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20.09.28
《つくり手ファイル》服を着て始まる、自分だけのストーリー/susuri齋藤龍也さん
これからお話するファッションブランドの名前は「susuri(ススリ)」。目で見ても、口に出しても、耳で聞いても、なんだか心地よい響きです。susuriの服は、着ることで気分が少し明るくなるような不思議な魅力があります。その背景を、デザイナーの齋藤龍也さんに伺いました。
■さらさらと旅するように
齋藤さんがパートナーのあいさんとともに2012年にスタートしたファッションブランド「susuri」。造語のようですが、実在する言葉なんだそう。
「世界共通の言語として100年以上前に生み出された『エスペラント語』の中に、この言葉があったんです。
『さらさらと流れる』という意味で、よどまない、常に動いて変わっていくというのが、自分たちの考えにぴったりだなと思って」
「気分って毎日のように変わりますよね。優しい気持ちだったのに、次の瞬間くさくさしたり。感情もひとつじゃなくて、常にうつり変わって、2~3つのことが一緒になっている。
服も、男性っぽいとか女性らしいとか、それだけじゃないと思っています。
ウィメンズだけどギミックが凝っていたり、メンズだけどやわらかい素材の服だったり。カテゴリーを分けることなく、行ったり来たりすることが新しい価値観になるんじゃないかなと考えて、それを『日々の旅』と表現してブランドコンセプトにしました」
■シャイな人のための服
susuriが大事にしているのは、着る人の気分があがるような服をつくること。
自分のことを口に出したり主張したりするのが苦手な人、体型にコンプレックスがある人が、その人らしく楽しめるような服を提案できたらと考えています。
「服は好きだけど、変に目立ちたくない… 僕自身が引っ込み思案なほうだから、そういう人の気持ちがわかるんです。
だから、あえて言うとしたらsusuriは『シャイな人のための服』。自分から口には出せないけど、ちょっと褒められたらうれしいじゃないですか。『あ、わかる?』みたいな。
シャイなことがキャラクターになって、自信になるような。着た人が楽しめる、本人が満足できるようなものを提案したいんです」
実際にエンベロープのいろんなスタッフがsusuriを着てみたら、内面だけでなく外見の個性をそのまま認めてくれるような頼もしさを感じました。
「モデルみたいな人というよりは、なにかしらコンプレックスを持つ人にむけて、後ろから背中を押すような…、そんな考えもデザインに取り込んでいます。
僕のパートナーは、身長が150cm前半で小柄なほう。スカートのバランスがとりにくく似合うドレスがなかなか見つからない、という彼女の悩みをプラスにできないか、というのもきっかけになっています」
■大切なのは、つくる側が楽しむこと
susuriのコレクションは毎回テーマがあり、その度にオリジナルのテキスタイルをつくっています。2020SSは香港の湿潤な空気を、2020AWはポルトガルの陽気を取り入れて…と、わくわくするような変化を見せてくれます。
「毎回、テーマに沿った場所や映画、小説などを具体的にイメージしながら、テキスタイルを考えたり服をデザインしたりしています。
小説を読みながら頭の中で場面を想像するみたいに、この登場人物はこんな服を着ているんじゃないかな、と考えたり。
歩いてみたときの残像、香水みたいにふわっと残るようなシルエットの美しさを常に探っています」
今期(2020AW)は、齋藤さんがポルトガルを旅した時に感じた温かさな雰囲気と、旅中にたまたま美術館で見ることができたJoan Jonasというアーティストの展示が大きく影響しているそうです。
「Joan Jonasはもう90歳近いおばあちゃんですが、とてもチャーミングで、子供から大人まで楽しめる作品が多いんです。本人が常に楽しんで、素直な気持ちで製作しているのを感じ、その姿勢にとても刺激を受けました」
「服は着る人が主人公。でもつくる側が楽しくないと、着る人もきっと楽しくないはずだから。
susuriを着てちょっといい気分になって、その日その日に発見があるような服づくりをしたいと改めて思いました」
■気分があがるスイッチに
susuriは今年で8年目。はじめた頃は5着しかなかったけれど、今ではオリジナルの生地を生産するほどに成長し、国内のいろんな工場やお店とよい関係を築くことができているのが誇りだそう。
コロナによって大きく世界が変わった今も、齋藤さんはこれからのことを前向きに考えていました。
「実は、susuriを立ち上げるきっかけになったのは2011年の震災でした。地震の日は、当時勤めていたアパレル会社にいて、ちょうど次シーズンのサンプル制作に追われて忙しくしていた最中で…自分の中では最も怖い経験でした。
その日以来、価値観が180°変わって。『明日死ぬかもしれないならやってみよう』と会社を辞め、翌年には自分のブランドを立ち上げていました」
「今は、震災の時と同じくらい世界が一変しているけれど、自分自身には大きな影響はあまり出ていません。むしろ、自分はどうしてブランドを始めたのか、そのフィロソフィーやベースを振り返るいいきっかけになっています。
こちらはお客様に提供する側だから、落ちている人の気分をあげてあげたい。
みなさんに、楽しいことや、憧れ、いいなと思えるものを提案できるよう、新しい発想が早く出てこないかな、と自分にそわそわしています」
家の中でも外でも、susuriを着ることで気持ちが切り替わり、気分があがるスイッチになる。
エンベロープがきっかけになって、齋藤さんの思いにぴったり当てはまる方との出合いが生まれていたら嬉しいです。
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