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21.09.10

《つくり手ファイル》深い結びつきが生む、あたたかなカシミヤのニット/FREEMAN--B 柿岡恵さん

遊牧民と暮らす、カシミヤ山羊。そのカシミヤ山羊を慈しみ、大事に生産するニッティング工場。その工場と出会い、どうしても一緒にものづくりをしたいと願ったつくり手、柿岡恵さん。FREEMAN--B(フリーマン)のニットづくりのお話です。

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■自分が会社の代表になるのならば

柿岡さんがフリーマンを立ち上げたのは2019年のこと。それは突然のことだったと振り返ります。

「以前はアパレル業界の別の会社で働いていました。生産に追われるばかりの服づくりに何となく疑問を抱いていた頃、会社が倒産してしまい、上質なカジュアル服をつくるメーカーの立ち上げに関わることになったのです。その会社がフリーマンの前身です。しかし当時の社長が辞めてしまい、急遽、私が会社を引き継ぐことに。

自分が会社の代表となるならば、服づくりに対してこうしていきたいという思いがいろいろ浮かびました」

「素材は土に還り循環していくこと、虐待のともなわない素材であること、無理のない始まりで地球環境にもできる限り配慮した会社にすること。

それらを満たすような素材に出合えたら、再スタートを切ろうと考えを巡らせていたところ、台湾の親戚がカシミヤ製品を大切に生産していることを思い出しました」

▲肌に溶け込む色のフリーマンのニット原毛をいかすほか、できる限り自然素材で糸を染めている

他の工場の情報は知らず、台湾のその工場の仕入れ背景や生産方法だけをよく知っていた、と柿岡さん。なんとかカシミヤ製品をつくらせてもらえないかと交渉を何度も重ね、挫折しながらも承諾を得られた、と話します。

「台湾の工場の社長が遊牧民の元に直接足を運び、数十年に渡って大切につくり続けてきたカシミヤでしたので、交渉は一筋縄ではいかず……。

いくら親族とは言っても、商売的には海のものか山のものかもわからない経験値も少ない私が突然交渉しても、なかなか首を縦には振ってくれませんでした。

社長は遊牧民が育てるカシミヤ山羊をとても大切に思っていたんですね。その思いは簡単なものではなくて、私も工場に足を運び、直接頭を下げて何度もお願いをしました。絶対に大切にします! と」

■カシミヤ山羊との出会い、フリーマンのニットづくり

柿岡さんがモンゴルで生活するカシミヤ山羊と出会ったのは、台湾の工場を通じて。モンゴルのカシミヤ山羊たちは、昼は30度、夜は日によってマイナス50度にもなる環境で育ちます。その寒暖差から身を守るために、硬いオーバーコートの下に産毛(カシミヤ)を蓄え、その性質をそのままいかすように人の身体をあたためてくれるのです。

「遊牧民の方たちは家族としてカシミヤ山羊と生活し、5月の換毛期に家族たちの手で毛を梳きとります。一家族が育てるのは、平均だいたい200〜300頭くらい。

それら数家族単位で原毛が集められ、草やホコリなどを洗う工程があります。洗浄や選別の作業を人の手でくり返しながら、ふわふわの原毛になり、そこからさまざまな紡績会社に卸されるのです」

▲生まれたばかりの子山羊たち
▲遊牧民のお父さんが小屋にカシミヤ山羊たちを誘導している様子

カシミヤは山羊一頭から採れる量が少なく希少。その中でモンゴル産のカシミヤの特長を柿岡さんはこう話します。

「もともとカシミヤという素材は繊維の宝石と呼ばれており、いくつかの産地がありますが、特に内モンゴルのカシミヤ山羊の毛が最高級といわれています。

フリーマンは最高級にこだわっているわけではないのですが、梳毛(そもう)と呼ばれる紡績をするには、長さのある原毛が必要。ミネラル豊富で良質な岩山や水があり、草場があること、標高が高くて寒暖差が激しい地域、無理な品種改良がされていないことなどの条件をすべて叶えている地域が内モンゴルなのです。

原種で、さらにミネラル分が豊富な地に生えた草を食べることで、上質で細く長い毛の山羊になります。工場が長い間ずっと大切にカシミヤ製品を作っていてくれたことや、牧民の方と直接やり取りをしていたことからモンゴル産に出会えました。

カシミヤは贈りもの、分け与えられたものという思いがあり、毎年大切に生産しています」

▲カシミヤの品質はピラミッド型の最上段がトップカシミヤ、一番下の段が短い毛。量が多く必要な場合は、ピラミッド下段のたくさん取れる短いものを混ぜ合わせる
▲素肌にそのまま着ることができる インナー「カシミヤタンクトップ」

「フリーマンは梳毛紡績という手法で、カシミヤのインナーをつくっています。ワンピースは、紡毛と梳毛のあいだくらいの紡績方法の糸を使っています。

梳毛紡績は長い毛だけを引き揃えて糸にしていく手法です。そうすることで毛羽が少なく、素肌にそのまま着てもチクチクしなく気持ちいいカシミヤ製品がつくれるのです」

▲パーツごとの縫製が必要なチェスターニットコート。熟練のニッターさんたちが「リンキング」という手法でつなぎ合わせる

■自分がいいと思うものつくる、まとう。動物が好きだから、守る

立ち上げ当時に柿岡さんが望んでいたこと。土に還り循環していく素材を選び、無理のない始まりで地球環境に配慮した社会を目指す会社したいという思い。それは知識ではなく、とても感覚的なものでした。

「台湾の工場を訪ねてものづくりを見て、自分の心が、好き! と思えたことでフリーマンを始めました。イヤな気持ち、自信の持てない気持ち、これでよいのかと悩む気持ちがあるままつくったものは、お客様に提供することが難しい。

フリーマンが『Cruelty-free(虐待のないこと)』にこだわりがあるのは、私が動物好きということもあると思います」

▲漂白をせずカシミヤの風合いをいかしたローカシミヤの「スクエアオーバーコート

「フリーマンの服は、"とらわれない、自由、心地よい"というメッセージを備えているのですが、私にとっても素直な気持ちに従っているので、継続できるブランドです」

▲デザインは柿岡さんと台湾在住のニットデザイナーのタッグで。柿岡さんがイメージを伝え、ニットデザイナーたちが編み機に指示をするための設計図を考えていく

■毛玉はカシミヤ山羊の手入れをするように

シンプルでスタンダードなデザインが揃い、長く着ることのできるフリーマンのニット。毛玉事情やお手入れのコツについてうかがいました。

「毛玉は編み方によってできにくいものや目立ちにくいものもありますが、素材の特質上、どうしてもできてしまいます。特に使い初めた初年度から3シーズンくらいはできやすいのですが、お家で手洗いしていただいたり、お手入れによってだんだんできづらくなっていきます」

「毛玉はピリングと呼ばれる繊維の絡まりで発生。着用したニットは毛羽が立ち、繊維が絡みやすくなっています。静電気が引き寄せる微細なホコリも、ピリングの原因に。

着用のたびにカシミヤ用のブラシでブラッシングすること、風通しのいい場所に保管いただくこと、それから静電気を落ち着かせるために、1日着用したら2、3日は休ませるようなローテーションで着るのをおすすめします。

カシミヤのニットはお手入れによって、いい状態で長く着られるように育っていきます。

出来てしまったピリングは、毛玉取り機や小さなハサミで小さいうちにお手入れしてください。ピリングを取ってもニット本体には影響はありません。山羊の毛をお手入れするようにとり除いてもらえたらと思います」

提供写真:FREEMAN--B(2、3~5枚目)

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カテゴリ:つくり手ファイル

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