡ぎだからできること。

濱野さんが染めた紡績糸。白だけの織物を作る時も単純に白1色ではなく、8色くらい違う色を使って表現します。そのため豊富な色数が必要になってきます。

機織りというとパタンパタンとリズミカルに進んでいくイメージがあるかもしれませんが、
濱野さんは1回ずつ止まり離れた状態で見たりして考えながら織っていきます。
平織りの間に綾織りを入れたり、時にはステッチを入れたり柄を入れたり。色もその場で決めていきます。

「計画はしません。1つ色を入れたら見え方って変わってくるんですよ。
最初から青の次は黄色とかやったら嘘になってしまう、美しくないと思います。」

機織り機に貼られている紙は簡単な設計図。この図をもとにあとは織りながらの制作。頑張っても1日で織れるのは1mくらい、細かい作品になるともっと少なくなります。

美しい織物にするために、
引き返し織りをした所はこまめに
針で目を整えます。

濱野さんの自宅の一角には、1800年代に作られたスプーンや美しい貫入が入った器、100年以上前に織られたキリムなど味わい深い道具や織物が飾られています。「細かいことやってるって言われるんですけど、古いものを見ると自分のなんてまだまだ大したことないじゃんかって思うんですよね。やるなら、面白いのを作らないとって思うんです。」



織物だけでそこにある時も、まとった時にも美しい濱野さんの巻物。光の加減によって、動きによって印象が変わります。

濱野太郎さんの織物は、9月27日(金)からエンベロープオンラインショップで販売します。