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22.01.18
《つくり手ファイル》野に咲く草花のように。/籐作家いたしおりさん
絵を描くように伸びやかな感性でかごを編む、いたしおりさん。植物のありのままの美しさを活かしたものづくりの根っこにあるのが、子供の頃から魅了されつづけてきた身近な草花の存在。埼玉県川越市のアトリエでお話を聞きました。
■描くように編まれるかご
いたさんのかごには編み図がありません。できあがりのサイズを頭に入れておいて、それをもとに籐の特性に合わせて手を動かしていきます。
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「編んでいるときは、その籐がどう生えていたのか考えています。植物なので、それぞれ生え癖や張り感が違うんですよ。
対話するじゃないですけど、お前はこっちに行きたがっているんだねって見極めながら編みます。例えばKago eggを編もうと選んだ籐が、Kago circleをつくった方が合っているなと感じたらcircle制作に変更することも。いいくるめようと思えばいいくるめられるんですけど、植物そのままの姿を大事にしたいと思っています」
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美大を卒業後、絵に携わる仕事をしていたいたさん。退職後たまたま空いた時間の中で編みためたかごがきっかけとなり、編むことが仕事となりました。
「ずっと絵を描いてきたので、違うことがしたくて。クラフトや民芸に興味があってラタンなら手に入りやすいかなって取りよせたのがはじまりです。
もともとかごが好きで、日本や東南アジアのもの、北欧の白樺のもの、巻いてつくるアフリカのかごなどいろんな国のものを集めていました。制作の知識は全くなかったので、それらを見て『ない編み方』をしたいと思ったんです。
絵を描いていたっていうのもあるんですけど、描く感覚でかごを編めないかなって思ってつくりはじめました」
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「あんまり影響を受けずに感性のままに編むというのを捨てたくなくて学びすぎなかったところはあります。でもまあずぼらですね(笑)」といたさん。
独学での編み方は、後に伝統技法の一つだったことがわかるのですが、不思議なものでそれでもやはり、いたさんのかごはいたさんならではのかご。昭和のお母さんの買い物かごやヨーロッパのマルシェに並ぶ整然とした編み目のものやワイルドなかごとはまた違った、他にはない存在感があります。
まるで森で見つけたやどりぎや、鳥の巣のようなころころとした丸みを帯びたかたち。今にも動き出しそうな姿は、可愛らしさとのびやかさを感じさせます。
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■制作の様子を見せてもらいました
アトリエの棚にはさまざまな籐がスタンバイしていました。見上げると天井にも。
太いものはかごを編むために、細いものはアクセサリー用に。皮はかごの持ち手を巻くために使うそうです。皮がついたままの赤茶色のもの、皮をむいた白いものもありました。
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たらいの中に浸かっているのは、下準備中の籐。乾燥した状態だと編めないので事前にこうやって水に浸けて柔らかくしておくのです。
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「細ければ10分くらいでいいのですが、太いものは最低5時間、理想は12時間くらい浸けます。
(工程ごとにまとめて制作するため)完成するまでの時間を計ったことはありませんが、こうした下準備があって、編み終わったあとも毛羽立ちを焼いたり、オイルを塗ったり、さらに袋をつくる工程もあるので一日に1個もつくれないかもしれません」
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かごシリーズは最初につくられたKago circleのほか、細長くスタイリッシュなフォルムのKago egg、コンパクトで気軽に持てるkincyakuの3つが定番。バレッタやバングルなどアクセサリーも手掛けています。
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さらに最近は籐のモチーフをつけたトートバッグや家時間が増えたコロナ下での需要から生まれた「kurashi kago」なども加わり、籐の手仕事のラインナップは広がりを見せています。
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■野の草花の美しさを作品に取り入れて
アトリエの片隅には実もの植物が飾られていました。つい先日、娘さんとの散歩道で見つけた「一番可愛いやつ」だそうです。
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「子供が生まれて植物に触れる時間が増えて嬉しいです。お散歩していると、季節によって生えている植物が全然違うことに気づかされます。
子供が『お母ちゃんこれ可愛いよ』って摘むんですけど、どれも美しくてこうやって飾っているんです」
この美しさを伝えたいという思いは作品づくりにも生かされています。例えば、かごの内袋の植物模様。これらはこの秋から冬にかけて出合った植物たちで、染料をふくませて転写されています。
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「夏につくるかごは、ヨモギやすぎななど春に摘んだ野草で染めることもあります。籐は天然素材なので、綿や麻などの布と同じようによく染まるんですよ」
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■草に近づいていきたい
「小さい頃から草や木が好きでした。草遊びっていうんですかね、花を編んだりするのを手がなんとなく覚えていたから、かごも編めるようになったのかもしれません。
母に聞くと植物図鑑を常に持ち歩き、コケを採取してスケッチしたり栽培するような子供だったらしいです。
今でもお花屋さんのきれいな花より、道端に咲いている植物に惹かれます。誰も世話していないのになぜこんなに美しいんだろうって感動してしまうんですよね。その気持ちを作品を通して伝えられたらと思っています」
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身近な植物への愛が高まり去年からスタートしたのが「野草の会」。いたさんが主宰で参加者をアテンドし、身近な植物と触れ合う会です。
「みんなでかごを持って草や花をつみに行くんです。染めたり編んだり、笹団子やパスタ、つくしの佃煮やノビルやヨモギ味噌など野草を使った料理もしたりして、植物の面白さを伝えています。植物採集は山に行かないと無理って思うかもしれませんが、身近なところにもいろんなものがあるから目を向けてみてって。
今年はもっと野草の会の活動をできたらと思っています。その中でかごを編んでもいいかもしれませんね」
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お話を聞く中で、何回か出てきたのが「草に近づいていきたい」という言葉。使うのは人だけれど、植物の自然な美しさを人間都合でコントロールしないものづくりへの姿勢があらわれているように感じました。
「籐編みは、畑みたいだなって思います。作為と無作為の集まりのような感じでその植物のもつ個性のままっていうのもあるし、人間が使えるようにっていう作為があらわれているところもあって。そういう無作為と作為のある部分をどっちももたせるようにってつくってます」
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