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20.09.15

《つくり手ファイル》オーガニックコットンをファッショナブルに/Souple Luz廣畑美由紀さん

「オーガニックコットン=素朴でナチュラル」そんな私たちのイメージを覆したのが、Souple Luz(スープレルース)のアンダーウェアでした。女性ならではの美しさを引き出してくれるシンプルなラインと色使い。そのどれもが、好きな服を身に着けた時のような装う喜びをもたらしてくれるのです。つくり手である廣畑美由紀さんにお話を聞きました。

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■オーガニックコットンに魅力を感じて

▲六本木のほど近くとは思えない、喧噪を離れた路地裏。そこに佇む洋館造りの集合住宅にあるアトリエにお邪魔しました

Souple Luz のはじまりは、2007年。学生時代に編み物と服づくりを学び、アパレルメーカーでカットソーのOEMデザインに携わる廣畑美由紀さんが自身のブランドの素材に選んだのがオーガニックコットンでした。

オーガニックコットンとは3年以上化学薬品を使用していない畑で、農薬や殺虫剤、化学肥料を使わずに育てられた綿花のこと。

自然に枯れるのを待ってから収穫されたコットンは、薬によって繊維の中の空洞が損なわれていないので、ふんわり。吸水性と速乾性も兼ね備えています。

今でこそ耳にするようになったオーガニックコットンですが、それでも綿の生産量の内訳をみるとごくわずかなのだそう。13年前ともなると、さらに知る人ぞ知る存在だったはずですが、様々な生地に触れてきた中で、肌触りや機能性、人や環境に優しいことなどあらゆる面からこの素材だと思ったそうです。 

「当時もオーガニックコットンのアイテムはあったのですが、染めない生成りのものが主流でした。

ただ、染めないとなるとどうしてもファッション性が出しにくいため、もう少しシャープなデザインで、きれいな色のものをつくりたいと思ったのです」

■スーピマコットンのよさが活きるように

Souple Luz が大切にしていることの一つに、「単一綿でのものづくり」があります。あまり聞き馴染みのない「単一綿」という単語ですが…

「コーヒーに例えるとわかりやすいでしょうか。コーヒー豆のように、綿も様々なものをブレンドして糸にしているんです。

ブレンドのよさもあるのですが、コーヒーでいうところのシングルオリジンのよさもあるんですよ。やはり、その綿の特長が一番強く出せるのは単一綿ですから」

それだけ廣畑さんが惚れ込む綿はスーピマコットンという品種、繊維がとりわけ長いのが特徴です。

「スーピマコットンは肌触りがいいのはもちろん、とてもしなやかです。引っ張りにも強いのでランジェリーにぴったり。光沢感があって、発色性もいいのできれいな色に染められます」

全綿花栽培のうちスーピマコットンの生産量は約1%だといいます。有機栽培となると、より一層希少なのは明らか。

さらにSouple Luz ではその中でも細い糸を使用しているので、華奢でありながらしなやかな仕上がりに。一つの素材の力だけで、いくつものよさを兼ね備えたアンダーウェアをつくることができます。

▲大阪の大正紡績所によって紡がれた糸は、手紬のような味わい深さがあります。生地を光にかざすと独特なムラ感があり表情豊かです

■どんな人にもなじむ花束のように

素材だけでなく、色使いもアイテムを形づくる大切な要素です。

「下着といえば可愛らしい色やベージュが多いので、もう少し違う色が欲しかった」 という廣畑さん。定番カラーのラインナップはブラック、ホワイト、グレーそしてココア。どれもアウターからのぞいても違和感がありません。

中でも私たちにとって新鮮だったのが、ココアです。決して薄くはない茶色なのに透けが気になりません。肌色以外に透け防止の色があったとは…

「ココアは染工場泣かせで、同じ色がなかなか出てくれないんです。他の色のように水ではなく温度をあげて染めていることもあり、 縫製も丁寧に行わないといけなくて 。乾燥のひどい真冬は特に生地に穴があきやすいので、ミシンの脇で大型のスチームを焚いてやってもらっているんですよ 」

▲こちらが「ココア」。手間はかかるけれど定番として大切にされている色です

もう一つ色について驚かされたのが、コレクションごとに登場するシーズンカラーでした。 ボタニカルダイという手法の植物染なのですが 、見てください。こんなにきれいな色。

▲2020AWのシーズンカラー「マルベリー」です

植物から抽出した色素(マルベリーの場合桑の実)をマイナスイオンを用いて余すことなく吸着させるので、これほどきれいに発色するのだそう。植物染めというと昔ながらの草木染めの素朴なイメージしかなかったのですが、この方法により鮮やかな色も出せるのだとか。

「植物から抽出した色素は化学染料とは違い粒子の大きさが様々なので、いろんな角度に反射して奥行きのある色になるんです。

誰でも花束を持つとどんな色の花でも馴染みますよね。それと同じで、 ボタニカルダイは肌に馴染みやすいので普段着ないような鮮やかな色も取り入れられるんですよ」

▲どの植物の色にするかは、その時の心の声を聞きながら決めます。アトリエの庭には、元からあった植物と廣畑さんが植えた植物がともに夏の光を浴びていました

■小さいブランドだからできること

紡績も染めも縫製も、すべて日本で行われていることについて、廣畑さんは「メイドインジャパンを大切にしたかった」といいます。

「海外で安くつくる方法もあるけれど、日本の技術や職人さんを守りたいという気持ちがあるんです。

長年この仕事をしていますが、繊維の国ともいわれていた日本の繊維業界は年々縮小傾向です。食べられないからと後を継ぐ人がいなくなり、自分の代で終わりにするという職人さんをたくさん見てきました。

技術が継承されなくなると、すばらしい生地もつくれなくなってしまう。 顔が見える人とともにつくりたいと思うんです」

オーガニックコットンもそう。日本で商業ベースでの綿栽培は行われていないため、こちらはニューメキシコ州でつくられていますが、より多くの人にオーガニックコットンを使ってもらうことで少しでもつくる人や環境保護につながればと考えているそうです。

いいものをつくる人を守っていきたい。Souple Luz のものづくりの根底にはそんな思いがあります。

「目が届く範囲となると、大きいブランドだとどうしても難しいもの。小さいブランドだからできることってあると思うんです」

デコラティブではないのに随所にエレガントさを感じさせるデザインと、美しい色使い。そして身に着けた時に感じる快適な肌触り。

ファッション性を重視したものづくりの背景にあるのは、ナチュラル志向の人だけではなく、幅広い層にオーガニックコットンのよさ 日本のものづくりのすばらしさを知ってほしいということ。 思わず手に取りたくなる美しさと、身に着けた時の心地よさから、そんな思いが伝わってきます。

▲フランス語とポルトガル語からの造語で、しなやかな光を意味するSouple Luz。窮屈な思いをせずにありのままで身に着けられて、 自分自身の光を肯定したくなるようなアンダーウェアです


カテゴリ:エンベロープ, つくり手ファイル

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