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18.08.31
《Food Hall準備室その2》おいしいもの探しの旅
この秋、エンベロープオンラインショップに食の専門店「Food Hall(フードホール)」がオープン!日本各地でつくられたおいしいものを、つくった人の想いとともにお届けします。 前回につづき、今回は食材探しの旅の様子をご紹介。食のつくり手に会うため、塩尻・立科・松本の3箇所を訪ねました。
■平均年齢80歳!農家の女性たちの加工所
まず向かったのは、塩尻駅からぶどう畑を眺めながら車で10分、地元の農産物でジャムやジュース、味噌などを加工製造販売する「矢沢加工所」です。
14年前に兼業農家の主婦7人が設立をした、こちらの加工所。現在は、平均年齢80歳の女性たち12名が働いています。
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▲伺った時は、ちょうど貴陽(すももの一種)のジャムが出来上がったとき。滅菌したジャム瓶を、ひとつひとつタオルで拭きます
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▲打ち合わせをしていたら、ひとりのお母さんがタッパーにたくさんの梨を差し入れてくれました
ここでは、「その方が絶対美味しいから」と、同業者の方も驚くような手作業で加工品がつくられていきます。
例えばぶどうジュースは、一般的には機械でヘタなどを残したまま一気に絞ってしまうことが多いなか、矢沢加工所ではお母さんたちが傷んだ粒や未熟果がないか確認しながら、ひとつひとつ房から外します。
そうして皮ごと絞られたジュースは敢えて濾過をせずに瓶詰めされているので、一口飲むと目が覚めるくらい濃厚。(ああ、早くみなさまにも味わっていただきたいです…!)
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▲濾過をしていないので、時間が経つと酒石(しゅせき/ぶどうの成分とミネラルが結合してできた結晶性の物質で、食べても問題ありません)ができます
どの商品も、その作業工程を聞くととても手間がかかる作業ばかり。「素材本来のおいしさを伝えたい」という農家の女性だからこその自然な想いがものづくりに現れているように感じました。
ぶどうジュースの他にも、地元の果物で作られたフルーツソースなどもご紹介する予定です。
■立科の自然に育てられる、天然醸造の味噌
次に向かったのは、1893(明治26)年創業の老舗醸造元・「酢屋茂」。長野県立科町で、伝統的な製法でつくられた醤油と味噌をつくり続けています。
フードホールオープンに向けて色々な味噌を試す中で、私たちは酢屋茂の味噌に出合いました。「大豆・米・食塩」と材料は3つだけとシンプルなのに、まろやかでとても深い旨みがあるんです。
これこそ毎日使いたい味噌だなあとしみじみ感じたのですが、東京に売っていないしホームページもない。それなら直接お話を聞いてみたい、そして私たちにご紹介をさせて欲しい、と突然の電話をしたところ、快く時間をつくってくださいました。
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▲中に入ると、明治時代から続く老舗ならではの店構え
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▲お話を聞いたのは酢屋茂5代目・今井総一郎さん
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▲こちらの2種類の米味噌、どちらもとっても美味しいんです
お話を聞くと、おいしさの秘密は、酢屋茂が創業以来続けている天然醸造(※)のおかげだそう。
立科の冬と夏で温度差の大きい気候に、蓼科山を水源とした冷たくきれいな水、そして100年以上続く蔵に住み着く微生物の力。そういった自然とうまく付き合いながら、酢屋茂ならではの味がつくられているのでした。
そのほか、製造工程の様子や、今井さんならではの味噌や甘酒の食べ方もお聞きしました。詳しくは、オープン後に改めてご紹介しますね。
※天然醸造…温度管理をせずに、自然の気候に合わせてゆっくりと発酵・熟成をさせる製法のこと。長い時間をかけてつくられるからこそ、まろやかで深みのある旨みが醸し出されるのです。
■確固たる信念と独創性にあふれる、松本の老舗醸造元
最後に訪れたのは、松本で100年以上営む老舗醸造元「大久保醸造店」。料理家・辰巳芳子さんが醤油を愛用していることから、ご存知の方も多いかもしれません。
3代目・大久保文靖さんとお電話で初めてお話した時の言葉は、少しハッとさせられるものでした。
「日本の食料自給率を言えるか?」
「青森の福士武造っていう農家を知っているか?」
「食をやるなら、きちんと世の中のことを知らないとだめだ」
パッと答えられない自分を反省をしつつ、私たちのやりたいことを拙い言葉で話すこと20分。最後に「じゃあ一度来てみなよ」と言ってもらえたので、緊張しながらも飛び込んでみることになりました。
当日、蔵の前に到着すると、味噌と醤油のなんとも芳しい香りがします。
小さな事務所スペースで少しお話した後、ご自宅へ案内してもらいました。卓上には、奥様お手製の煮梅や漬物などの小皿がたくさん。やさしい味に、感激しながらいただきました。
「うちでは出来たものは買わない、つくれるものは自分でつくるんだ」「原材料はシンプルであればあるほどいい」と、微笑みながら漬物をつまむ大久保さん。話は醤油味噌づくりから、環境、栄養学、社会問題、そしてお孫さんの話まで広がります。
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▲特にお漬物は、今まで食べたなかで一番おいしい…と思わされました
実際につくるところも、見せてもらいました。大久保醸造店の醤油は、青森県産を中心とした大豆、長野県産の小麦、塩は沖縄のシママースなど良質な材料を全国から集めてつくられています。
蔵に入っての第一印象は、とにかく清潔なこと。「誰にでもすぐに見せられる、綺麗なところは少ない。それじゃだめだ。悪い微生物はいらない、必要な微生物だけがあれば味がよくなるんだ」と大久保さん。微生物にとって一番よい環境をつくるため、木桶には漆を塗り、壁や床には何十トンの炭を埋めて、床や設備の洗浄はオゾン水で行います。
そこには、醤油・味噌づくりや環境について考えつくした大久保さんのゆるぎない信念と、独創性のあるたくさんのアイディアがあふれていました。
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▲木桶には、外側にも内側にも真っ黒な漆が塗られています。漆を塗ることで、悪い微生物が増えなくなるそう
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▲最終工程、醤油を絞っている様子。美しい紫色です
途中でお蕎麦休憩を挟みながらも、滞在時間はあっという間に6時間!大久保醸造店のものづくりを知るだけでなく、これからの日本の食についてどう考えていくか、そして自分自身がこれから食とどう向き合っていくか、を改めて考えさせられる時間でした。
今回のコラムには収まりきらないお話が、まだまだた~くさんあります。また秋に、じっくりとお届けします。
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▲今回、ご案内をしてくれた大久保文靖さん
カテゴリ:エンベロープフードホール
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