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24.11.05

《つくり手ファイル》日本の豚革を活用、未来につながるものづくり/sonor

あまり表舞台には出ないけれど、日本には素晴らしい素材があります。その一つが豚革。この素材に魅了され、使う人それぞれに寄り添うバッグを仕立てる革作家「sonor」にお話を聞きました。

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■子育てをしながらの作家活動

革製品ブランド「sonor」は、作家園田明子さんが2011年にスタートさせたブランド。6年前からは夫の啓太さんも加わり、横浜市を拠点に活動しています。

以前は布でものづくりをしていた明子さん、少しさかのぼりそのころのお話をうかがいました。

明子さん「おばあちゃんが洋裁の先生をしていたこともあり、子供のころからつくるのが好きだったんです。

学校でも洋服を学んでいましたが、結婚・出産を機に中断。

就職したい気持ちがあって子供が2歳のときに復学したのですが、結局子育てをしながら周りと同じように就職活動するのは私には難しくて。

違うかたちを考えようと卒業して下の子を出産し、自分ができることをと、周りの人から頼まれたものをつくったりしていました」

明子さん「そうした活動をしながら2、3年たったころ、雑誌『かぞくのじかん』(婦人之友社 現在休刊)で子供服の取材を受け、それをきっかけに裁縫のぺージを担当することになりました。手縫いやミシンで簡単にできるものを何回か紹介しましたね。
 
少しずつ子供も手が離れて、その分自分の仕事を増やしながら、本当にちょっとずつやってきた感じです」

園田さんにとって「大きなきっかけだった」という雑誌の仕事ですが、実はエンベロープスタッフの私も当時園田さんの子供用お弁当袋とコップ袋をつくりました。簡単なのに布合わせが素敵で今も手放せずにとっています。

話がそれてしまいましたが、誌面で紹介した布製ルームシューズを今度は革でつくってみようと思ったのが、現在の活動へとつながります。

■これは未来があるな、と思った

明子さん「ルームシューズの素材を探してたまたま出合ったのが、国産の豚革でした。

自然な風合いに惹かれたのですが、使ってみたら脂分が少なくて厚みもそれほどないので帆布のような感覚で縫えました。すごくいいなと思いました」

その後、つくり手である墨田区のタンナー山口産業の工場見学をした明子さん。人と環境にやさしい革を手掛けていることを知り、あらためてこの革を使っていきたいと思ったそうです。

▲土に還せる革づくりをする山口産業。植物を使用したタンニンなめしは手間と時間がかかるが経年変化が楽しめる革となる

啓太さん「豚革は食肉の副産物。使わないと破棄されてしまいます。

靴のインソールや牛革バッグの裏地用に安価で輸出されることはあっても活用先は限られてしまっているんですよ」

明子さん「私は子育てをしながら、先につながるようなものづくりをしたいという想いがあって。環境に配慮された素材で、それが国内でまかなえるというところにすごく未来があるなって思ったんです」

10年以上の付き合いとなる山口産業では、駆除された鹿や猪など野生動物の皮を有効活用する取り組みも実施。sonorではその鹿革をつくったシリーズも展開しています。

■自然の風合いを生かし、傷も個性として

今でも珍しい豚革の製品ですが、10年以上前となるとさらに知られざる存在。選んでもらうのはなかなか難しかったそうです。

その理由のひとつが、傷やシミの問題。

啓太さん「牛は身体が大きいので傷の部分をよけやすいけれど、豚革はそれが難しいのです。

養豚場を見学したのですが、まあおしくらまんじゅうというか狭い場所でないのに身を寄せ合っていて。傷がつきやすい理由がわかりました」

明子さん「警戒心が強いみたいで、何かに驚いたら身を寄せあってしまうんですよ」

▲人間と同じ、豚もそれぞれの個性がある

均一的なものを求めたらネガティブな要素になる傷や色むらなどの個体差。でもsonorではそれを自然のものとして生かしています。

明子さん「豚革を選んだのはこの自然な雰囲気に惹かれたから。加工をしようと思ったこともありますが、もともとの質感を生かすのがうちらしいかなと思って素上げの状態で使っています」

▲素材の風合いが生きるよう完成後ひとつひとつ洗いをかける「ARAIシリーズ」。時間とともに張りがとれやわらかに

試行錯誤をしながら活動してきたお二人ですが、コロナ以降地球環境や持続可能なものづくりへの意識の高まりを感じているそうです。

啓太さん「以前は合同で参加していた展示会も、表現したいことをきちんと伝えられるよう今は自分たちだけで場所を借りて行っています。

輪が広がってきたというか、使ってくださる方が増えた気がします」

■より多くの人に知ってもらいたいから

エンベロープでは全部ご紹介しきれていませんが、sonorには一つのバッグをとってもさまざまなサイズや色が展開されています。中には5サイズあるものも。

これについて明子さんはこんな風に話します。

明子さん「私自身鞄がしっくりこないと使わないんです。より多くの人に手に取って欲しいと思うと、それぞれの人にしっくりサイズや色が揃っているといいなって。

選んでもらうのはうれしいけどそのあと使ってもらえるのはもっとうれしい。そんなこともあって細かく展開しているんです」

啓太さん「革のバッグは傷がつかないように大切にとっておくのではなく、どんどん使ってほしいですね」

明子さん「そうですね。帆布のバッグのように日常使いをしてもらいたい。

豚革を扱うタンナーさんも次々とやめられているそうでなんです。

微力ながらできる限り活動をつづけて、いろんな人に知ってもらいたい。そのために私たちは頑張ってます」

▲取引先が増えた現在も制作は基本的に明子さんが主体となって、担当。裁断から縫製、仕上げまで行っています

写真提供:sonor(5枚目)

カテゴリ:エンベロープセレクト, つくり手ファイル

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