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掲載日:19.09.04
《特別コラム》advintageが語る「ヴィンテージ時計の魅力」6
advintage店主佐伯さんが語る「ヴィンテージ時計」のお話をお届けします。今回フォーカスするのは、文字盤。それも「文字盤装飾」についてです。普段なかなかそんなところまで見ることはないかもしれませんが、ヴィンテージウォッチというものは「ここまでやるか」というくらい細部にまでこだわってつくられています。
■スミスやロンジンに見る、文字装飾
まずは後にも先にも史上唯一といっていい英国製腕時計ブランド「スミス」から。スミスの腕時計には、一般的ななめらかな表面の文字盤だけでなく、さまざまなデザイン性のあるテクスチャーを持つものが散見されます。
こちらの2点はその最も代表的なモデル。ホリゾンタルラインと呼ばれるランダムな水平線が無数に刻まれたものと、それとは反対に規則正しく格子状の文様が刻まれたもの。
いずれも遊び心と品格が融合した、スミスならではの美しい装飾と言えます。
つづいてはこちらの「ロンジン」。英国市場向けということで9金無垢のロイヤルゴールドのクッションケースを採用したクラシックな一本ですが、文字盤は陶器の板を用いたいわゆる「ポーセリンダイヤル」です。
白磁特有の乳白色は、美しく映えるブルースチールの針と絶妙なマッチングで、しかも日焼けしたり汚れたりすることが一切ありません。
そのためこの乳白色も80年前のままを維持しているということになります。懐中時計のディテールが腕時計にそのまま用いられたもので、1900年代初頭の腕時計には比較的多く見られました。
■インデックス装飾のスタイル
今度は文字盤の中でも特に目を引く、インデックスの装飾について。
インデックスとは主に時間を表す数字やモチーフを意味していて、主にアラビア数字やローマ数字といった数字類、それが抽象化されていくと数字の代わりにクサビ形モチーフやドットなどがあしらわれるようになります。
そのスタイルも様々あり、最も一般的なのは文字盤に塗料でプリントされたものですが、より高級感を演出するために数字やモチーフを立体的に仕上げられたものがあります。その方法はいくつかあり、まず挙げられるのがエンボスで立体的に浮き出たように成型されたもの。立ち上がりのあるスタイルから「アップライトインデックス」と呼ばれます。
これらアップライトインデックスの多くは、トップ部分をゴールドやシルバーでコーティングされています。
特にこちらの「J.W.ベンソン」はローマ数字やクサビだけでなく、二重に描かれた円周までもがエンボスで立体的に仕上げられているのが特徴です。こうした広範囲のエンボス仕上げは他に類を見ません。
インデックスを立体的に見せるもうひとつの方法は、インデックスそのものを別パーツとして文字盤に植え付けるというもの。「アプライド(Applied)インデックス」と呼ばれるスタイルです。
このスタイルは主にアメリカンウォッチで多く見られ、こちらの「ハミルトン」の腕時計がまさにそれ。前述の「アップライト(Upright)」インデックスと似ていますが、文字やモチーフの立体感が一層際立っているのが特徴です。
ちなみにこのモデルの場合はステンレススチール製のケースに合わせ、針類とインデックスが銀色に統一されています。
■エテルナの奥行きある文字盤
つづいて、特に英国時計に多く見られる、やや特殊なツートーンダイヤル。
こちらは「エテルナ」の腕時計ですが、文字盤を真正面から見た1枚目と、斜めから見た2枚目。文字盤を見る角度を変えると、その外周部分と内側の部分とでトーンが変化するのが分かります。
これはそれぞれ表面の仕上げを内と外とで微妙に変えており、それによってこのような奥行きのある文字盤が生まれるのです。
■白磁の釉薬を用いたハーヴェル
最後にこちらの「ハーヴェル」の腕時計が持つ、非常に珍しい文字盤装飾をご紹介します。
グレーダイヤルと文字盤外周部のホワイトの配色が印象的なツートーンダイヤルですが、このホワイト部分に秘密があります。
単純なホワイト塗装ではなく、このホワイトの素材がポイントです。実はこのホワイトは、ホワイトエナメル、つまり白磁の釉薬が盛られてでできているのです。
そのためグレー文字盤からホワイト部分がやや盛り上がっており、文字盤に一層リッチな雰囲気を演出しています。
またよく見ると、時分針やスモールセコンドの秒針にも同様のホワイトエナメルが盛られているのが分かります。
グレーダイヤル上でコントラストを際立たせ視認性を確保するのがその狙いですが、見た目にも大変美しい装飾であることはいうまでもありません。
カテゴリ:エンベロープ