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26.01.19

《つくり手ファイル》悲しい日もうれしい日も。人生に役立つものづくり/shuo'
shuo'(シュオ)はジュエリーデザイナーの星芽生さんと、編集ライターの吉田直子さんによって、2011年に誕生したブランド。人生のよろこびも、避けられない別れの時間も、いつでもその人らしくいられるように――。思いや対話を重ねながら、約2年の時間をかけてかたちになりました。
■大切な人とのお別れのときに

星さん
「そのころ私は、母が手がけていたブライダルジュエリーの仕事を手伝っていました。
完成したジュエリーをお渡しすると、お客様が本当に喜んでくださって。涙を流される方もいて本当にいい仕事だなと感じていました。
でも、それはあくまで母の仕事。では私にとってのそれは何なのだろう、と模索していた時期でもあったんです」
ブランドのはじまりについて、そう振り返る星さん。自身のものづくりを見つめる中で相談したのが、友人である吉田さんでした。
吉田さん
「相談をしてくれたとき、私は『人の役に立つジュエリー』を星につくってもらえたらいいな、と伝えたんです。
可愛くて素敵なジュエリーは、きっとたくさんの人がつくっている。でも、人生の大切な場面で役に立つジュエリーは、意外と少ないのではないかと思っていたんです」

当時、二人はともに30代。
結婚式だけでなく、人生の別れの場に立ち会う機会も少しずつ増えてきた頃でした。
吉田さん
「今でも忘れられないのが、青山斎場で出会った赤サンゴに長く黒い房の数珠を持ったおばあちゃまでした。それがとても格好よくて。
喪服もコム・デ・ギャルソンを美しく着こなしている方がいらしたりして、『喪に服すときであっても、その人らしさは失われなくていいんだ』と感じました。
だから星からこれからのものづくりについて相談されたとき、そうした気持ちが重なって。じゃあ私たち一緒にやってみようかという話に自然につながっていきました」

■京都の念珠専門店へ
まわりの人たちの顔を思い浮かべながら、「これをつくったら喜んでもらえそう」そう感じた最初のアイテムが、冠婚葬祭用の数珠とパールのネックレスでした。
星さんは、パールのネックレスを手がけた経験はありましたが、数珠は初めて。「自分がつくってしまっていいのだろうか」そんな戸惑いもあったといいます。
そこで二人は、縁をたどり京都の老舗念珠専門店を訪ねることにしました。
共通の友人が「親戚がお坊さんをしていて、その方のおすすめの専門店なら、いろいろ教えてもらえると思うよ」と、橋渡しをしてくれたのです。

訪ねた先は、普段は僧侶としか取引をしていないような専門性の高い念珠店。緊張しながら門を叩いたところ、あたたかく迎え入れてもらえたといいます。
お店の方が教えてくれたのは、数珠の成り立ちとその本質でした。
「両の掌にきちんとおさまり、手を合わせてご挨拶ができればいい。もちろん、守るべき基本の形やルールはあるけれど、そこにきちんと則っていれば、誰がつくってもいいものなんですよ」
仕組みや意味を教えてもらいながら、数珠が決して遠い存在ではないことを知ります。「私たちの暮らしからかけ離れたものじゃないんだ」そう感じるようになったといいます。

数珠は、どうしても「死」を連想させてしまうもの。だからこそ目指したのは、重々しさとは距離を置いた佇まいでした。手に取ったときに、少し気持ちがやわらぐような、軽やかな存在であること。
最初につくられたのは、木の玉に梵天をあしらった数珠。桜んぼの実のような房を添え、積み木玩具のような親しみやすさを感じさせるものでした。
まずは敷居の高さをほんの少しやわらげるところから――そんな感覚とともに始まったのです。
■顔の見えるつくり手とともに
数珠づくりはひとりで完結するものではなく、デザインをする星さんと吉田さん、そして房を編む人、仕立てる人など何人かのつくり手が関わっています。
誰にでもお願いするのではなく、顔の見える相手に頼みたい。自然と集まったのは、友人や仲間たち。そんな関係性のなかで成り立っている、いわば「チーム手仕事」です。

