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23.6.26

《つくり手ファイル》白樺にふれることで森の中にいるように/mori + ayaco yoshioka 吉岡綾子さん

素材ひとつひとつと対話するようにつくられる、吉岡綾子さんの白樺小物。触れれば森の静寂が感じられ、日常を大切にしたくなるようなやさしい空気をまとっています。どんな想いのもとで制作がはじまったのか、話を聞きました。

今春のかごマルシェ好評につき、かご2型の追加受注を 6月26日(月)から承ります。また the linen bird haberdasheryでは 、6月30日(金)より白樺の手芸道具をご紹介します。

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■やりたいではなく、やる

「白樺かごとの出合いは、最初は本の中でした。なんて素敵なかごなんだろう、と。今思えば、そのときはただふわっと素敵だと思っていました。

実際に白樺かごにはじめて触れたとき、そのやさしさとあたたかさに一瞬で魅了されてしまって……。白樺かごを編む人になる、とその瞬間に決めたんです。やりたいではなく、やると」

2012年、白樺の木のそばで暮らしたい、という思いで綾子さんは北海道に移住します。その後、森のある2,500坪の土地との出会いがあり、そこにはリノベーションできる古い家もありました。

「北海道の地にはじめて降りたとき、空気が2倍くらい濃くてなんてやわらかな空気感なんだろうと感動しました。

北海道は白樺をはじめとする広葉樹が多く、森の雰囲気もやさしい感じなんです」

■自然への憧憬。地球とつながっていることの感覚を伝えたい

「白樺の木はマザーツリーと呼ばれていることを知り、森に入るようになって、ますます北海道という地、そして白樺の木に感覚的に魅了されていきました」と、綾子さん。

白樺の編み方は教えてくれる方が探したけれどみつからず、独学で編みはじめたんだそう。

その作品はまるで原住民がつくり上げる道具たちのように、細部までつくり込まれ、その手の跡からは自然への憧憬の思いを感じます。

▲留め具は松の根っこを削ってつくられています。バッグによってひとつひとつ異なり、どれも人の手がつくったやさしい形

「白樺の樹皮に触れると、不思議と気持ちがすっと落ち着いて、やさしい空気に包まれます。

森とつながることは、地球、そして宇宙とつながること。この感覚を無意識にでもお伝えすることができたらと」


■白樺の木と対話するように

「森は大きな森、小さな森、いろいろな森があります。自宅の庭にも小さな森があって、その白樺の並木のそばで話しかけながら、白樺のかごづくりに向き合ってきました。

野鳥やエゾリス、キツネなども遊びに来てくれて…ある日、アトリエの中をエゾリスがのぞいていたことも」

▲庭に遊びに来てくれたエゾリス

身体に染みこんだ事柄のように、こう続けて話します。

「季節ごとに色彩豊かに花が咲き、冬はまっしろな美しい世界に包まれます。朝や夕方には白からうっすらと淡いブルーの光の世界に移り変わっていくんです。その色と景色が大好きでした」

▲新たな活動「FACTOREM(ファクトーレム)」をスタートした最初のアトリエ

「以前は東京でWebディレクターとして働いていました。Deleteで消えてしまう世界ではなく、五感を使う仕事がしたいと思っていました。職人への憧れは子どもの頃からありましたが、大人になってしまって自分には縁がないものだとあきらめていました」

「白樺の木との出会いから、独学で手仕事の世界に入って2023年で10年になります。毎日、試行錯誤しながら手を動かしたりデザインをしてきました。たくさんの方々に助けていただいて今があります。

かごづくりを通じて出会いが広がってゆくと同時に手仕事の幅も広がっていきました。好きなことがひとつずつ増えてゆき、点と線がつながるように、それはすべて、私にとっては白樺かごづくりにつながっています。

手芸のための道具も、私自身すごく楽しんでつくっています」

▲ピンクッションのためのちいさな白樺かごを製作

「畑では亜麻を育てて紡いたり、近所の農家をしている友人からオーガニックの稲わらや麦わらをわけていただいて飾りをつくったり。羊の原毛から洗って紡いだり。山葡萄の樹皮も森へ入って採取していました」

▲作品づくりだけでなくワークショップも行う。「先生というのは苦手と思っていましたが、色々な方からリクエストをいただいて、私を必要としてくれているのだから全部受けようとはじめたことがきっかけでした」

■日々の暮らしに自然や森を感じられるように

綾子さんはフィンランド、スウェーデン、ロシア、北海道、様々な国の樹皮に触れ、作品づくりを続けてきました。

厳しい冬を乗り越えて生きてきた白樺の木。一生に一度しか採取できない樹皮をいただいて、その白樺の木が一番輝くように対話をしながら手を動かすそうです。白樺の木のメッセージが届くように。

▲友人のヘイディさんと一緒に、2017年フィンランドの森へ白樺樹皮の採取へ訪れた時の写真
▲美しい湖の畔で白樺樹皮のハサミケースのつくり方を教えてもらい、許可を得て販売をしているんだそう

自分の手で生活をつくること、できることをひとつずつ取り組みたい、と綾子さんは言います。そして周りを味方に、惹きつけながら「つくる暮らし」を楽しみます。

「昨年、暮らしを実家のある大分へ移しました。また新しい場所で、新しい活動である FACTOREM(ファクトーレム)をつくっていきます。それは私だけではなく手仕事の好きな方やまだ知らない方にも、つくることの楽しさや喜びをお届けしたくて、そんな場所だったり、機会をつくっていけたらと思っています。もちろんオンラインでも。

白樺にふれることで森の中にいるように、静寂の中で風の唄が聴こえるように。そんな時間を届けられたら。そして、小さくてもいいから日常にキラキラとしたときめきを」

写真提供:mori + ayaco yoshioka 2、3、5~11、14~17枚目

カテゴリ:つくり手ファイル

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