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22.12.07
《特別コラム》advintageが語る「ヴィンテージ時計の魅力」8 British Watch Reconquista スミスと英国時計の復権
advintage店主佐伯さんによる「ヴィンテージ時計」のお話をお届けする特別コラム。今回は、初めて英国製腕時計の量産に成功したともいわれる名門スミスと英国の時計産業にフォーカスします。トランクショーでも多くご紹介するスミス。ぜひ歴史とともにお楽しみください。
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■失われかけていた英国時計産業に光を与えたスミス
今回のトランクショーでは、かつてイギリスに存在した知る人ぞ知る英国のウォッチメーカー「スミス」社が中心となります。スミスは英国で唯一といってよい、腕時計ムーブメントの国内自社製造に成功したブランド。
その歴史は古く、1851年にサミュエル・スミス がロンドンで創業した宝飾品・時計販売店に始まります。スミスの腕時計は英国の登山隊によるエベレスト世界初登頂(1953年)で着用され、世界的にも高い信頼を獲得しました。
当時の腕時計産業は、今と変わらずスイス製一色。フランスの「リップ」社やドイツの「ユンハンス」社といった一部のローカルメーカーが、かろうじてフランス製時計やドイツ製時計を自国内で展開する程度でした。
英国においてはというと、実はスイスで時計産業が栄える17世紀末より以前から、時計製造においては先端を歩んでいました。一説によると英国の時計師トーマス・マッジが現代の機械式時計のムーブメントの基礎を築いたといわれており、19世紀まで英国には懐中時計の工房が数多く存在していました。
しかし20世紀に入ると、戦争による空襲などで多くの時計製造工場が破壊されるなどの甚大な被害を被り、第一次世界大戦後はほとんど全てのウォッチブランドはムーブメントをスイス製に頼らざるを得ない状況に追い込まれていました。英国のウォッチブランドであっても中身はスイス製、というものがほとんどだったのです。
その後二度の世界大戦を経て、時計、特に腕時計の重要性が認識されたことも相まって、戦後各国で国産時計製造が活発化します。そして英国における腕時計製造の国産化に成功したのが、先述したスミス社でした。
それまで中心だった懐中時計や置き時計、目覚まし時計といった機械式時計のほか、車載時計やメーター類などの航空・車両関係の機器などの製品ラインナップに加えて、1947年に初めてスミスは純英国製の機械式腕時計をリリースしました。
■リテイラーと共に築いた一時代
スミスの腕時計は、その豊富な自社製品のラインナップだけでなく、英国国内の宝飾品店を中心とするリテイラーの別注モデルの豊富さでも知られています。
それまで英国の宝飾品店はオリジナルの腕時計を販売していながらも、その製造はスイスのウォッチメーカーのOEMを通じて行われていました。しかしスミスが腕時計の、しかもスイスの名門ブランドに肩を並べるハイエンドな腕時計の国産化に成功したことが話題となると、英国の多くの老舗宝飾品店などがこぞってスミスにオリジナルの腕時計の製造を依頼しました。
その筆頭が、ロンドンの名門ジュエラー「J.W.ベンソン」です。かつては自社で懐中時計を製造していたウォッチメーカーでもあった J.W.ベンソンは、やはり戦争による爆撃で自社工場を失い、自社の腕時計商品の製造をスイスのメーカーに頼っていましたが、スミスによって数々の名品と呼ばれる腕時計が生み出されることになります。
こうしてかつての「腕時計王国」であった英国の腕時計産業は復権し、1953年のエベレスト初登頂によって文字通り頂点を極めたかのように見えましたが、1970年代にスイスを中心とする時計産業が日本の開発したクォーツ・ムーブメントによって席巻される、いわゆる「クォーツ・ショック」によってスミスの腕時計事業も撤退を余儀なくされることになります。
■今も色あせない逸品を集めて
およそ20年あまりという、非常に短い製造期間にもかかわらず、スミスは極めて豊富なバリエーションで腕時計を製造していました。
advintage では、その中から最もハイエンドでコンディションのよいものを抽出して集めています。今回のトランクショーでは、その中から特に人気の高いスミスの名機デラックスや「J.W.ベンソン」の依頼で製造した美しい腕時計を中心にご紹介します。
また今回はスミスと同じく英国を発祥とするウォッチブランド「チューダー」の腕時計や、こちらもスミス同様に自国産の腕時計にこだわりを持っていたフランス・ブザンソンのウォッチメーカー「リップ」の角形時計もラインナップに加えており、こちらも要注目です。
advintage で販売する腕時計は、すべてオーバーホールを行い動作保証を付帯しています。
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カテゴリ:エンベロープ