吉田さん
「ここでの作業は、みんなで笑いながらやっているんです。星は、その中心にいる『つなげ役』です」
星さん
「生産がなかなか追いつかないのは、正直申し訳ないなと思います。
でも、たくさんお願いするとクオリティの問題だけじゃなくて、無理をさせていないかなって考えてしまうんです」
吉田さん
「みんな、それぞれの暮らしの中で、穏やかな気持ちでつくってほしい。気持ちよく手を動かせる場を整えるのは、私たちの役目だと思っています」
星さん
「つくる人の気持ちは本当に大事」
吉田さん
「だから、性格のいい人ばっかりなんです(笑)」
星さん
「あらためて考えると、本当にそう。
そういう人たちがつくった数珠だから、いいものになる。この環境を崩さずに、どうやってもう少し数を増やせるか、というのが今の課題です」

現在、運営には店長の高崎さんも加わり、チームは三人に。
星さん
「『これはまだだよね?』って、ちゃんと見てくれている安心感があります。気づいたら共有されて、全部きちんと回っている」
吉田さん
「お客様へのメールも、読んだら嬉しくなるだろうな、という返信をしてくれている。
バレーボールみたいな感じですね。三人になって、いいプレーができるようになりました」
星さん
「トス、トスって(笑)」

ジュエリー制作については、信頼できる職人に全工程を任せています。
星さん
「ニュアンスが伝わっていないかも、と思ったら会いに行きます。
顔を見て、話すことが大事。メールだけだと、どうしても温度が低いものになってしまうんです」
かつてはデザインだけでなく、自ら手を動かし、制作も行っていた星さん。ろう付けや彫金も行うなど、深く制作に関わっていました。
つくる楽しさを知っているからこそ、手放す覚悟も必要だったといいます。
「今でも、正直つくりたいです。でも、それ以上に楽しいことが見えてきた。
何かを手放すと余白ができて、新しいものが入ってくる。結果的に、得たものが多かった気がします」

■数珠もジュエリーも人生のお守り
ブランド誕生から15年。時代やお客様の空気が、少しずつ変化してきたことを感じているといいます。
吉田さん
「最初はおそるおそる始めた数珠づくりなんですけど、今ではジュエリーを選ぶように、手に取ってくれる人が増えました」
積み木のような佇まいの数珠でなくても、いまは軽やかさを感じてもらえるものがつくれている。そう実感できるのは、続けてきた時間があるからこそだといいます。

転機のひとつが、数年前に手掛けた水晶の数珠でした。
当初、自分たちが扱うにはまだ早い素材だと感じていましたが、年月を重ねるなかで「今なら、shuo'らしくつくれるかもしれない」と思えるようになったといいます。
もうひとつ、いつか扱えたらと思い続けてきた素材がありました。それが、パールです。
吉田さん
「三重県出身の友人から、パールの数珠しか持たない地域があるという話を聞いたんです。それなら、私たちもつくりたいねって。これも、ずっとあたためてきたものでした」
星さん
「同じものをつくっているようでいて、今ならこれがつくれるかもしれない、というひらめきが、何年かに一度、ふっと訪れるんですよね」

接客の雰囲気も、少しずつ変わってきました。お客様との会話から生まれる感覚が増え、「もう少し自由にしてもいいのかもしれない」と、選択肢が広がっていったといいます。
「毎日見たいから」「いつも使うケースに入れて、持ち歩いています」
そんな声に触れ、星さん自身も引き出しにしまうのではなく、身近に置くようになりました。
星さん
「私は朝、手を合わせる習慣があるので、しまい込む数珠じゃなくて、すぐに手に取れる数珠がいいなと思うようになりました。
ジュエリーみたいに、ぱっと見て『あ、かわいい』って思えるもの。
数珠も、お守り。ジュエリーも、お守り。そんな感覚を、みなさんにも伝えられたらいいなって思っています」

***
取材後、星さん、吉田さんそして高崎さんが、青い扉からぴょこっと顔を出して、いつまでも手を振って見送ってくれました。
その様子をお見せできないのが残念なのですが(撮らせてください!と伝える勇気が欲しかった……)、うれしい日も悲しい日もすべて肯定してくれるshuo'のアクセサリーのように、冬の昼下がり、そこだけが陽だまりで明るくきらきらとしていました。

大切な人とのお別れの場面で、失礼があってはいけないという気持ちは大切です。
でも、もし自分が見送られる側だったら――
「ちゃんと考えて、会いにきてくれたんだ」って、やっぱり嬉しいと思う。
無難だからではなく、その人らしく会いに来てくれたら。それが、何よりの敬意なのかもしれません。
カテゴリ:エンベロープセレクト, つくり手ファイル
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