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2021.06.11
《つくり手ファイル》白樺の声を聴き、森を伝え、守っていく ユーリさん
白樺の声を汲みとるように編まれたユーリさんのかご。ユーリさんはスウェーデンでの仕事を機に自然信仰の北欧の豊かさに魅せられ、森と共生する暮らしに引き込まれました。1995年以来、暮らす場所を変えながらもユーリさんは森に出向き、かごの製作を通じて白樺の魅力を伝え続けています。
■なめした革のような触り心地のかご
「北海道に自生する白樺の木。その木肌は白く、凛として美しく、北国の短い夏の空に向かって白樺の若葉が語りかけるように、そよそよと風に揺れています」
「樹皮を手のひらで触れると、木の皮とは思えないようなやわらかな触り心地を感じられます。たとえるのなら、それはなめした革のよう。
私が編んでいる白樺かごは、この白樺の樹皮を幾重にも編み重ねたもの。
私にとって白樺かごは物でありながら、白樺の木の佇まいそのものであり、同じ存在なのです」
■一本の白樺から樹皮をいただくのは一度、一部分
百年、千年という樹齢の木があるなか、白樺の寿命は70年程と短く、儚いのだそう。
「白樺樹皮を採集するのは、ちょうど今回の展示が始まる6月中旬の頃。
時期は一年のうち初夏のわずか2~3週間。初夏は一年の中で白樺が水分を最も多く巡らしているときです。
採集するのは樹齢70年ほどの間伐予定の立木で、その本数も限られます。1本の白樺の木から樹皮をいただくのは一度、一部分です」
「白樺の樹齢は70年程と短く、それは白樺の弱さかもしれません。
けれども、私たち人間にも弱さと強さがあるように、木の神様は白樺には樹皮という強さを与えたのではないかと私は捉えています。だからこその、白樺かごの丈夫さです」
「白樺の木は自分の弱さを知っているからこその生き方をしている。
他の木が選ばないような荒れ地こそ白樺は自ら選んで真っ先に根付くのです。
自分の精一杯の力でその土地を肥し、ようやく土壌が豊かになった頃、自分は樹齢を終えるけれど、他の樹木が安心してそこに根を下ろすことができ、森がつくられていく。
そのことからも、白樺の木はパイオニアツリーや森の母なる木とも言われているのです」
■白樺は森の母なる木、その樹皮は白樺からの手紙
「わたしは倒れゆく白樺の木から最後にその樹皮を託していただいて、かごを編み重ねていきます。
この樹皮には白樺の物語が内包されており、樹皮は白樺からの『手紙』だとわたしは捉えているのです」
白樺のいのちを受け取るようにして生まれるユーリさんのかご。まるで森の心を知っているかのように整然と美しく編まれています。
写真提供:(3~5枚目を除き)ユーリさん
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