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17.12.13

《つくり手ファイル》時計作家大護慎太郎さん

ともに時を重ねるうちに私らしく育っていく――。エンベロープで紹介している洋服にぴったりと馴染む腕時計を見つけました。つくり手は時計作家の大護慎太郎さん。吉祥寺にあるアトリエショップ「atelier coin」を訪ねました。

■時が美しく育てる、手づくりの時計

トントントン…小さな時計店には金鎚の音がリズミカルに響いていました。

この場所で手づくりの腕時計は誕生します。

▲商店街通りから一歩入った路地に佇む時計店「atelier coin」。リプロダクトの掛け時計や置時計そして手づくりの腕時計。店内には時にまつわる作品が並び、それぞれの時間を刻む

大学で金属を叩いて加工する「鍛金」を学んだ大護慎太郎さんの時計には、真鍮や銀が使われています。素材そのものが生かされているのは、エイジングを楽しんでもらうため。

「使っていくうちに劣化していくのではなく、味わいが出てきます。時間とともに育っていくさまを楽しんでもらえたら」そう大護さんは話します。

金鎚の鎚目や天然皮革のベルトもまた風合いが増し、新品にはない美しさを纏う腕時計。それは私たちがずっと探していたものでした。

▲高校生の頃から時計をつくりたいと思っていたという大護慎太郎さん。美大で鍛金を学び、卒業後に手づくり腕時計の先駆者篠原康治さんのもとで制作を学ぶ

■ものづくりの要素が詰まった、制作風景

制作の様子を見せてもらってわかったのが、時計作家は器用でなければつとまらないということ。

金属に装飾を施している時はアクセサリー作家のようだし、ベルトを縫っているところは革職人のよう。文字盤をデザインしている姿はさながら画家みたい。一人で何役もこなしながら、腕時計はできあがります。

大まかではありますがその工程をご覧ください。

【ケース・バックルづくり】
ケースやバックルは全てオリジナルデザイン、金鎚で叩きながら模様をつけていきます。
細かい手仕事の痕跡が、作品に温かみを添えます。

【文字盤づくり】
時計によっては、印刷された文字盤に色付けするものも。一つ一つ筆で塗られた数字はふっくらと立体的、手塗りだからこその滲みがいい雰囲気です。

【ロウ付け】
金属同士は銀のロウを流し込んでつなぐ、昔ながらの技法で接合。熱することで生じた黒い不純物を除去し、ブラシで磨いてきれいに仕上げます。ちょうどいい道具や部品がない時は自分でつくる大護さん、ロウ付けのセットも自作です。

【組み立て】
ムーブメント、文字盤、ケース、裏蓋、レンズ、針、その針を動かすつまみなどなど腕時計には細かい部品が沢山。全てがぴったりと合うように、あちこち微調整しながら組み立てていきます。

▲ムーブメントにホコリがつかないようにカバーをして

【ベルトづくり】
ベルトの素材は、イタリアトスカーナの職人が植物性タンニンでなめした天然皮革。菱目で穴を開けて手縫いします。デイリーな使用にも耐えられるよう、針を交互に通しながらしっかりと縫製。

▲ベルトを通して、世界で一つだけの完成。裏側にはシリアルナンバーと制作した日付が彫刻されている

■なぜ、時計だったのですか?

ものをつくる仕事の中でも、腕時計はちょっと特別かもしれません。使う人と一緒に時を刻む関係は密接。
そもそもなぜ時計だったのでしょうか。

「時計を組み立てて、電池を入れたりねじを巻けば動き出す。すごく大げさに言えば、命を吹き込むみたいな感じに惹かれたんです。

嬉しいなと思うのが、メンテナンスで持ってきてくれたお客さんから時計と一緒にこんなところへ行ったんですよという話を聞いたとき。自分の知らないと場所へ旅立って、また戻ってくる。売って終わりではなく、そのあともつながっていられるのは、時計ならではなのかもしれませんね」

▲3年ほどの月日が経った時計。変化の仕方がそれぞれ違うのが面白い

■エンベロープが選んだのはこの3本

今回ご紹介するのは、大護さんによる手作り腕時計のブランド“JOIE INFINIE DESIGN”よりこちらの3本。

左から筆で色付けたしたインデックスが味わい深い「CUSHION」、裏蓋に見える自動巻きのムーブメントが機械好きの心をくすぐる「LINE」、アンティーク時計のように育っていく楽しみが味わえる「NEUTRAL」です。

時そのものを楽しむことを大切につくられた時計は、人生をより豊かにしてくれるもの。ともに過ごす相棒としていかがでしょうか。

カテゴリ:エンベロープ, つくり手ファイル

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