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23.10.09

《つくり手ファイル》睡眠を学びつづけ、羊毛のすばらしさを伝える/ビラベック 藤橋 徹さん

ドイツ生まれの羊毛ふとんビラベック(billerbeck)の寝具を販売しながら、ときには睡眠環境・寝具指導士として「よい睡眠」の啓蒙を行う藤橋徹さん。ビラベックとの出合いや、天然素材の寝具をすすめる理由について話を聞きました。

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■ビラベック日本代理店のはじまりは光学機器の輸出から

1921年、今から100年前にドイツで生まれたビラベック(billerbeck)の寝具。日本での取り扱いはどのようにスタートしたのでしょう。

「当時は羊じゃなくて、羽のお布団をつくる会社でした。ドイツ人は人名が会社名になることが往々にして多く、ビラベックさんが兄弟で興したのがはじまりです」

▲ビラベック営業部長の藤橋徹さん

「ドイツの都市フランクフルトから南に100キロ行ったところに、ビラベックのヘッドオフィスと工場があります。近くには観光名所のハイデルベルグだとか、綺麗な街や丘があったりというところなんです」

▲ハイデルベルグの街並み
▲千代田区神田錦町にある東京営業所で話しを聞きました

「日本に入って来たのは1971年。会社の前身は、日本の光学機器をヨーロッパに紹介する事業をしていました。

ニコンやキャノンといった日本製の優秀なレンズや顕微鏡とか双眼鏡を持って、ぜひ買ってくださいとヨーロッパの展示会に出て、その時に泊まったホテルに敷いてあったのがビラベックの敷き布団だったんです」

▲トップに写っているのが羊毛の敷きパッド。ベッドの文化がなかった50年前は敷き布団として打ち出した。今もキルティングの仕様は変わらない

「今から50年前、日本には羊毛の布団がなくて、綿わたの布団を打ち直して使う時代でした。そんな潮流の中、はじめて紹介したのが私たちビラベックで羊毛布団のパイオニアなんです」

▲オフィスの一角に展示された羊毛でつくられたパッドと羊毛布団

「現在の社長の祖父がホテルで出合って、こんなに気持ちいい布団は日本にないぞ、これは何の布団ですかって聞いたら羊毛で、そんな経緯で取り扱いがはじまったんです。

ですが、最初は布団を売ったことがなかったので大手の寝具店に持っていったんですね。そしたら、これはいいということで全国に広まっていった経緯があります」

▲ヘッドオフィスと工場のあるミュンツェスハイム

■羊毛布団づくりは水が大事。毛のカールが強い羊の“メインボディの毛”のみ採用

フランスとイタリアの国境に位置するアルプス山脈。そのアルプス山脈から流れ出る水は、フランス生まれの「エビアン」でも知られる硬水。ビラベックの布団に採用される羊たちは、ミネラルたっぷりの水を飲んで育つんだそう。

▲アルプス山脈の羊たち

「マグネシウムを多く含む硬水で育った羊は、コシのある毛を生やした布団向きの羊が育ちます。その羊のメインボディの毛を使用して布団をつくっています。

ここの毛というのは、たとえばセーターなど衣類に使う部位を惜しげもなく布団の中に入れているので値段が高い、その代わりに品質がいい。こういう背中の毛は毛足が長くてクリンプと呼ばれるカールが強くて、汚れていないので高級なのです」

「なぜ他の部位を使わないかというと、羊は草原で膝を折って休むのでメインボディ以外の部位の毛は傷んでいて臭いも強い傾向にあります。メーカーによってはメインボディ以外の毛を使い、"羊の毛の燃えにくい"という性質を利用して硫酸や塩素につけてしまうところもあります。この処理のことを化炭処理といいます。

そういった化炭処理をすると、ギザギザのスケールまで見事になくなっちゃう。それに対して、ちょっと待った!と言いたいのがビラベックです。スケールがあるから汗を吸って吐く作用があるんです」

羊の毛の表面はスケールがあり、湿度コントロールできる点が羊毛布団が睡眠に適した理由だが、流通しているものの中には羊毛を洗って繊維が壊れているのにウォッシャブルウールと謳うものがある、と藤橋さんは危惧します。

「日本は洗える羊毛の布団と洗えない羊毛の布団、どっちがいいとなると、洗えるほうに100%なるんですよ……」

清潔を求めて洗濯できることを好みがちな日本人に向けて、「快適に眠りたいんだったらビラベック、洗濯したいんだったらウォシャブルウールに」と、熱く話します。

■羊毛は汗を吸っても、すぐ吐き出してくれる。汚れにくい繊維

「繊維が汗を吸うと洗いたい気持ちになりますよね。ですが、1本の繊維の中はたくさん穴が開いていてトンネルが通っています。汗を取り込んだ瞬間にトンネルの中に汗が通過していって吐き出します。汗を貯め込まないから洗う必要がないんです」

▲毛の表面にあるスケールから汗を吸います

「もう一つ知って欲しいのは、うちの羊毛は蒸気の汗を吸う。水滴になった汗は吸わないこと。汗って見えないけど常に身体から蒸発しているんです。これを不感蒸泄(ふかんじょうせつ)といいます」

藤橋さんがサンプルの布団から羊毛を取り出し、即興で実験してくれました。

左が湯気が出ている湯、右が水。どちらも同じ高さまで水が入っています。そこに軽く丸めた羊毛をポンと置いて入れてみます。

▲左:湯の方は、30秒から1分くらいのあいだに羊毛が沈んでいきました。右:水は沈みません(厳密には水も水蒸気が出ているためやがては沈む)

