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22.07.06

《つくり手ファイル》自ら現地に足を運び、まっすぐな思いで伝えられる寝具/ISHITAYA 田中陽雫美さん

「よりよいものがあれば自分自身使ってみて、よければ他の方々にも紹介したい」。そう話すのは金沢発の寝具ブランド、ISHITAYAの代表 田中陽雫美(よしみ)さん。もともと眠りについて悩みがあったという田中さんですが今はとても元気でそのエネルギーが伝わってきます。ISHITAYAが考える寝具や眠りのことを聞きました。

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■布団はつくる時代から買う時代に。布団屋に嫁いで、眠りについて考える

私たちの暮らしに欠かせない寝具。手軽に購入できるようになったのは、昭和に入ってからのことだそう。

「布団の歴史って浅いんです。私たちが布団を使えるようになったのは明治中期。その頃はお金持ちじゃないと布団を使えなくて、農村部では藁や囲炉裏のまわりにムシロを敷いてその上で寝ていました。

江戸時代にも布団はありましたが、庶民では手が届かないものでした。綿自体は栽培されていても、大概は着物に使われるので布団に使われること自体がまあなかったんです」

▲金沢市清川町にある、ISHITAYA 犀川店の外観
▲真向いには犀川が流れ、春は桜並木の風景が広がる

大正12年、布団綿の加工や布団の綿打ちからスタートしたのがISHITAYAのはじまり。

その文化や慣習を知る布団店に嫁いだ田中さんは、当時いろんなことに疑問が湧いたと振り返ります。

「その頃、婚礼の布団がありました。綿の敷布団2枚、掛布団2枚、冬の座布団10枚、夏の座布団が10枚、夫婦座布団と言われる赤青の大きめの座布団と夏布団が2枚、その1セットを持って嫁に行くという布団屋が考えた習わしが全国的にあったんですね。

これは自分たちの布団じゃなくてお客さま用の布団です。布団店に嫁いできたけど、私だったらいらないわって思っていたんです」

▲ISHITAYA四代目、田中陽雫美さん

寝具は大切な身体を横にするときに使う道具。それなのに布団の本来の役割と実際に扱われるときのギャップがあること。また接客をしながら日本で流通している布団の質と価格の差も気になっていた、と田中さんは述懐します。

「その当時は私自身、眠りの質がすごくわるかったんです。だから朝まで気持ちよく寝て、いい朝を迎えられる人ってほんとうにいるのかな、ということ自体を疑ってもいました。

嫁いだときに用意してもらった寝具は最新のラインナップだったのですが、それが私には寒くてフィット感もよくなく、眠れていませんでした。

なんでこの布団を売っているんだろうって思っていましたが、当時は何がよい寝具なのかわかっていませんでした」

▲素材や眠りをテーマにISHITAYAが定期的に発行している季刊誌「眠音」

■信頼できて、人に勧められる寝具を探し求めて

眠りについて悩みがあったことから、人生がいい眠りに対する答えさがしだった、と田中さん。天然素材の寝具に行き着いたのは寝具としての性能から。石田屋のオリジナル製品は、自らが産地に出向いてつくられています。

「ある日、一人の営業の方が来られたんです。その方は以前大手寝具店に勤めていて、独立後ヨーロッパに行き、最高のクオリティの布団を日本に広めたいと思っていた方でした」

「その方が持ってきたとても薄い布団に出合ったとき、お布団に入った瞬間に体温が伝わってすぐあたたかくなるんです。

当時うちで扱っているのはボリュームある布団でしたが、肩がフィットせず身体に沿わないからあたたかくなるのに時間がかかるんです。寝ていて汗をかくことも。

その方が持ってきた薄い羽毛布団を使って、気持ちよく眠るってこういうことなんだって気がつきました。一か月後すぐにドイツのフランクフルトメッセに行き、その方と一緒にドイツの工場を訪ねました」

▲ドイツ、オーストリア圏は眠りの先進国だそう。フランスやイタリアは羽毛の文化はなくブランケット文化。ドイツから以北のヨーロッパは寒いため羽毛布団を使う
▲現地を訪ねていろんなことを学んだ、と話す田中さん。トップクオリティメーカーが誇るのは、羽毛布団であればダウンの形状。たんぽぽの綿毛のように真ん中から放射線上に伸びる、ダウン。羽枝が長く全体が均一なものは触ると反発があり、ダウンパワーが強い
▲アイスランドでのアイダ―ダックのダウンの採取に立ち会った際の写真。アイダ―は母鳥の胸から
自然に抜け落ちたダウンで巣をつくり産卵する
▲孵化直前、雛が生きているか亡くなっているか太陽の光に当てて透かして確認。その後に一つ一つの巣をまわって摘んでいくという

