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2026.02.24

《つくり手ファイル》記憶の中をリサーチして生まれる、ものづくり/vent de moe 小林萌さん
2月27日(金)15:00より、新ブランドvent de moe(ヴァンドゥモエ)の受注会がはじまります。
日本人にとってなじみの深い扇子。その再定義に取り組み、スカーフなど日常に根ざした布のプロダクトを手がけるのがvent de moe。受注会にさきがけ、日用品をみずみずしくかたちにする小林萌さんに話を聞きました。
■アートのようで、日用品でもある扇子
長野県松本市を拠点に扇子やスカーフを手がけるvent de moeは、小林萌さんによるブランド。仕事を考えたとき「心象風景を描き、デザインすること」以外に選択肢はなかった、と萌さんは話します。
その活動を貫くキーワードのひとつが「日用品」。
古典的で伝統を重んじる印象のある扇子。けれど萌さんにとってそれは、日用品でありながら作品でもある存在でした。

「扇子は、さまざまな解釈によって時代に合わせて親しまれてきた日用品でした。
ときには手紙として季節の詩や文をのせて贈り、ときには遊びや装いの一部として使われてきました。だから、私がつくる扇子もどんな解釈をしても自由なのだと思いました」
アートのような曖昧さをまといながら、日常で使える点も扇子ならではの魅力だといいます。

vent de moeが生まれたのは、萌さんが人生の岐路に立ったときでした。
「アート関係の仕事を離れ、何を仕事にして生きていくのか、どう子育てをしていくのかと向き合うなかで、良くも悪くも自由と制限が隣り合わせの状態。私はこの状況を一度きりの好機と捉えました」
子育て環境を求めて松本に移住。最初の2年間は一般事務として働きながら、滋賀や京都へ足を運び、扇子職人に会いに行きました。
そこでプレゼンし、自分のやりたいことの理解者を探しました。そして2018年から職人との協働がスタートします。

「日本では京扇子と呼ばれるものが主流。京都に行くと、町家に路面店があって扇子屋さんがありますよね。
最初は私もまったくつてがなく、インターネットで調べながら職人さんの合同組合をみつけました。そこから体当たり的に訪ねて、話を聞いてもらう機会を得ました」
vent de moeの扇子をつくるふたりの職人さんにはそこで出会えたと萌さんはいいます。

■分業制から生まれる扇子。信頼できるパートナーとの取り組みが誇り
萌さんのものづくりは扇面をデザインすることからスタートしました。
絵を描き、反物にプリントし、出来上がった生地を職人へ納品する。そこからvent de moeの扇子がはじまるのだそう。
そもそも扇子づくりは、竹を採ることから。採取した竹を製材し、扇骨(せんこつ)と呼ばれる骨づくりの加工を施す。そこに扇面を合わせ、金具をつけて仕上げていく。萌さんは昔から非常に細かな分業制で丁寧につくられていたと説明します。


現在は職人の高齢化や、竹を採る職人が減っている問題もあり、以前よりも少ない人数で、より広い工程を担う体制へと変わってきているのだそう。
そのなかで、萌さんは「手作業になるので無理をしすぎたり、苦しい思いを抱いてつくっては欲しくない」との思いも。

「扇子には国産ならではの良さももちろんあります。けれどそれ以上に、自分が足を運び、出会い、信頼できると感じたパートナーとともにものづくりができること。それが私にとっていちばん大切なことです。
日本でものづくりをすると、条件はどうしても限られていきますよね。何がほんとうにいいのか。何のためなのか。
コストをかけようと思えば、いくらでもかけられてしまうのも日本のものづくりの現状。それって本当に妥当なことなのか常々考えています」

「状況が変わることは、自然の中で暮らしている私の日常にも置き換えられるんです。朝、雪が降れば除雪から一日が始まる……自然のなかで予期せぬことが起こることはよくあります。
ものづくりの現場もまた、日々状況が変わる。コスト面など、一見ネガティブに映ることもある。けれど、そういうときこそ予期せぬパターンを楽しみ、工夫することができると考えています」

■生活を大切に。記憶のなかをリサーチする
萌さんのデザインは、画用紙に絵を描き、はさみで切り、コラージュを重ねながら、身体がどう感じるのかを自分自身と対話するなかでかたちになっていきます。
「モチーフになっているものは日常のものが多いです。丁寧な生活をおくっているわけではありませんが、私自身、生活が重要だと思っています」

自分の中にあるものを大切に、内側からデザインしていく。
「言葉は意味を持っている分、どこか限定的にも感じられます。色やかたちのイメージはもっと身体的。私にとっては、言葉よりもデザインすることのほうが言語なんですよね」



「絵を描くといっても画家のように一枚の構図をもとに描いていくのではなく、素材をいくつも手元に持っていて、それらをアナログに組み合わせていきます。
ちょっと違うなと思ったら調整して、また調整しての繰り返しです」


「手掛けているスカーフは寒冷地である長野での暮らしから生まれたものでもあるんです。
北欧のテキスタルデザインが冬の室内を明るくするように、このスカーフも家の設えのひとつとして役立ってほしい。そんな思いがあります。
色合いを決めるときは、肌の近くで使うことなども考慮しています。同じ緑でもいろんな色があり、肌がくすんで見えたりする。使う人にとってモノがどうあるといいのか、その関係をみつめていきます」


生活の中で生きているものをつくりたい。大らかに使えるものがいい。
萌さんのデザインは心象風景や記憶、身体的な感覚をすくい上げながら、静かにかたちになっていきます。
vent de moeの受注会 2月27日(金)15:00よりスタート
カテゴリ:つくり手ファイル










