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25.09.15

《つくり手ファイル》使う人とのほどよい距離感/JOURNEY草薙亮さん

エンベロープの秋の恒例イベントといえば、JOURNEYの「革の手帳受注会」。デザインや素材を選びながら私仕様の1冊をつくるオーダー会も、今回で9回目。この度新たな拠点をかまえた主宰の草薙亮さんに、あらためてものづくりについてうかがいました。

■新しい拠点へ

この夏JOURNEYが引っ越したのは、埼玉県川口市の複合施設「セブンアート」。

店内に入ると、カフェや木工店、ベーグルショップなど日々を彩る店が長屋さながら流れるようにつらなっていました。

▲セブンイレブンの跡地につくられた、その名も「セブンアート」


木の扉を開けて入る秘密基地のようなお店から一転こちらは解放感がありますが、工房併設のスタイルは相変わらず。よりお客様がものづくりの気配を感じやすい設計になっています。

▲手前がショップ、右手奥にちらっと見えるのが工房です


「工房は工房としたほうが、作業はしやすいのかもしれないですけどね。つくっている風景がちゃんと見える方がいいと思って」と草薙さん。

作業の途中でも、お客様の姿が見えたらすぐに声がかけられるこの距離感。

店番をしながらものづくりをしたいという想いからはじまった、JOURNEYの新しい章のスタートを感じました。

▲新店の内装は3人のスタッフみんなで壁をつくったり床を貼ったり。トイレも制作したそう

■声の届きやすい場所で

この日は打合せもかねてお邪魔しました。
毎回感じるのが、JOURNEYのアイテムにはお客様の要望が活かされているということ。

例えばとある財布。当初は小銭入れが大きく開くボックスタイプの予定だったけど、「かえって取り出しにくいんだよな」という声が。仕事で集金をするお客様だそうです。

日々頻繁に出し入れするから、小銭が平らに寝ていると1枚ずつ取るのが面倒なのだとか。


「ボックスタイプはボックスタイプで中身が見渡せるメリットもあるんですけどね。そういう考えもあるんだって今の設計にしたんです」

ここでスルーせずに向き合うのが草薙さんらしい。


さらにはお客様のリクエストから誕生したアイテムもあったり(商品名はその方の名前が由来になっているのですよ。なんとうらやましい)。

JOURNEYのお客様は、バッグでも革小物でも欲しいものがあったらまず草薙さんの顔が浮かぶんじゃないかな。

こんなお店が近くにあるってしあわせだなと、あらためて思ったのでした。


私たちの受注会でもこちらの希望を積極的にくみ取ってもらっています。これがとてもありがたくて。

というのも、みなさまにご紹介したいものってそう簡単に巡り合えるわけではないのですよね。「ここがこうならドンピシャなのに惜しいなぁ」なんてこともよくあるのです。

▲というわけでこちらの長財布はエンベロープのお客様に向けて、従来のモデルをちょっぴりスリムに。気に入っていただけますように……!


自身について「作家とは思っていない」という草薙さん。つくるのは自分が表現したいものではなく、人とのつながりから生まれるもの。

「これだけ世の中にものがあるのに、人がものに合わせるのはなんだか変な気がして。

つくる人と使い手との距離が縮まるといいなって思ってます」

■今もサドルステッチで

前回の取材から年月が経ち、環境は変わったけれど変わっていないこともありました。例えば製法。今もJOURNEYでは手縫いが採用されています。

手縫いといっても、一般的な縫製よりもさらに手が込んだサドルステッチ。

2本の針を使って両側から縫っていく伝統的な製法で、裏から見ても美しい仕上がり。たとえ1か所切れても、全部がつつーっとほどけてしまう心配もなし。


「バッグの一部にミシンを使っているものもあるけれど、基本は手縫いです。『どうしてわざわざ手縫いしているの?』と驚かれることもありますよ。

まあ、つくれる量が違いますからね。財布でいうと3~5倍は違うんじゃないかな」


「ミシンに切り替えようかと何度も思いました。

でも手だとコントロールしやすいんですよ。縫い直すときも同じ穴にさせますし。

あと、やっぱりミシンだと裏側など目に触れない部分まで丁寧に仕上げられないから。つくり手にしかわからないことですけどね」


「大したアイデンティティがなくて、ごめんなさいね」インタビュー中にそう困ったようにおっしゃっていた草薙さんだけど、いやいやめちゃくちゃこだわってます。

長く使ってもらえるように、不具合が出ても直して再び使えるように、そのための手間は惜しまずに。それを自然体でやっているのがJOURNEYのものづくりなのです。

■つくったあともつづく関係

最後に、あらためて手帳についてご紹介しますね。

JOURNEYの手帳は革の種類やデザイン、中身などを選びながら、自分のための1冊を仕立てるというもの。

ユニークなのが、使い終わったら中の紙を翌年用に交換してくれること。だから次の年も、その次の年もずっと使いつづけられるんです。


今年もあとひと月ほどすると、お店にはぞくぞくと革の表紙が届くはず。里帰りするように「ただいま」と戻ってくると、胸がいっぱいになるのだそう。

「やはりうれしいものですよ。

リングをはずして郵送するなんて、手間がかかることをやってくださるのだから、ありがたいことです」


つくって終わりではなく、その後も続く関係を築きたい。

そんな思いから始まった取り組みは、年月を重ねて少しずつ形になってきたと草薙さんは振り返ります。



長くつづく関係といえば、ライフスタイルの変化に合わせて手帳のリメイクオーダーが入ることも。こちらがその一例。

名刺ケースとして新しい命がふきこまれました。

▲before
▲after *エンベロープでも小さなノートにつくり替えるオーダーを承っています


持ち主ごとに違った味わいが出る革製品は、プロダクトの中でも愛着がわきやすいもの。つくり手とのつながりがあれば、より一層その想いは深まるのではないでしょうか。

エンベロープでの受注会は9月19日(金)からスタート。
私たちも終わらせてはいけないという思いで歩んできたので、こうして続けさせてもらえることに、みなさまにも JOURNEYにも感謝の気持ちでいっぱいです。


《JOURNEY 受注会》
●革手帳・手帳カバー
2025年9月19日(金)~9月26日(金)
●革バッグ・革小物
2025年9月26日(金)~10月8日(水)


カテゴリ:エンベロープセレクト, つくり手ファイル

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