「ビラベックの羊毛はお湯から出ている湯気(汗)を吸うから、湯の上に置くとこのように沈んでいくんです。同じ羊毛を水のコップに入れると、うちは薬剤加工や化炭処理をしていないので沈まない。ところが化炭処理されたウォッシャブルウールは水に沈むから洗濯できるんです」

▲湯に浸かった羊毛の水けをタオルでさっとおさえると、あっという間に乾いた状態にもどります。ウォッシャブルウールの場合は濡れたままだそう
▲皮脂汚れから守るためにカバーは必須。羊毛の匂いがもし気になる場合は天日干しを

「汗を吸うだけでなく、保温力も羊毛が優れています。世の中にはあたたまった熱を逃がさない素材と逃がす素材がありますが、いちばん逃がさないのは"空気"なのです。この空気の層をつくり出し、留めておくことが出来る素材が"羽毛"です。だから羽毛布団があたたかい。羽毛自体には発熱作用はありません。繊維としては、吸着熱(または放湿熱)が発熱作用となる"羊毛"なんです」

布団のことを一から十まで知りたいと思った

藤橋さんはビラベック製品を販売する傍ら、日本睡眠環境学会所属の睡眠環境・寝具指導士や睡眠健康指導士として全国のさまざまな寝具店へ睡眠を伝える啓蒙活動も行っています。ライフワークともいえる、これらの活動はどういう経緯ではじまったのでしょうか。

「ビラベックで営業をしていて、睡眠について話すわけですが『そういわれているんですよ』と、伝聞で説明するのが嫌だったんです。

その道のプロになりたかったんです。寝具のことを饒舌に語っていて、『すみません、あなた誰ですか』って聞かれて、『ビラベックの営業マンでございます』では説得力がないんです。プロなんだから、お客さんに嘘つきたくないし、こうなんですっていう営業をしていきたいと思ったんです」

「布団のことを一から十まで知りたいなと思い、ビラベックに入社する前に睡眠環境・寝具指導士の資格をとりました。国立大学などの教授たちが中心となってつくった睡眠環境団体があり、そこに参画させてもらいました。

睡眠環境診断士とは、睡眠を環境から見直そうと、明るさや部屋の温度や湿度、建築材は何がいいのかなど最新の睡眠環境学を得ることができる場です。

睡眠学はまだ1割くらいのことしか分かっていないから日進月歩で新しいことがどんどん出てきます。睡眠健康指導士は医学の方からアプローチしていく学会で、メンバーは介護士やお医者さんが多いです」

そこで得たことで、睡眠において大切なことはどんなことなのでしょうか。

「たとえば、腰がわるい人で固いマットレスで眠ったほうがいいと思っている方がいますが、腰は曲線になってS字になっているので、その状態のまま寝かせてあげる必要があります。体圧分散性に優れたマットレス素材はラテックスです。

また腰痛の悩みがあるなら、腰の幹部を睡眠中に冷やさないようにすることが大切です」

「睡眠中の体温の移り変わりというのがあり、人の体温というのは35℃~36℃。お風呂に入り、さあ寝ましょうという時、人の体温はちょっと上がります。これはその後に体温を下げたいからです。

睡眠に適した寝床内温度(温度は32~34℃、湿度は50%±5%)がありますが、なぜ33℃にするかというと内臓が眠るからです。そうすると、心臓が頑張って血液をおくらなくていいため、心臓がゆっくりになります」

「そうすると、心臓は頑張って働きなさいという指示を送らなくて済むので、脳が休むことが出来ます。入眠してから最初におとずれる90分のノンレム睡眠が一番重要なんです。ただ33℃に体温を下げるときに、腰を保温しておかないと冷えてしまって腰痛がよくならないんです。

じゃあ、あたためるのに何がいいんですかというと羊毛のパッドや肌掛けです。この原理からも、身体を自然にあためることが大切です」

▲ビラベックの羊毛敷きパッドの断面

もし寒い地域に住んでいて電気毛布を持っているのなら、眠る前だけ布団をあたためるような使い方で、と藤橋さんはいいます。また、快適な睡眠をとるには15時から夕方にかけて適度に運動することも大事だそう。

■人間は自然界の生き物だから自然素材に包まれて眠た方が快適に眠れる

ビラベックに入社前も寝具関係の仕事をしていたという藤橋さん。そのときからビラベック製品が好きだったと話します。

「出合ったときは35年前になるんですよ。当時は、羽毛布団がでてきて、日本の布団屋さんは綿わたこそ一番いいんだといっていた。

だけど、綿わたは干さないといけない。綿は植物だからお日さまの力を借りないと乾くすべはない。ビラベックを初めて知って、これは日本にないなと思ったんです」

「睡眠のことを勉強すればするほどビラベックは理にかなっていると感じます。僕の寝具選びの基本は、人間は自然界の生き物だから自然素材に包まれて寝た方が快適に眠れるって思っているんです。水と油っていうように、水でできた人間の身体は油でできたウレタンマットレス製品を嫌がります。

最近のマットレスブームなどそれを避けにくい場合もある。だから保温と湿度は羊毛で補い、人の身体とマットレスの間に自然素材を入れてあげましょう、という考えです」

写真提供ビラベック:3、9~11枚目

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カテゴリ:エンベロープの寝具店

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