いま、あなたが着ている、または手もちのシャツには、どんなボタンがついていますか? 光に当ててみて、螺鈿のように緑や赤に光る部分があれば、それはおそらく貝殻からつくられた貝ボタン。最近では、安く大量生産できるプラスチックボタンが一般的になってきていますが、独特の光沢感や、ひとつひとつ顔が違う貝ボタンには天然素材ならではのよさがあり、魅力があせることはありません。 この貝ボタン、日本は世界有数の生産国で、そのうち約85パーセントはなんと奈良県で生産されているのだとか。 どうして、海のない奈良で貝ボタンをつくっているのでしょうか? その秘密を探りに、奈良県川西町にある貝ボタン工場「トモイ」を訪ねてみました。 |
奈良盆地のほぼ真ん中に位置する川西町でボタンがつくられるようになったのは、明治時代。 明治初期に、貝ボタンづくりの技術がドイツから神戸へ伝わり、その後大阪を経由してこの町に入ってきたのです。 最初は、農家の副業として農閑期に作られていたとか。春夏衣料に使われることが多い貝ボタンづくりは、冬にやると都合がよかったそうです。そして洋服の普及とともにどんどん需要が増え、昭和20〜30年代には、この地区の300世帯のうち、200世帯までが貝ボタンを扱うまでに。 でも、今ではトモイさんのところ1軒になってしまったといいます。 |
事務所を訪ねると、入り口にも机の周りにもいたるところに、ボタンの原石ともいうべき、くりぬいた状態の貝が袋詰めされて無造作に置かれています。まるで石ころのよう。これがどうやったら、あのつやつやのボタンになるのでしょう。 三代目社長の伴井比呂志さんが説明してくださいました。 |
まずは材料である貝のお話から。 ボタンに使われる貝は10種類ほどありますが、代表的なものは4種類。 それは、 高瀬貝 巻き貝。シャツのボタンなどに使われる、いちばん一般的なもの。 白蝶貝 真珠の母貝でもある二枚貝。数が少ないため、値段も高い。 黒蝶貝 黒真珠の母貝。全体に内側が黒い二枚貝。削ると黒い部分が出る。 茶蝶貝 こちらは全体に内側が茶色い二枚貝。 どれも赤道の上下20度あたりで採れる貝で、もともとは貝殻ごと南洋から運び、一から加工していましたが、現在ではベトナムなど現地の工場でボタンの形にくりぬかれたものが届き、そこから作業がスタートします。 |
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