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22.05.23
自分だけのかごを育てる。変化を愉しむ山ぶどうかご
自然の恵みを職人の手仕事で編み上げるかごは、使うことでその魅力を増していきます。なかでも経年変化が美しく、憧れともいわれるのが山ぶどうかご。宮本工芸の武田太志さんにその歴史と魅力について伺うとともに、経年変化したかごを見せていただきました。
■変わりゆく環境の中でも伝統を繋いで
古くから実は食用として、樹皮はかごに、という使い方をされてきた山ぶどう。その耐久性から農作業や運搬用のかごとして重宝され、豊かな自然の恵みはごく自然に、人々の暮らしの中にあったそうです。
しかし時代の流れや自然環境の変動により、現在では編み手、素材ともに希少なものに。20年ほど前には、すでに山ぶどうのかごは憧れの存在といわれるようになりました。
「あけびほどではないですが、昔は山ぶどうのかごも実生活の中で使用されていて、山菜などを取りに行くときに使う背負いかごなどは弊社にもあります。
しかし、材料をとることは年々厳しくなってきています。 あけび蔓は20年前の20%程度しかとることができず、山ぶどう皮は近場ではとれる場所がないため遠方へ収穫にいきますが、出向いて探してもまったく素材が取れない、ということもあります」
また、この2年半に及ぶコロナ禍では販路が変わるなどの変化もありました。
「以前であれば実店舗販売の方々からのご注文がほとんどでしたが、 今はオンライン販売に力を入れている方々からのご注文が増えています。 以前とは違うイベント形態が増えたり、時代の変化を感じますね」
「高齢化も進んでいるため、年々職人は減ってきています。またかごづくりは一人の職人がひとつのかごを編み上げるという個人一貫性で、ひとつひとつつくり続けることしかできません。
向き不向きがあるので誰でもよいというわけではなく、生産は厳しいですが、こつこつと編み続けていこうと思います」
どんどんと環境が変わっていく中でも、職人たちは脈々と伝統を受け継ぎ、かごを編み続けています。そうして生み出されるかごはしっかりとしてぬくもりがあり、無くしたくないと思わせる美しい工芸品です。
■収穫も、かごに仕立てることも、手をかけながら
憧れといわれる山ぶどうのかごですが、案外そのつくり方や裏側は知らないことばかり。どのように素材を採取し、つくっているのか、製作についても伺いました。
「素材を収穫できる期間は、一年のうち山ぶどう皮は一か月くらいしかなく、しかもその年によって時期は前後するため、今までの経験を生かして時期を見極めます。 貴重な自然の恵みを無駄にしないよう、出来るだけ上から切り落とし、ひび割れしないように丁寧に採取します。
また、カビが生えないように、きれいな状態で乾燥させることも大切にしています」
「そして山ぶどう皮はあじろ編みなどに適した、まっすぐで節のない部分はほとんどないのです。 そのためバッグには適さない材料が大量にでることも多く、 一つのバッグをつくるのにかなり材料を使います。
そこがあけび蔓との一番の違いかもしれません 」
宮本工芸さんのものづくりについては、つくり手ファイルもぜひ合わせてご覧ください。
《つくり手ファイル》素材そのものの美しさを引き出す、かごづくり 宮本工芸
■使い続けて、自分だけのかごを
素材、編み手の希少性に加え、育てるかご、ともいわれる山ぶどうの魅力はその経年変化にもあります。時間が経つほどに色合いはこっくりと深く、手触りはしっとりなめらかに。
「やはり山ぶどうの魅力は、時間が経つにつれ艶があがっていく、という付加価値だと思います。 使い込んだ山ぶどう皮細工は私から見ても本当に惚れ惚れします」
そこで今回、実際に宮本工芸さんに使用見本としてかごのサンプルを見せていただきました。こちらはなんと40年ほど使用されたものだそう。
新品と比べてみてびっくり。これが同じ素材?と思うほど、表面はつやつやと濃い茶色〜黒色に変化し、一見すると使い込まれたレザーのような美しさです。場所によって艶のあがり方が違うので、一つのバッグの中に、濃淡が無数に生まれ、それが編み方を際立たせるとともに奥行きが出ています。
40年育ててみたい!と思わせる渋さを見たあとに感じたのは、一体どれくらいで変化を感じるようになるのか、ということ。
「よく磨いてあげれば半年くらいでもかなり艶があがります。早く変化を感じたい場合は、よく撫でて、たわしかけしてあげるとよいですよ」
また、少しの破損であれば補修ができる、というのも嬉しいところ。ただ、色が変化したあとに壊れてしまった場合、補修部分は新しい色の山ぶどう皮が使用されるので、色の差が生まれてしまうのでは?
「修理部分には新しい皮を使うため、色の差は出ますが、あまり差がないように磨いて返します。 大体は見違えるようにきれいになりますよ」
番外編:スタッフの山ぶどう
社内でも憧れているスタッフも多い山ぶどうのかご。リネンバードのスタッフが山ぶどうのバッグを使用していると聞き、どんな育ち方をしているのだろう?と気になり、見せてもらいました(こちらはスタッフ私物で宮本工芸さんの商品ではありません)。
6年ほど前から主に夏をメインに使用している、とのことですが、なんともよい感じの艶感が出ています。
新しい色もきれいですが、購入してから半年、5年、10年と変わっていく姿が楽しみになりそうです。大切に、でも臆することなく日々のお供に使ってくださいね。
■コーディネートの救世主
シンプルで飽きのこない魅力を持つ山ぶどうだからこそ、どんな服装にも不思議とぴったり。コーディネートに困ったときには、ポイントになりながら全体をまとめてくれて、逆に強い印象になりがちなブラックコーディネートなどには、よい中和剤の役割をしてくれます。
リネンバードのスタッフは、オールホワイトのスタイルに合わせていました。明るいカラーのコーディネートには、かごの落ち着いた雰囲気がプラスされます。
また、サイズの大きな「こだし編み33 巻き手(取り扱い終了)」や「上下あじろ2段透かし編み巻き手(中)(取り扱い終了)」などは男性にもおすすめ。品よくカジュアルにお持ちいただけます。
どれもみな、時間とともに変化を愉しめるかご。みなさまとかごの素敵な出合いの場になれたら嬉しいです。
写真提供/宮本工芸(3、5枚目)
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カテゴリ:エンベロープ