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21.12.09
LISETTEデザイナー平真実『布のはなし』のはなし(前編)
リゼッタ平真実による書籍『布のはなし』(産業編集センター)が12月15日(水)に発売します。この本はリゼッタオンラインで綴っていた尽きない布への愛を、実用的な要素も交えて一冊にまとめたもの。本の制作やこれまでの服づくりのことをデザイナー平に聞きました。前編・後編の2回にわたっておおくりします。
■同じようにLISETTEを愛してくれる人がいたからつくれた本
書籍『布のはなし』は、布にまつわるエッセイをまとめたもの。パターン本以外はこれまで手がけることはなかった平は、同じようにLISETTEを愛してくれる人がいたからつくれた本だった、と振り返ります。
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「“好きなもの”や志すものがが同じでそれが集まって生まれるものってありますね。つくりての方との出会いもそういうことが多くって、この本もそんな出会いから始まりました」
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「最初に企画をいただいたときはまた別の切り口の本で、私よりもむいている方がいらっしゃると思ったので、その方をご紹介しました。
でも、あとになって聞いたらこの編集者の方はリゼッタのお洋服が好きで人生観までも変わったとも話してくださるような方でした。その後も熱心に企画をもってきていただいて」
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「布を切り口にして、リゼッタで綴っていたストーリーのお話を一冊にまとめるのはいかがでしょう、と。それがたまたま15周年を迎える前でした」
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服をつくることと同じように本の制作を考えていたことから、誰かを喜ばせることができるのだろうか、そんな気持ちがあったそう。
「お洋服もそうなんだけど、つくりたいものはつくりたいものではっきりしている。けれど、何かを世に出すことに対して責任感のようなものがあって、つくったからには。みたいな気持ちが沸き起こって」
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「子供の頃からかもしれませんが、何かが自分のせいになって責められるのがどうしよう…。そういう気持ちってずっと持っていて。
それでも、熱心に私の不安な気持ちを打ち消すようなことばをかけてくださいました。この方じゃなかったらつくれなかったと思います」
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■書けるときに少しずつ心をこめて
この本はリゼッタを始めてから15年間、平が少しずつ書き綴っていた連載「ストーリー」をベースに書き下ろしを加えて構成されている。平は書き残したい事柄に出合うと忘れないうちに感覚をその場でメモして、読んでもらうかたちにまとめていました。
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「子どものときの思い出、読んだ本、観た映画……そういう記憶と何かがリンクしたとき衝動に駆られ、手帳だったり、携帯や、裏紙にその事柄をメモしていました。
そんなときは突然訪れるので、走り書きのようなものがたまって、それをつなぎ合わせるようにもう一度思いを巡らせるのは、1日の終わりやカフェでの時間。
仕事で旅をしているときは一人が多いので、ホテルの朝食のダイニングだったり、公園のベンチで書くこともありました」
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■布と自分の記憶
『布のはなし』では、暮らしの中での布の使い方を紹介するほか、染色工場を訪ねたときのことや、素材に対する気づき、これまで手がけたテキスタイルを収録。繊細な感性でとらえた布の記憶が詰まった一冊に。
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「断片的にしか覚えていないんだけど、子どものころから布と自分の記憶というのがあって。ベルベットは大好きで、落ち着くのか眠る前、毛布の端っこのベルベットの部分を触って寝ていたのを覚えています。
布だけじゃなくて、ガラスや金属もそうなんだけど、素材感と自分の記憶って強く結びついているから不思議。自分で別に決めたわけじゃなくて、心のどこかでこれは好き、これは嫌いというのを判断していたんだと思います」
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服の記憶についてはこんなふうに回想する。
「昔は、いろんなスタイルをしてましたね。モード系の服や、古着ばかり着ていた時期も。リセエンヌというファッションにはまったり。でも、基本子どもの頃に好きだったものは変わらない気がします」
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「素材もそうだけど、自分がいちばんストレスがないスタイルが年齢を重ねていくうちにみえてくる。気づいたら、“これずっと着ている“みたいな服がつくりたかった。
リゼッタのお客さまって年齢の高い方も多い。それは服をオーダーメイドで注文していた時代を知っている方から、素材のよさを理解している方といってもいいかもしれません。
信頼して買ってくださる方、それに応えられるよう、自分自身いろんなものを吸収して自分のフィルターを通してできあがったものをみなさんに喜んでもらえればと思っています。お客さまのなかには親子でお店に来てくださる方もいて、年齢を問わずながく大切にきてくださるのが本当にうれしいです」
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■この本に込めた想い
今回出版にあたり、平のはなしを聞いて、一人の布好きとして、リゼッタのデザイナーとして。この本の根底に流れるのは、服は永遠じゃない、いつかはボロボロになるものだけど決して使い捨てじゃないということ。布との豊かな暮らしを疑似体験するように綴られたこの本は、先進的な時代のなかでも変わらないもののよさを教えてくれます。
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「あたりまえに暮らしの中にある布。それは、単なる布でかたずけられるものではない、いにしえの人たちが用途にあわせて改良したり、あみ出したもの。
拭くものなら吸いやすいもの、寝るときに使うんだったら心地よいものって、素材をえらび、織り方をかえ知恵を重ねながら、今のものや布がある」
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「今は大量につくって汚れたり、飽きたら簡単に捨てられる、そのほうが安価で気軽さもあって、そういうものを買う手段もあるし、そういう循環もある。
そういう循環ってもともと手間をかけてつくりだす循環とは真逆。だからどんどんすくなくなって、かつてあたりまえのものだったのに高価なものになってしまったり、そう見えてしまったり。今まで培ってきたものが失われていくスピードは加速してる気がします」
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「培ってきたものって服だけじゃなくて、暮らしまわりのものすべてに言えるんだけど、目に映る美しさや手や肌から伝わる着心地、使い心地のよさは、自然に五感で感じてきたのものだと思うからこそ、もう出会えないものも少なくないですよね」
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「培ってきた伝統や文化、技巧に誇りを持ちながらみんながものづくりできたら、暮らしのなかで手にとるものがすべてが心地の良いものになるのかもしれないと考えることもあります」
そんな思いも、この“布のはなし”に綴られています。
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『布のはなし』のはなし、後編はこちら
書名/布のはなし
出版社/産業編集センター刊
著者/平真実
判型・ページ/A5判・124頁