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23.06.07

《つくり手ファイル》荷物ではなく、持つことがうれしい傘。小宮商店のものづくり

天然素材でありながら一級遮光。おしゃれも日焼け対策もおまかせあれの「小宮商店」の日傘。きれいなお椀のかたちを描く折りたたみは、一針一針職人の手でつくられていました。

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■80代が今も現役。脈々と引き継がれる、職人技 

小宮商店の創業は1930年。

現在は30代から80代(最高齢は86歳!)まで10人の職人が在籍し、その中には東京都認定の伝統工芸士も。

ベテランがその熟練の技を伝承し、90年以上の伝統が今に引き継がれています。

▲東日本橋の店舗・工房にお邪魔しました

「どんなに経験をつんでも、これでいいっていうところはなかなかないものなんです。

ベテランの職人でも、ブラッシュアップしているんですよ」

というお話の通り、小宮の職人さんたちは日々技を磨きながら、新しいことへの取り組みも積極的。

エンベロープで扱う一級遮光の傘もそのひとつ。紫外線対策の意識の高まりを受けて6年ほど前に誕生しました。

▲UVカット率99.9%以上・遮光率99.99%以上。しかも表地は天然素材で自然な風合いです

■今もなお手作業で

ここからはエンベロープで紹介する日傘ができるまでをご覧ください。

職人歴12年の田中一行さんが制作風景を見せてくれました。

(1)裁断
まずは作業台に生地をくるくるっと広げて、裁断します。

▲8本骨の傘だから三角のパーツを8枚用意します

生地に当てているのは木型。

これが「傘づくりの命」といえるほどとっても大事なもので、職人が傘一種類につき一台つくりおろしています。

一見三角形に見えますが、両辺をよーく見るとカーブしています。このゆるやかなアーチが傘のきれいな丸みをつくっているんです。

▲よい傘になるかは全て型次第

何でもなさそうに田中さんがすーっとカットしていましたが、伸びにくい生地なので刃をうまく動かさないとこうはいきません。

(2)中縫い

お次は8枚のパーツを縫う作業。

こちらの足踏みミシンを使うのですが、あるものがありません。

それは下糸。珍しいですよね。

▲「単環縫いミシン」というそうです。なんと生産終了のため、部品が壊れたら手づくりで代用してるそう

というのも洋服のように上糸×下糸で縫うと、傘がスムーズに開かなくなってしまうんです。

そこで上糸だけで縫うことで気持ちよく開閉し、シルエットもきれいに出るというわけ。

▲こんな風に鎖目に縫うことで伸び縮みします

田中さんの手元を拝見すると、上から下までぴったりと気持ちよく揃ってました。驚くことに、しつけ縫いなしです。

「僕も最初はびっくりしました。全てはその人の感覚なんです。

教えてもらうのは、あくまでもミシンの踏み方だけ。最終的にこのかたちになっていればよいので、つくり手の運び方次第なんです。

なので、その人にしかできないやり方ができてくるんですよ」

▲ここでカバーが完成。なつかしのノッポさんの帽子みたいなかたちです

(3)口とじと・中とじ
このあとは針仕事。

お裁縫と同じように針と糸と糸切ハサミが登場し、傘骨にカバーを取り付けます。

不慣れな人では針でケガをしてしまうこの工程。何しろ加工生地は簡単に針を通してくれないのです。

「場所によって4枚の生地が重なるので、力でやろうと思うと手に汗をかいてしまって……慣れるまで苦労しました。

そしてラミネート加工生地の怖いのが、誤って針を刺してしまうとふさげないところなんです」

となると、ここまでの作業が水の泡に……。それは心が折れてしまいますね。

▲ほぼ傘のかたちになりました。雨漏りを防ぐパーツの取付、カバーの制作などなど、ここでは書ききれませんが実は他にも細かい工程があります

■美しい傘ってどんな傘?

そして最後の仕事が折りたたむこと。つくりたてを最初にたたむのって、実はすごく大変な作業なんです。

「何のガイドもなく、かつその後のガイドになるものなので1時間以上かかる場合も。

ここでいい加減なたたみかたをすると、今までやってきたことが無駄になってしまうので気が抜けないんですよ」

そう話す田中さんに、いい傘とはどんな傘かたずねると、こんな答えが返ってきました。

「傘は用の美だと思うんです。

まずは開きやすさやたたみやすさがあって、はじめていい傘のステージに立てるもの。その上でさりげない美しさがあるのが、いい傘なのだと思います。

ここからここまで(石突きから露先まで)の大きさは決まっているので、その中に美しさを落とし込むのが何よりやりがいです」

海外の量産メーカーでは誰がつくっても同じものができるよう分業制が多いのに対し、小宮商店では基本的には一人の職人が担当。

美しさを大切にしているから、このかたちをとっているのだそうです。

さて、その後傘は店舗に運ばれ、販売・修理を担当するスタッフが持ち手をつけて完成となります。

そう、つくる人だけでなく売る人もみんなが傘のプロなのです。

▲暖簾の向こうが作業スペースです

このとき、小宮商店の商品として世に出してよいのか見極めて、合格したものが旅立つのだそう。

職人の腕にかかっている傘づくりですが、こうした基準があることでそのクオリティは変らずに保たれているのです。

■傘づくりがなくならないために

かつて、ここ東日本橋に70以上あった傘専門店。現在はわずか数件になり、全国的にも数少ない存在になりました。

「今、日本に流通する傘の99%が海外でつくられたものなんですよ」とは営業担当の小山剛さん。

「独立した傘職人は傘1本いくらで請け負うんです。でも海外の物が増え、それでは商売にならなくなり、若い人が後を継がなくなってしまいました。

そんなこともあり小宮では傘づくりの伝統が途絶えないよう、職人を育てているんです」

お話を聞きながら思い出したのが、100円ショップが登場するはるか昔のこと。

商店街には傘専門店があってデパートの1階には色とりどりの傘がずらっと並んでいました。

あの頃、傘は使い捨てではなく装いの一部としてもっと大切にされていたものです。

小宮商店がつくるのは「荷物になるからイヤではなく、持つことが嬉しくなるような傘」。

雨降りや炎天下。傘が必要な日のお出かけは億劫なものだけど、そんな傘を持てたら、憂鬱さを晴らしてくれることでしょう。

カテゴリ:エンベロープウェルビーイング, つくり手ファイル

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