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17.04.10
《つくり手ファイル》ひかり農園 増田卓也×OXYMORON 村上愛子 時代は手仕事 幻の米「緑米」のこと
オクシモロンのカレーを食べると、ごはんが口の中でプチプチと弾けます。この食感をつくっているのは、緑米というもち米。縄文時代に日本に伝わったとされる古代米です。現代ではつくり手が少なく幻の米ともいわれる緑米について、生産者であるひかり農園の増田卓也さんとオクシモロンの村上愛子シェフに話を聞きました。
■日本のごはんにあわせるカレーにマッチした
エンベロープ:二人は古くからの知り合いだそうですね。
村上:20年近く前からの友人で、前の店にもよく来てくれてたんです。HPもつくってくれたんだよね。東京でバリバリ働いていたのに、突然農業をするって聞いた時は大丈夫かなって思った。落ち着くまで1年はあったよね。
増田:後悔がないように生きていこうと思って、削ぎ落としていった結果が農業でした。実家の前が田んぼで、里山が遊び場所だったんです。だからそういうところへ帰っていくのかもしれませんね。
村上:いいところなんですよ。きれいな風景で風が気持ちよくて、いい香りがして。こんなところで育ったら離れられなくなるだろうなって思った。
エンベロープ:幻のお米ともいわれている緑米ですが、なぜ一般的に栽培されていないのでしょうか?
増田:稲作をはじめるには初期投資に沢山お金が必要で、田んぼだけでなく保管場所も必要だし、一人ではできないから人も雇わないといけない。ある程度の規模をやらないと、生活ができないです。だからどうしても効率的にやらざるをえなくて、緑米のような他と比べると収穫量が少なく、ニーズも限られる品種はつくられなくなるんですよ。
やりたいことだけやろうって思ってはじめましたが、実際やってみると大変でしたね。
緑米ができた時に浮かんだのが、愛子さんの顔でした。オクシモロンのカレーと合わせたら、絶対にいいものになるという直感があったんです。
村上:兵庫から鎌倉の店へ持ってきてくれたんだよね。白米と合わせて炊いたら、プチプチとした食感がアクセントになっておいしい!と思いました。オクシモロンは、日本のごはんにあわせるカレーというのが大前提。インドカレーやタイカレー、欧風カレーといろんな種類をつくるけど、日本のお米と合わせた時に、緑米が入っているとどんなカレーにも合うんですよ。
華やかでわかりやすい黒米に比べて、緑米は地味だけどエネルギーがあると思った。だからオクシモロンで使いたいと思ったんです。店のテーマカラーも緑だしね。
■人の手を使った昔ながらの稲づくり
ひかり農園では農薬を使わないこと、田んぼを耕さないこと、収穫したらお日様のもとで乾燥させること、この3つを基本にした昔ながらの農法で米づくりをしています。
増田:これが緑米の籾、お米の種です。
村上:茄子紺なんですね。
増田:コシヒカリなどは黄色っぽい色だけど、緑米はこんな色なんです。
種まきをすると1枚2枚3枚と葉が出てきて、5枚くらいになったらもう植えてもいいですよって合図。6月初旬に田植えをします。
エンベロープ:耕していない田んぼに植えるのですよね。そもそも、なぜ耕さないのですか?
