フランスルーアンの街で服づくりをするデザイナー、
ソリアノ綾佳さんからのお便りをご紹介します。
ルーアンは、パリから電車で1時間ほどの場所にある街。
この街でソリアノさんは自身の目で選んだリネンで服を仕立て、
年に一度リリース。エンベロープでもその作品をご紹介しています。
ソリアノさんについての紹介記事はこちらから »
2025.6.24
心待ちにしていた開花の季節がやってきました。
今年も初夏のノルマンディから
リネンの花だよりをお届けします。
3月に種まきをしたリネンの原料フラックスは
3か月で1mほどの長さまで成長し、
よく晴れた6月の朝、小さな青紫色の花を咲かせます。
この花はどうしてか半日で散ってしまうので、
現地に住んでいても花畑が見られるのはほんの短い間だけ。
多少前後することはありますが、6月中旬ごろが花のピークです。
1週間ほど陽気が続いた先週末、これは一気に開花したであろうと狙いをつけ、
田園が広がる郊外へ向けて出発しました。
街を抜けて田舎道に出ると、早速ありました!
右手の野菜畑と比べ、左手の畑が空色と見間違うほど
青く染まっているのがおわかりいただけるでしょうか?
ひとつひとつの花は直径約1.5cmと小ぶりですが、
青の点が広大な土地に集まると大海原のように壮大な風景です。
風が吹けばたゆたう波のごとく細長い茎をそよそよと揺らします。
私がその美しさに見惚れ、空想の波間をゆらゆら浮かんでいる間、
風媒花であるフラックスはせっせと受粉をしています。
風でさえもリネンづくりにとって大切な要素のひとつです。
ところで、フランス語には大地を意味する「 テール (terre)」から
派生された 「 テロワール(terroir)」 という言葉があります。
この単語は、ワインづくりの生育地の気候や
土壌の特徴を指す際によく使われます。
「 ここはこういったテロワールであるから
こういう個性のワインができる」といった具合に。
いつかリネン農家さんもこの地のテロワールが
よい品質のリネンをつくる、とおっしゃっていました。
それを聞いて私は「すべてはお天道様次第 」と
頭の中で勝手に日本語の解釈をしています。
フラックスは散水をせず雨水だけで栽培する作物です。
播種から収穫まではほとんど手を加えず、
豊かな土壌や天候による自然の恵みによって育まれます。
自然任せなので悪天候で収穫量が少なかったり、
思うような出来にならない年もあります。
大らかであり大胆さも感じるこの栽培法も、
しなやかな繊維をつくる要なのかもしれません。
毎年花畑を眺める度、 私の手元へ来た生地は
こうして農業から始まったのかと思うと
不思議な気持ちになります。
また、この大地から生地に加工されるまでの工程を考え、
数え切れない人たちの仕事があったことにも想いを馳せます。
お洋服になってお客様に手にとっていただくことは、
皆で繋いだバトンの最終地になるかと思います。
アンカーとして背筋が伸びる思いです。
ENYO ソリアノ
http://laviedenyo.blogspot.com/