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18.10.15

《おいしいつくり手》素材が主役のケチャップとジュース/井出トマト農園井出寿利さん

神奈川県藤沢市。湘南の海から車で20分ほどの農業地帯に、井出トマト農園はあります。隣接する直売所には、完熟したトマトを求める人が入れ替わり立ち替わり。食べる人の声がすぐ届くこの場所で、桃太郎ケチャップ・ジュースのトマトは育まれます。

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■子どもに何を食べさせたいかを考えて

「娘に市販のケチャップを食べさせながらふと思ったんです。なんでうちはトマト屋なのに、自分でつくらないんだろうって」

そう話すのは、代表取締役である井出寿利さん。あらためて子どもに何を食べさせたいか自問して出たのが、自家製という答え。自分が育てたトマトで、ケチャップやトマトジュースをつくりたいと思ったそうです。

▲2005年に、先代より農園を引き継いだ井出社長。買う人の目線に立ったものづくりと販売は、不動産営業職時代に培われたもの

2009年の夏。この年、出荷できない大きなサイズのトマトが沢山採れました。おいしさは変わらないのに破棄するのは、もったいない。「つくるなら今だろう」とジュースの加工所を探します。

当時はインターネットでの情報が充実していない時代。タウンページを手に片っ端から問い合わせたところ、1軒だけ「明日持ってきてもいいよ」と言ってくれた会社がありました。今でも付き合いがつづく、長野県の加工所です。

「持って行ったら“なんだヘタをとっていないのか”と言われて、その場でりんごの芯抜き器を借りて2、3トン分のヘタを取りました。手袋も持ってないから、手をボロボロにしながら(笑)

でも、できあがったものを飲んだらまずいんですよ。えらいもんつくってしまった、お金もないのにって意気消沈しながら帰ってきました」

ところがその1ヵ月後のこと。
もう一度瓶を開けてみると、これが美味しいジュースに変身していたのです。しゃばしゃばとした飲み口が、熟成されたことでトマトのうまみがぎゅっと濃縮された味わいに。

こうして「桃太郎ジュース」が誕生、ほどなく「桃太郎ケチャップ」も完成します。

桃太郎トマトジュース(写真左)と、桃太郎トマトケチャップ(写真右)。種を蒔いて育て、収穫した果実をしぼってつくられます

■家庭にある材料で親しまれる味に

ジュースの材料は、桃太郎トマトと塩のみ。ケチャップは桃太郎トマトのほか砂糖、食塩、玉ねぎ、りんご酢、唐辛子が使われています。

家庭にあるシンプルな材料でつくれば「大人も子どもも好きな味になるだろう」というのが井出さんの考え。その味付けには、毎回立ちあうようにしています。

「家でケチャップやジュースをつくるのは、なかなかハードルが高いもの。だから、ちゃんとつくって届ける使命があると思ってます。

味は、お客さんのところに届いた時にベストな状態になるように、トマトの具合や季節、販売するタイミングによって少しずつ変えているんですよ。濃い味にならないように、それでいておいしいと感じられる絶妙なポイントを押さえるために、たばこはもちろんお酒も飲みません」

▲蓋をしない水蒸気釜で、雑味を飛ばしアクをとりながら6時間かけて煮込みます。機械だけでつくる工場も見たけれど、生産量が多い反面、雑味が残ってきれいな味にならないので、人の手を介する加工所にお願いしています

■農業を「誇れる仕事」にしていきたい

農園がつくるケチャップとジュースだから、主役はやっぱりトマト。その魅力は、トマトなしでは語れません。

▲加工用のものではなく、旬の一番おいしい時期に収穫した生食用の桃太郎トマトを使用

トマトづくりについて、井出さんは子育てに例えてこう話します。

「子どもと同じ命だからモノみたいに扱っちゃったら、あとあと収穫量に現れるもの。

子どもの健康のために、部屋を清潔にしてバランスのとれた食事を食べさせるように、育てる環境をクリーンで適切な湿度に整えて、その時々に必要な養分を与えるようにしています。薬を使う前に治してあげられるように、ちょっとした異変がないか目を配りながら」

▲桃太郎以外にも、現在13の品種を栽培。実は暑さが苦手なトマト。真夏の藤沢ではおいしいトマトが採れないため、今年夏より朝露高原にも農場を新設、年間を通して生産できるように

設備への惜しみない投資のほか、栽培環境や作業内容のデータをとり、その実績をもとに栽培計画を立てている井出トマト農園。

昔ながらの方法ではなく、新しい方法を取り入れることでおいしくて安全なトマトづくりにアプローチします。これらの取り組みの根底にあるのは、農業を誇れる仕事にしたいという思いです。

「日本では農業は家業であって、企業ではないんです。僕は農業を誇れる仕事にしたくて、だから農園を会社組織にして、若い人が憧れる環境を整えたいと思ってます」

井出トマト農園では、これまで培ってきたノウハウを提供できるように、独自のシステムを開発。日々の作業内容を入力をすることで、生産性の分析をするアプリの制作を進めています。

▲鮮度を落とさないうちに出荷できるように、瞬時に判別できる選果機を導入

▲選別されたトマトはスタッフの手で袋詰めされていました

■食べる人の顔が見える場所で

農園の隣には直売所があり、私たちがうかがった平日午前中にも次々と人が訪れていました。

直売所があることで、完熟したトマトを新鮮なうちに提供できること、お客様の声を聞けるので改善点を見つけることもできます。

▲写真の直売所のすぐそばにはハウスが。ちゃんとやっているかチェックしてもらうために、オープンな環境で栽培されています。その一環で農園でトマト狩りをするイベントも開催、昨シーズンは半年で2,700人が来場したそうです

大事なのはお客さんが食べてどう思うかということ、と井出さんは言います。

「基準以下の添加物は、書かなくてもいいルールなんです。でも保存料が身体にどう影響するかはまだ実験段階だから、うちでは使っていません。だから、このジュースやケチャップはちゃんと腐りますよ。直にお客さんと接しているから嘘があるものはつくれないよね」

カテゴリ:エンベロープ, エンベロープフードホール, おいしいつくり手

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