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17.06.23
《つくり手ファイル》日常を絵画のように切り取って/atelier mado 山﨑まどかさん
映すものを絵画のように切り取る、ステンドグラス作家山﨑まどかさんの鏡。オーナメントから発展させてつくられたその作品は、そこにあるだけで美しく、身だしなみの時間を特別なものにしてくれます。
■ガラスそのものの美しさを表現
―ステンドグラスというとカラフルなものしか見たことがなかったのですが、山﨑さんの作品は氷のように繊細なのが印象的でした。
「子どものころから、冬の朝うすく張った氷を手で持ち上がて太陽の光にかざした時の輝きや、溶けかけた氷の歪んだ表面の感じ、手の上ですぐに消えてなくなってしまう雪の結晶の儚さなどに美しさを感じていました。そのとき純粋に綺麗だなと感じた想いを、ガラスの美しい表情に置き換えて表現したいという思いがあるのかもしれません。
私もそうでしたが、ステンドグラスというと教会のイメージが強いと思います。でも使うガラスやデザインによって印象が変わり、現代的なスタイリッシュな建築にも歴史のある古い建物にも似合うんですよ。そんな幅広い親和性を持ったところも、もっと知っていただけたらうれしいです」
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ステンドグラスの世界に入る前は、大学でガラス工芸を学んでいた山﨑さん。「ガラスって大きな塊をカチ割るとロックアイスのようになったり、粉々にすると雪のようなサラサラなパウダー状になったり、溶かすとドロドロの溶岩のようになったりと、とても面白く変化するのですが、大学時代はそんな温度や加工によって姿を変えるガラスの表情に魅せられていました」
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ステンドグラスには主にヨーロッパのアンティークガラスを使う。物自体が古いのではなく、昔ながらの吹きガラスの技法でつくられる板ガラスで、個体差があるため制作のしづらさがあるが、表情の豊かさはそれにも勝る魅力があると言います
―ステンドグラスの魅力はどういったところにあると思いますか。
「季節や時間の移ろいの中で、表情豊かな光を感じさせてくれるところです。冬の夕暮れ、一瞬射した夕日にガラスがとても幻想的な顔をしていたり、床にきれいな硝子の影がのびていたり。そういう予期せぬ美しい光景を見せて、あたたかな気持ちにさせてくれるんです。空間のなかでステンドグラスが主張するわけではなく、そこにあることで心地よくなる。そんな風に感じてもらえる作品をつくっていくことができたら幸せです」
■ステンドグラスのオーナメントから生まれた鏡
-今回エンベロープでご紹介する鏡は、どのようなきっかけで生まれた作品なのでしょうか。
「5年前神戸でステンドグラスのオーナメントの展示会を行ったのですが、そのときに鏡でオーナメントをつくったところ〝これを手鏡として使いたい〟とおっしゃるお客様が何人かいらしたんです。そのままではちょっと使いにくいデザインだったこともあり、それなら一度ちゃんとした手鏡をつくってみようと思い立ってデザインしたのがはじまりでした。
翌年の展示会で手鏡が加わり、評判がよかったのでこれをもう少し大きくしたようなウォールミラーもあったら嬉しいねというお話になり、その翌々年には同じシリーズの壁鏡が生まれました」
-それぞれかたちが違って美しいラインが目をひきます。何かをモチーフにしているのですか。
「デザインするにあたり、アンティークの鏡や器、海外や日本の古い装飾的な扉や窓、紋章、生地の模様や室内装飾品など、目にとまった気になる美しいと思ったラインやかたちをたくさん描き出し、ガラスカッターで切り出せる無理のない曲線で且つ手鏡として持ちやすいかたち、壁鏡として見やすい大きさなどを探りながらデザインしていきました」
-独特な雰囲気があるのですが、どんな素材を使って、どのようにつくられているのでしょうか。
「特別なものは使っていなくて、素材はごく一般的に使われている3mmの鏡を使用しています。フレーム部分はハンダ=合金を使っています。
まず、鏡を型紙に合わせてガラスカッターという先に回転する刃のついたペンのような道具で切り出し、手で持った感じがなめらかになるように機械で少し削ってかたちを整えます。つぎにカッパーテープというランプシェードなどをつくるときに使われる銅でできたテープを縁に巻いていき、そのテープの上をハンダづけして縁の金属部分をつくっていきます。最後にハンダづけした縁の部分を薬品で染めて、磨き上げ、仕上げに裏面の保護のためのシートを型ごとにカットして貼り付けて完成です。
よくガラスは機械みたいなものでカットしていると思われることが多いのですが、とてもシンプルな道具でフリーハンドでガラスの表面に傷をつけて〝切る〟というよりは〝割る〟という感じで切り出します」
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ウォールミラーのリボンを掛ける金属部分は、銅線をカットして曲げてつくられています。手鏡を包む布もまた、生地の目にそってカットしてひとつひとつタグが縫い付けられているもの。大切に鏡を包み、リボンを結んでお届けします。
ステンドグラスの作品同様、大きな声で存在を主張しないけれど、ただ静かにそこにあるだけで日常を特別な風景にしてくれます。
■山﨑まどか
大学でガラス工芸を学び、ステンドグラス作家に師事。
独立後は神戸に工房atelier madoを構え、建築パネルから小さな作品まで手がけ、
ガラスそのものの美しさをいかした、新しい感覚の作品を制作。
ワークショップや教室も開催している
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