■心地よい眠りは、目覚めがいいこと

そもそも“いい眠り”をどう定義するのでしょうか。

「いい眠り、それは目覚めがいいことです。目覚めたあと動けるのか。動けないってなっていないか。寝て起きたときに、どこか身体がしびれていたり、痛くないか。

日中、眠い状態になっていないかも大事です」

「目覚めをよくするには、ある一定の温度と湿度をキープできるように寝具環境をつくるということが大切です。体温が若干下がらないと入眠という状態にならず、目覚めの直前は体温が上がらないと目覚めていきません。

また汗をかくということは、深部の体温が下がるので、暑いと寒いを繰り返すことになるため眠りが浅い状態です」

▲睡眠中の汗は意外と多く、睡眠の質に影響する。コップ一杯分の量の汗をかくと言われるが、普通に蒸発する汗(コップ一杯分)のほか、寝具の暑さによる発汗もある

「寝返りをうってよく動く理由は温度変化だけでなく、マットレスがかたいのも影響しています。

マットレスが硬いと血流が阻害されていたり神経が圧迫されていたりして、それを自分で知らず知らずに寝返りして回避するわけです。同時にムレでいたりすると、寝返りの回数が多くなっています」

■眠りのヒントは体圧分散と湿度コントロール

心地よい眠りの定義は、目覚めがいいことだと田中さんは言います。眠りのヒント、ある一定の温度と湿度にするための環境をつくるのに、ポイントになることはなんでしょうか。

「いい眠りをめざすときに大事なのが、体圧分散と湿度コントロールです。

誰しも汗をかくわけですが、吸っただけで中の湿度が高くなって放出できないのがコットン。リネン、シルク、ウールは吸湿して放出できるので、ある一定の温度と湿度を保つためのに適した素材です」

「身体は重いわけですが、体圧分散できているときには身体がマットレスや布団と密着しているので、下に敷くのはそういった密着できる素材を選ぶことをおすすめします」

「低反発ウレタンや高反発と言われるラテックスは弾力性があって、身体を受けるので密着するのですが、素材的に熱がこもり、水分がたまってしまいます。めり込むから暑さを感じる場合も」

寝具の中で一つ選ぶとしたら、これというアイテムはありますか。

「マットレスもカバーも、掛け布団も枕も重要です。寝具は意識のないときに身体を守るシェルターです。リネン素材がいいのはまさしくそれで、熱伝導性が高いので熱のコントロールがしやすいんです」

「マットレスは2つの機能を持っていて、身体を支え、正しい寝姿勢を保って眠るという役割があります。身体はフラットではなく凸凹があって、ちゃんと吸収しないとラクにならない。いちばん重いのは腰。腰を支えるにはマットレスが密着していないとできません。

コイルスプリングの基本構造は、コイルが並び、その上にクッション材としてウレタンが入っています。高級なものになると、そのいちばん表面にウールが薄く入っていたりします」

▲ISHITAYAが使っているのは、タモ材が張られたウッドスプリング。その上に馬毛のマットレスやウールのベッドパッドを重ねる

「クッション材が少なくて硬いと、密着せず吸収しないので、枕も身体に合いません。枕の高さはマットレスの吸収具合とバランスで考えていきます。枕が合わない原因の一つに、硬すぎる敷きパッドがあります。

ウールのベッドパッドは、肉厚なウールの層でできていて身体をラクな姿勢に導いてくれます。持っているマットレスの上に重ねて使うことができるので、最近マットレスを買ってしまったというお客さんにおすすめしています」

▲最上面はウールのベッドパッド。フランス・ピレネー産のメリノ種

■身体は天然素材。合成のものからは感じられない気持ちよさがある

天然素材は大量生産できず、さらに価格はだんだん高くなるものばかり。それでもISHITAYAが天然素材にこだわるのは、理屈を超えた気持ちよさを感じられるから。

「なぜ天然素材がいいのかは、身体は天然素材、だから天然素材同士の波動がある。身体に直接身に着けるものというのは、理屈じゃなく心地いいのがいいと思うんです」

▲ISHITAYAスタッフの方も天然素材の寝具を愛用。声をかけて話を聞くたびにお気に入りアイテムを教えてくださいました。みなさん、寝室に湿温度計を置いてるそうです

「心地よい寝具に出合えたら睡眠の質が上がって、仕事のパフォーマンスも上がるし、やりたいことがやれる人生が手に入る。人生のいい時間が買えると思います。私自身も、徐々に気持ちや体の調子がよくなって15年前が変成期でした。

内臓脂肪も低く、腰もどこもいたくなくて元気です。寝具は人生を変えると思いますよ」

この記事で紹介したアイテム

カテゴリ:エンベロープの寝具店, リネンバード, TLB HOME, つくり手ファイル

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