イベント・ニュースや読みもの note

24.05.10

《つくり手ファイル》北欧の暮らしに根付く白樺のものづくり/SUKOYA 迫田希久さん

「bark(バーク)」とはスウェーデン語で樹の皮のこと。けれど白樺は「näver(ナーベル)」と別の名で呼ばれています。それだけスウェーデン人にとって白樺は特別な存在。

今回ご紹介するのは、そんな白樺にすっかり魅了された迫田希久さん。その物語は、スウェーデンへの工芸留学にはじまります。

商品ページはこちらから

■スウェーデンで学ぶ、昔の暮らし

「私が入学したのはsätergläntan(セーテルグレンタン)という手工芸学校です。そこで2年間木工の勉強をしました。

山の上にある全寮制の学校で、夜道を歩くとしーんって音がするんですよ。それくらい何もない静かなところでした。生徒は9割スウェーデン人、100年以上の歴史の中で年間を通して通った木工科の日本人は私がはじめて。

日本で家具づくりを学んでいたので先生の手元を見てある程度理解できたのですが、スウェーデン語だけでなく英語もあまりできなかったので、先生もどうしようって感じでした」

▲森の中にたたずむセーテルグレンタン手工芸学校。ダーラナホースで有名なダーラナ地方伝統の木工や織物、洋裁、鍛冶などが学べる

どの先生も聞けば英語で解説してくれたけれど、ベースはやはりスウェーデン語。そこで2年目からは英語を封印、スウェーデン語だけで過ごしたそうです。

「はじめはつらかったけれど結果的にはよかったです。

1700~1800年代までさかのぼってスウェーデンの伝統文化を勉強するので英語じゃだめなんです。スウェーデン語じゃないと言い表せないことがいっぱいあるんですよ」

セーテルグレンタンは、昔の暮らしを学びそれを実践する学校。授業の内容はとてもユニークです。

「羊が脱走しないための柵づくりをしたり、暖炉に火を入れてパンを焼いて食べたり、木の道具でバターやチーズづくりもしました。家具づくりを学びにきたのに、私は何しにきたんだろうって思いました(笑)」

「家具をつくるのも木を切るところから。大学で木彫をやっていたのでチェーンソーは使えたんです。だから木を切る日は『キク』って私が呼ばれて『まかせとけ』って切って、みんなでえっさえっさって運んで。

そこから斧や鉈(なた)も使い、大きなかんなをひたすらかけて板をつくるんです。1枚つくるのに1日かかるんですよ」

▲苔や白樺の若葉でほうきをつくる授業もあったそう

■人間らしく暮らすための時間

「木工技術もそうですが、スウェーデンで学んだのが人間らしく暮らすということ。日本と同じ24時間なのにゆーっくり流れている感じがするんです。

スウェーデン人が大事にしているのがお茶の時間『フィーカ』。8時半から学校がはじまって9時半ごろにはもうフィーカなんですよ。

私は言葉の壁があってみんなより遅れているから作業をしたいのに、だめだめ休まないと!って連れて行かれるんです」

当時の生活は、授業後も毎晩学校の電気が消えるまで作業をし、その後夜遅くまでスウェーデン語の勉強をする日々。「鬱っぽくもなったし、余裕がなかったですね」

▲長いスウェーデンの冬。お日様が見られない日々に1年目は気持ちが不安定になったそう

「それが3年目の後半かな、そのときはまた違う学校で家具づくりを学んでいたんですけど、木工の経験も積んで言葉にも慣れて、私がみんなをフィーカに誘うようになったんですよ。

フィーカをしながらまだ終わらないの?って思うこともありますが、コミュニケーションの場なんですよね。スウェーデン人のおだやかな時間の過ごし方もそこから来ているのだと思います」

▲誕生日フィーカでのひとこま(右端が迫田さん)

自分の感情や意見も少しずつ表現できるようになったと振り返る迫田さん。「苦手だったコーヒーも好きになって、だいぶスウェーデン人に近づきました」

▲卒業制作のスツール。曲げわっぱ、桶指物、白樺工芸の木工技術を生かした作品は、オフィシャルではないものの校内投票で1位の高評価だった

■白樺の手仕事を学びに再びスウェーデンへ

2つの学校での学びを終えた迫田さんは帰国、友人と注文家具工房を立ち上げます。屋号のSUKOYAはそのとき名づけられたものです。

そうして3年ほどの月日が流れたとき。友人が建築の仕事に携わることになり、転機が訪れます。

節目を迎えあらためて自分にしかできないことをやろうと考えて、答えをもたらしたのが、白樺でした。

「帰国前に先生が白樺をどさっとくれたんです。でも木は(木の呼吸で伸縮することにより)動いてしまうし、日本の風土に合わないかもとそのままにしておいたんです。

ところが何年も経っているのにいい状態で。これはいけるのではと思ったんです」

思い立ったが吉日。「それならもう1回勉強しなきゃ」と白樺の手工芸を学びに再びスウェーデンへ旅立ちます。

冬が長く日照時間が短いスウェーデンにおいて白樺は大切な資源。収穫した木は樹木から樹皮、根、葉、樹液まで無駄にせず使われてきました。

「古くから愛されていて、暮らしに寄り添えるところが面白いなって思います。

流行ではなく昔の人が生きるために使ってきた素材で今もそれを使われているのはすごいこと。みんなにその魅力を知ってもらいたいんです」

仕事が終わりお風呂の中で自分の手から白樺の甘い香りがしたときに、ああなんていい香りなんだろうって思うんですよ、としあわせそうに話す迫田さん。

じっくり白樺と向き合う日々の中で育まれた愛情が言葉の端々から感じられます。

▲2枚の樹皮を合わせたカゴ「Hast Korgar」。古い製法でつくられた素朴な道具

▲白樺の特性が活きる保存容器「Burk」。家具づくりで培った技で蓋が気持ちよくしまります

■白樺の道具だから伝えられること

こちらはかごの制作風景。機械は用いず、使うのはナイフと樹皮の差し込みや引き抜きに使うヘラだけ。接着剤も金具も使わずにつくられています。

そこには先人たちが培ってきたものを尊重したいという想いがあります。

「伝統的なつくり方と使い方の片鱗を残したいと思いながらつくっています。現代っぽくなりすぎないように自分にブレーキをかけながら」

もう一つ大切にしているのが、森からの贈りものへの感謝の気持ち。

「自然からいただいている貴重な資源だから、最後まで大事に使いたい。できるだけ捨てないよう色合わせはしすぎず、使用上問題のないちょっとした傷ならそれも個性として使うようにしています。

それでも使えないところは燃料として使ってもらうため、暖炉がある方やキャンプをする方など信頼できる人に渡しています」

「そうしたことは私がスウェーデンで学んできたこと。セーテルグレンタンに入学したころは、なぜここに来ちゃったんだろうって思っていたけれど、気づいたらすべてがつながっていた感じです。

白樺の伝統的な道具だからこそ伝えられることがあると思うんです」

写真提供:SUKOYA 迫田希久(9、11、12、15枚目以外)

カテゴリ:エンベロープ, つくり手ファイル

「つくり手ファイル」バックナンバー
最近の記事
Top