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17.08.10
《つくり手ファイル》「ずっと使えるものをつくりたかった」/鍛造作家 羽生直記さん
みなさんは鉄のフライパンを使ったことがありますか。鉄は扱うのが大変そうなイメージがあるかもしれません。でも実はそれほど難しいことはなく、ずっと使える魅力的な道具であることを羽生直記さんのフライパンが教えてくれます。
■一生使えることが、鉄の魅力
埼玉県小手指。
バスを降り畑道を抜けしばらく歩くと、木々を背景に工房があらわれました。音を出しても迷惑にならないところをあちこち探し、漬物工場だったこの場所を見つけたのは10年ほど前のこと。
羽生さんのフライパンはここでつくられています。
大学生の時から鉄でものづくりをしてきた羽生さん。学生時代に取り組んでいたのはオブジェですが、ある時暮らしのものをつくるようになります。
「観るもの」から「使うもの」を手掛けるようになったのは、つくったものを通して人とつながりたかったからだと言います。
「生活に近いものは、みんながちゃんと反応してくれる。使いやすいということも、使いづらいということも。“使う”というコンセプトもはっきりとしていて、それさえあれば理由はほかにはいらないところにもしっくりきたんです。
その中で鉄のフライパンをつくるようになったのは、テフロンのフライパンはうっかりヘラでガリッとやったら使えなくなってしまうし、ずっと使えないところがイヤで。じゃあつくってみようかなと思ったのがきっかけです。
鉄のメリットって、鉄分がとれるとか熱の伝わり方とか色々あると思うんですけど、自分にとっては一生使えるところが一番大きいです」(羽生さん)
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▲子供の頃からものをつくることが好きだったという羽生さん。“壊れないところ”に惹かれて、大学では金属を専攻した
■人の手と感覚でつくられる、フライパンができるまで
フライパンのもとになるのは板状の鉄、型をあててプレス機で大まかなかたちをつくります。
「かたちをつくったら、バーナーで熱します。赤くなるまで熱すると、硬くなっていた鉄がゆるんで加工できるようになるんです」
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▲昔ながらのプレス機で、プレート状の鉄をフライパンのかたちにします
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▲鉄を柔らかくするため熱を加える“なまし”の様子
室温まで下がったら、まず底を叩いて平らにします。次に立ち上がりの部分を、その後は側面へ。
工房になり響くカンカンカンという金属音。当金(あてがね)という鉄の棒にのせて、金づちでかたちを成形します。
「側面まで終えたら、再びなましてまた叩きます。これを6回繰り返します。気に入らなかったらもっとやりますね。一日2個できればいいほう。2個できたら気分よく帰れます」
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▲納得するかたちを目指し、金づちを打ちつづける
持ち手は、持ちやすさ、強度、軽さを追及してU字型に。リベットという留め具で本体と接合します。
穴をあけてリベットを差し込みつぶして固定する方法は、溶接が高価だった時代の技術。溶接で一体化すると、持ち手にも熱が伝わり熱くなってしまうので、この方法でつないでいるそうです。取り外しができるので修理がしやすいのもいいところ。
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▲鉄のプレートを切り抜いてつくられる持ち手。サビを落として、持ちやすいかたちに成形します
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▲きのこ頭のリベット。サイズも様々、素材は鉄のほか真鍮もありました
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▲様々な穴があいた「ハチノス」という作業台に置いて、持ち手を叩く
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▲平らだった持ち手がU字型になりました
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▲接合部分を本体のカーブに合わせます。型があるわけではないので叩きながら調節
「仕上げはワイヤーカップというブラシで磨きます。ここで終わりでもいいけど、最後にバーナーで火を入れてフライパンらしい色に仕上げます。
銀色から黄色になって、赤、青に変わって黒になるのですが、黒になる前の青が好きなのでそこで火を止めます。
最後にサビ止めのために蜜蝋(みつろう)を塗って完成です」
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▲酸化膜が残らないようにとげが沢山ついたブラシで研磨します
■難しく考えなくて大丈夫!お手入れについて
お手入れはどうすればいいの?焦げ付いたり、サビてしまったら?羽生さん自身がどうやってフライパンを使っているか教えてもらいました。
―鉄はテフロンと比べて、焦げついてしまうイメージがあるのですが…
「焦げつかなくするために、初めて使う前に“油ならし”をするといいですよ。まずフライパンを空焚きして蜜蝋をとばし、常温に冷ましたら蜜蝋が残らないように金だわしでごしごしと洗います。
空焚きをして水分をとばしたら、フライパンの高さ3分の1くらいまで食用油を注ぎ野菜くずと塩を一つまみ入れて弱火でじっくり炒めます」
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▲塩をひとつまみ入れて野菜くずを炒める油ならし。昔から鉄の鍋を使っているおばあちゃんから教えてもらったやり方です
―使い終わったあとは?洗剤は使ってはいけないと聞いたことがあります。
「自分も最初は洗剤を使わずに洗っていたんですけど、どうしても汚れが気になり使ってみたら特に問題がなかったので、うちではスポンジに食器洗剤をつけて洗っています。
金だわしでごしごし洗うと油ならしをしたコーティングがとれてしまうし、油かすなどの汚れが積層する前に、普通に洗ってしまうのがいいと思います」
―食器と同じように洗っていいというのは、鉄のフライパンの敷居がぐっと下がりました(笑)サビ対策は?
「サビ防止には、洗った後に空焚きをして水分を飛ばしておくこと。
もしサビがついてしまっても、金だわしでこすれば落ちるので大丈夫です。また油ならしが必要ですけどね。
使えば使うほどさびにくくなるので日常的に使うのがいいですが、しばらく使わない時は食用油を塗って、油紙などで包んでおくとサビにくくなります」
―最初に1回油ならしさえすれば、そんなに難しいことはないんですね。
「割と何しても大丈夫なんです。どうしても落ちないサビがついたり、落として変形してしまった場合も修理しますよ」
■はじめての鉄フライパン、使ってみました
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▲お母さんがつくったおやつみたいな素朴なホットケーキが焼けました
お話を聞いた後、羽生さんのフライパンを自宅で使ってみました。
はじめての鉄のフライパンで、まず焼いてみたのがホットケーキ。ナイフを入れるとカリッとして、中はふわっとした焼き上がりでした。
鉄にしか出せない色が味わい深くて、食卓に置いたり、キッチンにぶら下げてみたり、目に触れる場所に置いておきたくなります。
焦げ付きやすくなったらまた油ならしをすればいいし、サビてしまったら落とせばいい。買い替えることが前提だったフライパンへの考え方が変わりました。
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▲羽生さんいわく、テフロンとの差が一番出るのが卵料理。目玉焼きは白身がふわっとして、ソーセージはパリッとジューシーでした
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▲オーブン料理はそのまま食卓へ。次回は羽生さんに教えてもらった、ハンバーグを焼いてチーズをのせてオーブンでローストに挑戦する予定です
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