イベント・ニュースや読みもの note

20.06.18

《リゼッタのアトリエを訪ねて》カゴのはなし

リゼッタオンラインショップと二子玉川店で恒例の「フランスのカゴ展」が開催されています。デザイナーの平が綴る、自身の暮らしの中にある「カゴのはなし」をお届けします。
※この記事は、リゼッタのホームページに掲載の記事を加筆・再編集したものです。

■暮らしの中にあるカゴ

私の家には長く使われてきたカゴがいくつかあります。柳、あけび、籐、竹。ほかにもラフィア、麦、アラログ…。もう何十年なんてものもありますし、新参ものもいます(最近はさすがにあんまり増えませんが)。

昔パリの朝市でよくモロッコ製のマルシェカゴを携えて買い物するマダムをみかけて、それはそれは憧れたものです。チーズやソーセージ、野菜や花。買ったものはどんどん紙にくるんでお店のひとがカゴにいれてくれてレジ袋など無縁です。

そもそも子供の頃からバスケットが大好きで、お出かけには必ずトランク型の籐のバスケットを持っていました。そんな切っても切れない私のカゴのはなしです。

台所まわりで使うカゴは日本のものがほとんどです。竹で編まれたものが多いですね。考えてもなかったですが、野菜をあらったり茹で上がったものをこしたりする、ざるやお弁当箱は竹だからこそなのかもしれません。

細く裂けて、しなりがよく、丈夫な竹だからこそ小さなものもつくることができるのかもしれませんね。いつかフランスの職人に竹のカゴを贈ってとても喜んでくれたことがありました。フランスには竹林がないですから。貴重なカゴです。

カゴバッグ。手提げ袋より整理されてものが入ります。必要なものを一目で取り出せるのも重宝します。すぐにものを見失う私にとっては魅力です。

こちらのカゴは資源ごみをまとめて持っていくのに使っています。ムッシューパトリックのカゴです。ゴミ置き場でそれぞれのリサイクルに分けていれたら納戸において、溜ったらまた持って行きます。

私のカゴ愛を確実なものにしたのが、このフィリップのつくるペリゴールのカゴ。お盆を曲げたようなフォルムで間口が広いので、見せて収納したり果物の追熟にも一役買います。

渦巻状の見たこともないこのカゴ、はじめて本で見たときに衝撃を覚え、以来いつか出会いたいと思っていましたのでフィリップとの出会いは私にとっての運命の出会いでもありました。

フランスにおける民芸の美しさは、その土地に根付いた脈々と伝わる揺るがないフォルムと、主張せず決してひけらかすことのない職人の腕と才能にあると思います。

フランソワがつくる持ち手の付いたカゴは、いろいろな種類の柳をつかって編んでいます。赤や青、黄色…皮をむかずに編んでいて本当に美しいです。無口な彼は見るからに真面目で繊細、自ら畑を所有して柳を育てています。

私はお買物に。食料を傷めずに運べますし、とにかく丈夫。公園でお弁当を広げることもあります。

衣類を入れているやや大きめのオーバル型のカゴ。これもフランソワのものです。貴重な黒い柳で編んだカゴです。

フランソワの緻密で丁寧な仕事はいつも完璧です。人柄が作品にも出るのでしょうか。

フランソワやフィリップに出会って柳にはたくさんの種類と色があることを知りました。そしてものづくりへの執念みたいなものも。

最近訪れて知ったオーベルニュ地方のカゴはコロンと丸みのあるフォルム。 布巾を整理したり、洗面所でタオルをいれたり。

よくみる基本の皮をむいた柳のカゴは、洗濯ものやリネン庫として使っています。20年選手でいい飴色になってきました。

そして最後にジルとイヴリンのカゴバッグ。蚤の市でしか見たことがなかったこのカゴを今もつくっている人がいたことに驚きました。

3日でひとつくらいしか編めないこのカゴは籐を細く裂いて編んでつくります。そのむかし、職人はこのカゴのミニチュアを編んで町に営業に出たらしいってジルは話してくれたその半年後、私の元に小さなミニチュアのフィヨンセバッグが届きました。

ジルは昨年、仕事を引退しました。久しぶりにパリ近郊のカゴのマルシェで会った彼の告白に私はことばを失いましたが、一昨年に一緒にカゴをつくっていた妻のイヴリンをなくしたこともあるのかもしれません。

私は彼にイヴリンに捧げるバラの花の苗を渡しました。最後にポーランドのカゴ職人の大会に出ること、「私たちの関係が10年続いたら日本に行きたいの!」と言っていたイヴリンの話をして別れました。

私は彼らに出会ってたくさんのことに気づかされました。それは人生の財産となり、いつも私の心の指針となりました。

カゴは世界中にあります。我が家はフランスのものが多いですが、アジアや日本のものも多くあります。料理や洗濯、毎日の生活のなかで使えば使うほどに職人の技に魅せられています。

そしてそれらは皆、ひとつひとつ人の手で編まれ、つくられているという大量生産とは真逆の世界です。でも天然素材100%の原始的な暮らしの道具たちは、少なからずとも生活の一部始終にほどよい安息をもたらしているに違いありません。そして自然界のなかの一部として廻りつづけることへの安心感も…。

平真実

《リゼッタのアトリエを訪ねて》今だからこそつくりたかった布地「トワル ド ジュイ」 vol.02「マリーテキスタイルの染色工場を訪ねて」

カテゴリ:リゼッタ, リゼッタのアトリエを訪ねて

「リゼッタのアトリエを訪ねて」バックナンバー
最近の記事
Top