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22.06.10
《つくり手ファイル》ガラスだからつくれる美しさ/Chisato Muro
ガラスと金属、どちらも自身の手で制作するChisato Muroさん。手間をかけて仕上げられたジュエリーは、新たなガラスの美しさを見せてくれます。和歌山湾をのぞむMuroさんのアトリエとオンラインで結び、お話を聞きました。
■ずっとガラスの美しさに惹かれていた
Muroさんとガラス。その出合いは幼いころまでさかのぼります。
「小さい頃から透明なものが大好きだったんです。ゼリーやジュース、お母さんの宝石も、みんな同じように好きでした。
カトリックの幼稚園だったのでステンドグラスがあって、その記憶が強く残ってます。ある日、幼稚園のごみ置き場にステンドグラスのロウソク立てが捨てられていたんですよ。母に怒られながら高い囲いをよじ登って、拾い上げて持って帰った思い出があります」
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幼い頃も今も好きなものは変らないMuroさんですが、そこから制作の道に進むのは、もう少し先の話。短大を卒業し自立後に、ずっと好きだった世界に飛び込みます。
「21歳から学校でガラスづくりを学びました。その後インストラクターとして働き、吹きガラスの制作をしていたのですが腰を痛めて続けられなくなってしまったんです。
そうして、食器や花器にかわってガラスのアクセサリーをつくりはじめました。当時は制作したガラスのパーツにありものの金属を付けていたのですが、それが面白くなくて……」
イメージするものがつくれずあまり先が見えなかった、そのころのことをそう振り返るMuroさんに2013年、一つの転機が訪れます。
「結婚し夫の仕事に付いてニューヨークに行くことになったんです。ジュエリーデザイナーに転身した友人が通っていた現地のジュエリースクールを紹介してくれて、そこで彫金を学ぶことにしました」
作品全体をすべて自分の手でつくりたい思いがあったMuroさん。彫金の技術も身につけ、ガラスと金属が融合した現在の制作スタイルが確立します。
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■美しい情景を想い描かせるジュエリー
水中をたちのぼる気泡、今にも滴り落ちそうな雫やふっくらとした花弁を携えた花など、Muroさんの作品は美しい情景をガラスで表現。ガラスならではの涼しさだけでなく、多様な美しさを感じさせます。
「デザインのインスピレーションとなるものは色々あります。光や風や波も。アトリエの近くにある海や、砂や貝もそうですね。日々目にしたり感じたことから生まれます。魅力的な人に出会ったら、この人にはこんなのが似合いそうだなって生まれることもあります」
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「今回エンベロープで紹介してもらう受注生産のものは板ガラスを使っているので、ひとつひとつカットして焼いています。焼いたあとはつるっとさせたいもの、逆にマットに仕上げたいもの、それぞれのイメージに合わせて研磨したり、ものによってはもう1回焼く場合もあります。
ガラスができあがったら、次は金属です。同じものでもかたちは変ってくるので、それに合わせて制作を進めていきます」
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制作について聞くと工程数の多さや細かさに驚かされます。金属に小さな穴をあけて刺繍をしたものや、細かいコールドエナメルでガラスの周囲を装飾したもの、1cmに満たない金属部分を削って質感を持たせたものなども。
ガラスの美しさを引き出すための細やかな手間によって、その時々の光を拾って柔らかな表情が生まれます。
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■それでもガラスを選ぶ理由
ありのままで価値がある宝石と違って、ガラスは美しさを引き出す必要があり、自ずと手間数も増えます。ビジネス的なことをいえば、かけた手間に対して宝石ほど高い価格はつけにくい側面もあります。
Chisato Muroのラインナップにはダイヤやパール、クリスタルなどを使ったものもありますがそれでもなぜガラスなのでしょうか。
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「きれいな石を使ったジュエリーは私も大好きでその美しさに憧れはありますが、デザインも技術も素晴らしい作家さんが沢山いらっしゃいますよね。
ざっくりとした表現で語弊があるかもしれませんが、宝石を使ったものはやはり『美しさ』が正解の様に思うんです。でも私自身は美しくつくることだけが正解ではない世界で制作していると感じています。もちろんクオリティは大切にしていますが。
表現方法や制作方法にもよりますが、例えばガラスを人の手で切って窯で焼く時点でかっちりとは仕上がりません。機械で削って同じ大きさにすることはもちろん可能ですが、手でつくることで生まれる遊び心も個性もガラスの面白さだと強く感じています。
20代であればもしかしたら宝石を選んでいたかもしれません。でもガラスを学びはじめてから現在この形になるまで、それこそ幼い頃にロウソク立てを拾ってから、様々な出来事があってここまで人生が繋がってきていることを思うと、私の人生はこれをやっていってよいんじゃないかなって思うんです」
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「気泡をイメージしたBubbleシリーズも、ガラスをきれいな丸にカットしたら面白くないと思うんですね。海にもぐって空気があがっていくときの丸ではない自然なかたちを表現しやすいのはやっぱりガラスだと思うし、そこをうまく制作して味として残れば成功かなと思っています」
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ジュエリーを包むパッケージには、What's Jewelry ?と題した英語の詩が綴られています。ジュエリーについて、制作のテーマについてMuroさんが記した言葉を最後にご紹介します。
ジュエリーってなんだろう
それはきっと あなたの笑顔に敵わないもので
あなたの涙にも敵わないものだ
だけどジュエリーは
あなたの素敵な部分をそっと照らしだす
小さなスポットライトの様なものなのだと私は思う
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写真提供 Chisato Muro:2、3、8、9、10枚目
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