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21.06.25
《つくり手ファイル》何もないところから始まることの豊かさをポルトガルで知って/CASTELLA NOTE 村瀬真希子さん
竹に似た硬めの素材感で、野趣溢れるカネやパルムのかご。このかごはポルトガルでのフィールドワークを通じて現地の暮らしを伝える CASTELLA NOTE(カステラノート)によるもの。主宰の村瀬真希子さんは、ポルトガルの生活を「自分たちで作り出す、クリエイティヴィティ。友人や家族との時間を大切にする暮らし」と、要約します。
■即興演奏のように生まれる、ざらりとした感触に惹かれて
カネとパルムのかご。その特長は素材感と、アルガルヴェ地方に古くから伝わる馴染みのある道具であることだそう。
「精巧で隙がない手仕事もとてもいいですし、魅力を感じています。ただ、そういうものとはまた違う、ざらりとしたつくり手の手の感触が残ったもののよさもあると思います」
「このカネとパルムのかごは、実際に現地で使われているデザインそのまま。特にパルムのボストンやトートは現地で出会う年配の方達にとっても子供の頃から生活を共にしてきた馴染み深いものです」
「つくっているところを見せてもらうために、イザベルさんに会いに行った日のことを思い出します。
手ぶらで来たイザベルさんは森に気持ちよさそうに入っていきました。
水場に生える植物、カネを見つけるとポケットからナイフを出していくらかカットし、近くの大きな石の上に座って手際よくその素材の下処理をして編み上げていきました。全部その場で」
「小さな森に持って来た道具はひとつ、小さなナイフだけ。あとはその場にある植物。何とも不思議なさまで感動したものです」
■情報に追われない、独自の暮らしと生き方
村瀬さんがポルトガルを訪れたのは2013年のこと。後にともにCASTELLA NOTEをはじめた友人と、最初は旅先の候補になったのがきっかけでした。ちょうどその頃に観た、映画『ポルトガル、ここに誕生す ギマランイス歴史地区』も後押しすることに。
「初めてポルトガルへ行ったとき、ここには何もないがすべてがあると感じました。
日本にいると、何か必要なものがあれば24時間、何でもすぐ手に入る。常に新しいことがどこかで起こっていて、情報もいくらでもあちらからやって来る状況にある。
それを追っていれば、自分も何かした気になる」
「ポルトガルは40年以上独裁政権の支配下にあって、ヨーロッパの中でも経済的に発展しませんでした。国のなかに頼れる企業もないから、若くて才能のある賢い人は海外へ行くか、自国で自分で何かをして生計を立てています。
そういった独自の生き方を持ってクリエイティブに世の中と関わっていく人たちに会うことがわたしにとってとても刺激になっていました」
人の心地良さや、穏やかな時間の流れ、手仕事の豊かさの発見もあって気に入り、また次の年もポルトガルを再訪。
「ものをつくる土壌はあって豊かなのですが、売ることが得意な人たちではないのもあって、日本ではみたことがないようなものたちばかりだったのです」
■豊かさのディティール
「そのほんとうに何もない暮らしは、家具やものにしても、古いものを見つけて来て直しながら使うのが普通。週末は友人を家に招いて食事をしたり、日曜は家族で集まり食事をする、という習慣があります」
「ちょっと田舎に行くと野菜は当たり前のように自家栽培で、水源も自分たち見つけてで引いて来たものだったりします。
日々の生活をつくること自体がとてもクリエイティブで力強い。ゆるやかな豊かさを感じます」
村瀬さんには買い付けに行く意識はあまりないそう。そこにあるのは、住みに行く、体験しに行く、つくり手に会いに行く、一緒に働く、気持ち。CASTELLA NOTE は、尽きないポルトガルへの好奇心から成り立ちます。
写真提供:(1枚目を除き)CASTELLA NOTE
カテゴリ:つくり手ファイル
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