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21.07.14
《おいしいつくり手》毎日食べたくなるパンケーキをおうちでも/APOC大川雅子さん
「朝起きたら、あれが食べられる」そんなしあわせを約束してくれるAPOCのパンケーキミックス。誰でもつくれるようにと考えられた黄金配合のミックスをつくったのが店主である大川雅子さん。この春10年を迎えた表参道のお店でお話を聞きました。
■ハレの日ではなく「日常」のパンケーキ
大川雅子さんのお店「APOC」は、南青山の骨董通りをしばらく歩いたところにあります。縦長の旗と小さな赤い看板が目印。鉄の手すりの階段をとんとんとあがると、パンケーキハウスの入り口です。
「表参道、パンケーキ」というと生クリームやフルーツでもりもりとデコレーションされた画をイメージするかもしれませんが、APOCで食べられるのは「日常」のパンケーキ。今日食べても次の日にもまた食べたくなるようなパンケーキです。
「お菓子づくりは習っていなくて独学なんです。セオリーどおりにというよりは、親しみが感じられるホームメイドスタイルがいいなって。ずっとやりつづけていって、少しずつわかってきた感じです」
そう話す大川さん。40年近く前、まだ「ショップインカフェ」という言葉がなかった時代にデポー39やF.O.B COOPなどでカフェの仕事に携わり、以来焼き菓子教室の主宰やメディアでのフードスタイリングなど様々なかたちで食の仕事に携わりつづけてきました。
オーガニックやアメリカンカントリーという言葉だけでは定義できなくて、これまでの歩みとともに確立されていったのがAPOCのパンケーキ。
ある人は「パンケーキの聖地」と呼び、ある人は「最後の晩餐はAPOCがいい」と言い、ある5歳の男の子には「ボクはパンケーキはもうこれしか食べない」と宣言させてしまうほどの愛されようなのですが、ご本人によると最初から受け入れられたわけでなかったそうです。
■思い立ったらすぐ焼ける、ミックス粉の誕生
パンケーキミックスの原型となる「クイックミックス」が誕生したのは今から22年前のこと。主宰していた焼菓子教室の中で生まれたレシピです。
「あらかじめ粉を合わせておいて、そこにバターや砂糖、卵を入れたらお菓子がつくれるクイックミックスがあると便利じゃないって思いついたの。
クイックブレッドやクッキー、マフィンなどもつくれるけれど一番手っ取り早いのがパンケーキだったんです」
きっちりと計量してつくる特別な日のお菓子ではなく、日常のお菓子をもっと手軽につくれたら。そんな思いがかたちになったミックス粉です。
こちらは当時ミックスにつけていたレシピ。デザインはキャラクターデザイナーであるご主人によるものです。
現在のパンケーキミックスも、オリジナルのスパイス缶のパッケージデザインもご主人によるもの。外注はせずに手づくりで。今もそのスタイルは変わりません。
ミックスは、1998年生まれのAPOCのお姉さんにあたるカフェ「a Piece of Cake」でも販売しました。
「オンラインショップがない時代だったけど、ブログで伝えたら結構好評だったんです。
当初は販売だけでお店で焼いてお出しするイメージはなかったけど、ある時デザートメニューの一つに加えたら、これが全然売れなかったのよ。
当時はまだパンケーキというのが耳慣れない時代だったのよね。ホットケーキと何が違うの?って。だからあまりみなさんには届かなかったの。それでも焼き続けたのよ」
「その数年後、パンケーキブームがやってきたんです。a Piece of Cakeの開店後にもカフェブームがあったし、私はすごくついているんだと思うんです。ありがたいことにね」
そのブームもやがて落ち着いていきますが、そうした時代の波とは関係なく、いつだって変わらずに大川さんはパンケーキを焼いてきました。
そうして10年が経ったころ、ある気持ちが芽生えます。パンケーキを専門にした2号店の構想です。
■パンケーキハウスAPOCオープンへ
「a Piece of Cakeではその場でつくるのではなくスタジオでつくったものをお出ししていたので、お店で料理がしたかったの。レストランに夢があって、やりたかったのよね。
ちょうどそのころ信号待ちをしていたら、この場所にfor rentの看板を見つけて、その足で不動産さんに行きました。借りられますか?って。
51歳になる頃だったかな。欲張りすぎはよくないから、23年間つづけた焼菓子教室の代わりに新しいお店をやったらいいんじゃないかって思ったんです。周りは心配してましたよ(笑)でも私は何とかなるよって言ってました」
