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23.02.20
《つくり手ファイル》今の暮らしに合わせた神仏具づくり/woodpecker福井賢治さん
かつては多くの家庭にあった、神棚や仏壇。時代とともに当たり前の風景ではなくなりましたが、神様や大切な人に手を合わせたい気持ちはいつまでも変わらないのではないでしょうか。今の私たちに合わせた神仏具をつくる、woodpeckerの福井賢治さんにお話を聞きました。
※woodpeckerの神仏具は2月24日(金)15:00よりご紹介します
■神仏具の木地師の家に生まれて
エンベロープでご紹介する神仏具をつくるのは、岐阜県のブランドwoodpeckerです。いちょうの木のまな板のメーカーといえば、「ああ、あの!」と思い当たる方もいらっしゃるかもしれません。
woodpeckerではまな板のほか、木の器や洗濯板など数々の暮らしの道具をつくっています。
その延長線から神仏具も手掛けるようになったのかな?と思ったらそうではなく、きっかけは代表の福井賢治さんが生まれ育った家にありました。
「私の家は、祖父の代から仏壇や神輿をつくる木地師の家です。
私も家業を継ごうと父親のもとで修業をしていたのですが、ちょうどその頃お祭り行事が減り、住環境の変化で仏間もつくられなくなり、仕事が激減してしまったんです」
「そうした時代背景もあり、どうしようかと考えていた時につくったのが、代表作であるいちょうのまな板です。そこからいろんな経緯はあるのですが、woodpeckerという屋号をつけて父のもとから独立しました」
以来、15年。無垢ならではのぬくもりある道具を制作してきた福井さんですが、神仏具への想いはいつもどこかにあったそうです。
「一歩外に出て、その大切さがわかったというのもあります。色んな人から、いい仕事をしてきたんですねって言われてるんですよ。みんな伝統文化の大切さはわかっているけれど今の家に合ったものが見つからず、取り入れるのに躊躇している。
少し時間がかかるかもしれないけれど、私たちの生活に合ったものをつくれたら受け入れてもらえるんじゃないかと思ったんです」
■時代にフィットしながら、でも伝統を忘れずに
制作にあたって大事にしたのが「今の暮らしに合うもの」、そして「伝統にのっとったものであること」。
大切にあたためてきた想いをかたちにするために、福井さんは信頼する二人に声をかけます。一人目が工業デザイナーの大治将典さん。もう一人が宮大工である小保田庸平さんです。
「大治さんは私が参加している見本市の運営者。私たちには神仏具に対して先入観があるので、大治さんならこちらの想いを受け取って、今の時代にあったものができるはずだと思いました。
そしてせっかくつくるなら本格的なものをと、祖父の代から仲がよい宮大工さんがいらっしゃるのでその方、小保田さんにお願いしました」
2019年11月、3人が手掛けた木曽檜の神棚が完成します。名前は「GIRIDO」(ギリド)。
まずはぜひ、扉が開閉する音を聞いてみてください。
「ギギギィ……」となる木の音。これは神社本殿の御扉に用いられるのと同じ伝統的な工法です。
「賽銭箱の後ろにある本殿の扉って閉まっていますよね。中にいらっしゃるのは神様だから、簡単にお目にかかれる存在ではないからです。
特別な時だけ開け閉めされるのですがその時に扉がギギギってなるようになっていて、これを職人用語で『ギリ戸』といいます」
ギリ戸は金具を使わない、ほぞ組の製法です。上下にほぞ穴をつくり突起(ほぞ)を差し込んで接合します。穴が丸に対し、ほぞは四角。なので、音がなるまでのみで角を落としていきます。
穴と突起の接触で音がなるので、ちょうどいい塩梅に削る職人技が必要です。今日明日の経験でできることではなく数々のギリ戸を手掛けた小保田さんの経験が活きています。
ちなみに扉は上下で音が出るようになっていて、片方だけしかなっていない場合、職人さんはわかってしまうのだとか。
■つくるなら、木曽檜で
GIRIDOリリースの2年後に完成したのが、仏壇「OGAMIDO」(オガミド)です。本棚に収まるサイズの仏壇は、収納家具のようなシンプルな意匠。ここにも職人技が宿っています。
その一つが、両手で開け閉めする扉。二つの扉を重ねておいて、両手で同時に閉めるのは昔ながらの作法。それが拝む姿を思わせることから、その名がつけられました。
「一般的に扉には蝶番という金物をつけますが、木の美しさを全面に出したかったのでつけていません。神棚と同じほぞ組の工法で差し込んでいます」
「扉を開けた時に白木だけが目に入るよう、閂(かんぬき 扉を閉めるための横木)を固定する金具も見えないようデザインしました。
外からは何も見えないのになぜか閂が回転するつくりは、設計のこだわりと職人の技なんですよ」
細部に見られる熟練の技は、素材の魅力を活かすためといってもいいかもしれません。
神棚にも仏壇にも使われているのは木曽ひのき。岐阜と長野の間に位置する木曽地域のひのきは伊勢神宮もそうですし、神社仏閣に使われてきた材です。
そこにあるだけで、なんだか大きな存在に見守られているような安心感。鉋(かんな)でなめらかに仕上げられた木曽ひのきの神仏具には、そう思わせる神聖さがあります。
■今の私たちの祈りのかたち
「そもそも仏壇はお洗濯といって洗うことができるもの。ばらばらにして建付けを直して、金箔や漆を塗って新品同様にすることができるんです。うちの父親もそうした商売をしていました。
でも今の時代、大きな仏壇が置けないから処分したいという声も聞きます。代々受け継がれていく文化が廃れていくのは残念なことです」
神様に感謝すること、ご先祖様に手を合わせることがそもそもどういうことなのか。制作にあたり本質の部分を大切にするために、お寺の住職に話を聞くなどあらためて伝統を学んだそうです。
「昔からのしきたりはいろいろあるのですが、それが難しいから置かないのではなく、無理のない範囲で伝統を守っていけばいいですよと、どの住職さんもおっしゃっていました」
「神仏具シリーズはその方のライフスタイルに合わせて使ってもらえたら。
毎日お参りをするのは難しいかもしれないけれど、手を合わせたい気持ちがある人に伝わったらいいなと思っています」
写真・動画提供:woodpecker(1、2、4、5、6、10、16枚目)
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