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※記事の内容は2010年10月現在のものです。現在は現行モデルのみの販売で、オーダー・イニシャル刺繍の受付は終了しています |
「なぜ服をつくるのですか」 ファッションデザイナーに質問したら、理由はその人の数だけ聞けるかもしれません。「リネンを守りたい」そんな思いを出発点に、服作りをしている人がいます。フランスで自身のブランド「ENYO」を展開するソリアノ綾佳さん。 リネンの心地よさをかたちにしたENYOのシャツが、エンベロープに届きました。 |
シャツをご紹介する前に、ソリアノさん自身についてお話しておきましょう。 ソリアノさんは、日本のアパレル企業でデザイナーとして働いていました。 それなりに充実していながらも、どこかもやもやとした気持ちを抱えていた日々。ある時参加した青年海外協力隊の説明会で、ケニアの女子高生がファッションデザイナーの夢を語る姿に衝撃を受けます。 知らず知らずのうちに抱いていた途上国=貧しいという意識。これを心底恥ずかしいと感じ、ソリアノさんはガーナのアロンガへと旅立ちます。 現地での任務は、学校で洋裁の基礎とデザインを教えることでした。 「便利すぎる日本だと“○○がないからできない”なんてことになりがちですが、 はなから何もないところにいると、何でもつくろう、補おうとする考えになります。 学校には十分な材料と道具はありませんでしたが、工夫をしてできることをやっていました」 今までいたモードの世界とは違う、昔ながらの方法でのものづくりが廃れていない暮らし。代々受け継がれた織機を使って伝統的な織物をつくる職人の姿など、古いものが残っている光景は新鮮に映り、それを守ることの大変さについても考えさせられたそうです。 |
ガーナでの任務を終え帰国し、自分との深い対話の末に見つけた答え、 それは「リネン」でした。気温が高く暑さが厳しいガーナで愛用していたのが、日本から持っていったリネンのシャツ。汗をかいた肌にもベタつかず、熱がこもらない。 洗濯機がなくても洗いやすくて、着続けても弱らない、それがどんなにありがたかったことか。 「リネンの魅力の一番は、ただもう気持ちがいい!これだと思います。 楽であること、使い心地がいいこと、最高の利点です」。ただ、リネンといっても、興味をもったのはその製品ではなく、製造の過程でした。 |
「古来最古の生地は麻だったそうです。その繊維について、調べれば調べるほど惹きつけられていきました。 昔は、日本でもフラックスの花畑があったそうです。今でも個人で所有している方はいるそうですが、商業用として使う花畑はもう随分前からないこともわかりました。ガーナで出会った職人さんの顔が浮かび、生地になるまで、手間と時間がかかるリネンはそのうちなくなってしまうのだろうか。 そう考えたら、リネンを守る仕事に就きたいと思うようになりました」。フラックスの産地の中で、働ける場所をと絞っていった結果、行き先はフランスに決定“リネンを守る”ために、再び旅立ちです。 |
言葉を学ぶことからスタートした、フランスでの生活。 リネンづくりの仕事を探すものの、どうしても言葉の壁が立ちはだかります。 「自分の語学力のなさに、ショックと悔しい思いでいっぱいですが、目指す場所に向かって日々努力するまでです」。 目標を見失わないように歩く道。それは… 「今の私には他に何ができるだろう、考えても考えても他のことが浮かびませんでした。どうしても、リネンから離れたくありません。リネン製品が世の中にはたくさんあるのは承知の上でしたが、デザインが先行するようなものではなく、素材の良さを最大に引き出した服を作ることならば、できるかもしれない。やりたい、と思いました」 「ENYO」(当時はEnyonam)誕生の瞬間です。 |
ENYOは、同僚が付けてくれたというソリアノさんのガーナでの名前Enyonamに由来。 Enyonamはアロンガで使われている言葉で「私に幸あれ」を意味します。 |
現在ソリアノさんがフランス人のご主人と暮らすのは、ノルマンディの州都ルーアン。 美術館のような美しい街並みの中にあるアパートで、日々服をつくります。 まずはリネンありきの服づくり。生地と対面しデザインを決めていくのだそうです。 「素材の魅力が最大限に活きる形はどんなだろう、ここから何を作ったら、その生地のよさが一番よくわかるだろう、手にした人に長く愛されるだろう、そうやって引き出してあげることが私の仕事だと思っています」 |
産地だけあって、フランスにはリネンを愛する人がたくさんいるそうです。 田舎の家庭では、お祖母ちゃんのそのまたお祖母ちゃんから伝わるものにお目にかかれることも。そうした古いものを守っていく姿勢への共感は、ENYOの服に使用されているアンティーク生地にもあらわれています。
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