APOCのオープンは2011年3月20日。東日本大震災発生から数日後のことでした。
「こんなときにお店を開店していいのか悩みましたけど、オープン日は決まっていてスタッフもいるし、やるしかないって心を決めました。この10年は夢中でしたね。
今もコロナでお店が開けられないから毎日必死よ。(※2021年6月の緊急事態宣言発令中にお話をうかがいました)でも再開後にお店を手伝ってくれるって人がいてね、嬉しくて開ける日を増やすことにしたのよ」
1998年から約23年もの間。大川さんはずっとここ南青山でカフェを営みながら、時代や街の移り変わりを見てきました。
「自分がやれることはなんだろうって思ったら日々お店を開けることだなって。そんなに大きくはできないしね。だからずっと変わらずです。
こんな一等地にお店を出させてもらってすべて手づくりだし、商売的にはどうかなって思うこともあります。でもね、このへんは企業のお店ばかりになったけどこういう人がいてもいいんじゃない?って思うの」
■パンケーキをつくってもらいました
取材終了後、大川さんがパンケーキを焼いてくれました。バターミルクと、コーンミールミックスを使って2種類も。つくる様子も見せてもらいました。
「材料を混ぜたばかりの時は、さらさらしているのでちょっと置いておくわけ。その間にいろいろ準備するの」
そう言いながら取り出したのが、菜種油のスプレー。パンケーキのつくり方にフライパンに油を薄くひくって書いてありますよね。その時にこのスプレーがあると便利だし、ケーキを焼くときに型にしゅって吹きかけるときれいに外せるのだそうです。
そんなおしゃべりしているうちに3分くらい経ったでしょうか。生地がとろっとした状態に変化していました。焼いていいですよの合図です。
熱したホットプレートにとろとろっと生地を落とします。この時レードルは動かさないこと。そうすると、自然に中心から生地が円状に広がり満月のような丸になるそうです。
全体にぷつぷつが見え隠れしたらひっくり返すタイミング。
基本的に両面を3分くらいで焼きあげます。これはフライパンでもホットプレートでもほぼ同じで、1枚目は表が2分、裏側が1分が目安。ターナーでちょっと押してみて、生地が出てこなければ焼きあがりです。
2枚目以降はフライパンの温度が安定して、表が1分半、返して1分で焼けることも。ただ生地の量にもよりますし、厳密にいうと温度なども影響するとのこと。なので時間に縛られず、その日のちょうどいい具合を探ってみてください。
一枚のプレートでさまざまなおいしさが味わえるのがAPOC流。この日は発酵バターをのせたパンケーキに、放牧卵の目玉焼きと片面だけカリっと焼いた無添加ベーコン、クレオールスパイスでお化粧したホイップクリームが添えられたスペシャルな一皿をつくってもらいました。
メイプルシロップをたっぷりかけて(目玉焼きやベーコンにも!)、フレッシュレモンを搾って、いただきます!
ふんわりしたパンケーキは甘じょっぱさが感じられたり、レモンの爽やかさが感じられたり、スパイスのピリッとした辛さが感じられたり……一切れごとに違う味が楽しめて最後のひとくちまで飽きさせません。
コーンミールのパンケーキは、可愛いどらやきサイズでこんなに沢山焼いてくれました。
オーガニックコーンミールを配合したパンケーキはブルーベリーなど酸味があるものと相性がいいそう。ということで、この日大川さんがセレクトしたのはプチトマトと水切りヨーグルト。
ザルにあげておくだけでできる水切りヨーグルトはホイップの手間いらず。ホエイは牛乳のかわりに生地に混ぜてもよいそうですよ。
ここにもクレオールスパイスをアクセントをひとふり。とうもろこしの香ばしさが感じられるパンケーキに、バターソテーしたプチトマトとコーンそして濃厚なヨーグルトクリームが合わさってしあわせな味。
サクッとした食感で軽やかなので、5枚のパンケーキもあっという間にお腹に消えていきました。
パンケーキはバターとメープルシロップで食べるものと思っていたのですが、もっと自由でいいのだと気づかされた今回の取材。
おかずをはさんでサンドイッチのようにしてもいし、デコレーションしてケーキのように食べてもいい。その日の気持ちに合わせてもっと柔軟でいいのだと。
大川さんには他にもおすすめをいくつか教えていただいたので、早速自宅でつくってみました。こちらは次回ご紹介します。
カテゴリ:エンベロープフードホール, おいしいつくり手
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