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21.08.26
《つくり手ファイル》メリノウールでNZと日本をつなぐ/YARN 下山陽子さん
「cool for summer ,warm for winter」。NZ(ニュージーランド)の人はメリノウールをそう表現します。夏は涼しく、冬はあたたかい。 機能的で肌触りがいいその素材に魅了されたのが、メリノウールのインナーブランド「YARN」の下山陽子さんです。
■「身に纏う宝石」メリノウールとの出合い
ウールといえば冬の衣類のイメージがあるかもしれませんが、NZではメリノウールのインナーやアウターが年中着られています。インナーに?と驚くかもしれませんが、その肌触りはチクチクせずとてもなめらか。現地で初めて出合ったとき、下山さんもそのやわらかさに驚いたそうです。
「当時2歳の娘の肌着を探していたらメリノ素材を使われているものが多くて、シルクコットンのようななめらかな手触りに『これがウールなの?』と驚きました。
こちらでは赤ちゃんの肌着や子供のTシャツ、アウトドアウェア、大人の日常着・おしゃれ着にと年齢や季節を問わず使われていて身近な素材なんです」
1日の気温差や天気が変わりやすいNZ。メリノウールを家族で愛用しているうちに、下山さんにとってもなくてはならないものに。夏はむしろ着ている方が涼しいというTシャツで過ごし、冬はベースレイヤー、セカンドレイヤーと重ね着をして。パジャマとしても着ているそうで、寝汗で目覚めることもなく快眠できるそうです。
なぜウールなのになめらかなのか。それは毛の細さが関係しています。確かに太さや硬さがある毛はチクッとしますが、メリノ種は羊の中でも最も細い毛なのでつるりとやわらかなのです。
夏でも暑くないのは、水分の吸収率が高く、吸収された水分が外気との湿度差で自動的に放出されるから。この時に身体から熱を奪い冷やす働きをするので涼しく感じられます。
冬あたたかいのは、メリノ種の特徴で毛に細かい繊維のねじれ(縮れ)があり、空気をたくさん含むから。エアコンのきいた部屋で過ごしても繊維の中に包み込まれた熱が緩やかに放出されるので汗冷えをせず、温度調節してくれるのです。
「メリノウールのウェアが快適なのは、羊が快適に過ごせるよう進化してきたからなのです。羊毛は刈られてもその特性を持ったまま製品になります。自然の力はすごいなと思います。常に生きている繊維、有機的だと感じます」
希少で魅力的なNZのメリノウールは、「大自然が生み出した身に纏う宝石」のようだと思ったと下山さん。そのよさが肌で感じられるインナーブランドスタートへとつながります。
■どこかに負担がいかないものづくり
YARNを語る上で欠かせないのが「ZQ 認定メリノ」を採用していること。「ZQ 認定メリノ」とは、「環境を守る」「動物をいつくしむ」「社会的な義務を果たす」といった分野で認証基準を満たして生産された羊毛原料です。
「羊は雄大な土地で放牧され、自生する野草を食べ、一年中飢餓状態にならないコンディションが保たれています。
生産性を高める為に狭い場所でたくさんの羊を飼育している現実もあるのですが、ストレスを受けやすい場所で育った羊の毛は、すぐに切れてしまうことも。人間と同じで、ストレスを一定期間ずっと受けていると身体に影響を及ぼすのですね」
「ZQの取り組みでは、生産者の顔やどのようにつくられているのかがわかるトレーサビリティーを大切にしています。私たちはどの農家が飼育した羊なのかわかるようになっていて、生産者も自分たちが育てた羊の毛がどのような流れで製品になっているのかわかります。
どこかで誰かが苦しい思いをするものづくりはあってはならないですし、平等に対価が支払わなければならない。そのために必要なシステムだと思います」
YARNが目指すのは製品をつくって売るだけではなく「地球環境を考えたものづくり」だと話す下山さん。
「環境に配慮する上で、メリノウールは土に還る天然素材だということも大きな要素です。
いま普及しているあたたかいインナーやフリース商品はポリエステルなどの化学繊維からできています。洗濯をするとそのポリエステルは水に溶け出し『マイクロプラスチック』として流れ出され、海を汚してしまいます。
天然素材を使うことで、地球に負担をかけないものづくりを追求したいです」
■NZのメリノと日本の技術を融合
メリノウールのインナーブランドをスタートするにあたって、重視したのはシンプルで洗練されたデザイン。多くのアウトドアブランドがメリノウールの機能性を活かした製品を手掛ける中、YARNでは機能性はもちろん、デザイン性も考慮した「街で着られるコレクション」を展開します。
YARNの製品を身に着けて感じるのが、どの角度から見ても服がきれいに見えること。素肌に心地よさが感じられるようフィットして、身体のラインが美しく出ます。それでいて動きを邪魔するほどの締め付け感はありません。
この着心地のよさとシルエットの美しさは、「保温性」や「伸縮性」といった素材の特性を踏まえて計算されたもの。メリノウールの表情が引き出せるように、また「指一本が隙間に入るほどよいゆとり」を意識した、絶妙なバランスでつくられています。
そしてそれをかたちにするのは、日本の職人です。特に伸縮性のあるリブ編みのものを扱うには技術が必要ですが、日本の縫製技術の高い職人や設備を持つ工場にお願いすることで納得のいく仕上がりに。上質なNZメリノウールとMade in Japanの品質が融合されたウェアができあがるのです。
■ものだけでなく、NZの魅力も届けたい
現在下山さんが暮らすのは、ビジネスの中心地であるオークランド。人口が最も多い街ですが、大きな公園やブッシュがたくさんあり自然が身近にある環境です。
今年5月にはこの街に直営店もオープン、移民が暮らす上でも女性が仕事を持つ上でも暮らしやすいといいます。
NZでは仕事や時間に追われずに余暇を大事にする人が多いのだそう。下山さん自身も休日は近くのビーチや森歩きでリフレッシュしたり、友達と家に呼びあって過ごしています。
NZに移住したのは今から10年前。小さなお子さん達も一緒でした。
「オルタナティブに生きる道を考えて、2人の子供たち人生に選択肢を増やしたい、豊かな自然が身近にあるNZで育てたいという思いがありました。
自分らしく本質を生きることにつながる、ダイバーシティな環境の中でお互いを理解し合い認め合う環境で育てたいという思いがあったんです」
「NZはエコ先進国。物が溢れて便利になりすぎている環境とは違いますので、生活自体がとてもシンプルです。学校教育でも身近にできるエコな行動を学習する機会も多く、家庭でもそうです。自然が生活に近いので汚したくない、守りたいという意識が強いのだと思います。
オーガニックやエコはファッションやトレンドではなく、自分がいいと思うから取り入れている。ものをつくるだけでなく、NZのそうした魅力も合わせて伝えられたらと思います」
写真提供:YARN(1,8枚目のぞく)
カテゴリ:エンベロープウェルビーイング, つくり手ファイル
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