増田:耕すと過去に田んぼに落ちた雑草の種が上がってくるので、雑草が生えつづけるんです。草取りは本当に大変で、僕らの田んぼは東京ドームくらいの面積なのですが、その広さに生えた雑草を6月から10月の一番暑い時にずっと取りつづけるんです。なので除草剤を使わないとやっていられない。
でも僕は薬を使わないことに意味があると思ったから、雑草を人の手で取れるくらいまで減らすため耕さない田んぼで稲をつくるという手法を選んだんです。ただ耕さないとうまく植えられないんですよ。
エンベロープ:地面が硬くて苗が入っていかないってことですか。
増田:そうです。手で植える場合でも、田植え機で植える場合でも、硬すぎる田んぼでは苗がうまく植えられない。なので1ヶ月間くらい田んぼに水を入れつづけて、そこへ米ぬかで増やした微生物を入れ、もともと田んぼにいた微生物とも合わさって土が柔らかくなっていくんです。
エンベロープ:不思議。なぜ柔らかくなるんですか。
増田:酒づくりと同じで微生物が米を酒に変えるように、微生物たちが田んぼに秋から春まで生えていた雑草を発酵させて、さらにそれらを餌に多種多様な生きものたちが集まり、田んぼ全体が発酵したような状態になり、その結果土が柔らかくなっていくんです。
村上:ひかり農園にお邪魔した時、田んぼに手を入れさせてもらったんです。あったかくて、微生物が生きているって肌で感じました。
増田:最初は葉っぱの色が薄かった苗も根をはりだすと、ニラのように青々としてきます。間をあけて植えたものが隣同士がくっつくくらい増えるんです。やがて立ち上がって地面の中にお米の赤ちゃんができ、節をつたって上がってくるんですよ。
収穫した稲は、布団を干すようにお日様のもとで乾燥させます。普通は刈り取ると同時に脱穀するので稲から籾をすぐ分離させますが、一緒に干すと稲に残っている水分や栄養分が子供である籾にいきます。数値では測れないけど何かが違ってくるんですよ。
村上:だから、食べた時にほかのお米との違いが感じられるんですね。
増田:緑米は子孫を残そうとする力が強くて、実るとぽろっと落ちてすぐ鳥に食べられちゃうんです。収穫量は普通のお米の6割くらいでしょうか。安定供給するのはなかなか難しいですね。
村上:オクシモロンの2店舗目がオープンした時に、緑米が足りなくなっちゃって。ほかのところから取り寄せたんだけど、ひかり農園との違いにスタッフも驚いていた。
増田:一生懸命やっても虫が入ってしまうことがあるんですよね。僕らは農薬を使っていない分、さらに注意が必要。玄米にすると傷みやすいので、虫やカビから守ってくれる籾をつけたまま保存にむいた特殊な袋で保管してます。
村上:お米の保管場所が、住みたくなるくらいきれいなんですよ。精米の機械も手入れが行き届いているのがわかる。よく「仕事とは掃除」って言っているよね。
増田:米をどういう景観でつくるかが大事だと思ってます。お世話の仕方ですね。掃除もそうだし空気の入れ替えや温度・湿度の管理、いろんな気配りが必要なんです。
村上:ひかり農園の緑米が生き生きとして、愛情が感じられるのはつくっている人の思いがちゃんとあるから。結局は人だよね。そういう思いを持つ人がいて成り立つものだと思う。
増田:これからの時代は「手仕事」が大事なテーマなんじゃないかと思います。商業施設には同じような店が並び、他にはないものがなくなってきている気がします。カレーはどこにでもあるけど、オクシモロンは他にはない店。行きたくなる理由はそこだと思う。緑米のような存在はいろんなところにあると思うから、うまくつなぎ合わせたら、ありそうでなかったものができるのではと思ってます。
お話を聞いた人
●増田卓也
ひかり農園農園主。広告代理店で企業の事業・経営企画に携わり、30代半ばで生まれ育った地で就農。2017年より日本古代稲研究会の会長に。「30年前に当時絶滅寸前だった現代のお米の原種でもある赤米を守ろうとバケツで育てたのが会のはじまり。古代米の種をはじめ、その市場や文化を次世代につないでいこうと尽力してきたオリジナリティーあふれる組織です」
●村上愛子
オクシモロン店主。二子玉川で5年間カレー店を営んだあと、2008年鎌倉小町通りにオクシモロンをオープン。おいしいものへの探究心が旺盛で、休日もスパイスにどっぷりと浸かり実験と研究を重ねている。著書に「鎌倉OXYMORONのスパイスカレー」(マイナビ)
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