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2015.12.22
二人のお店ものがたり 後半 Lisette平真実×OXYMORON村上愛子
リゼッタのデザイナー平真実さんとOXYMORONのシェフ村上愛子さんに聞く、お店づくりとものづくりの話。後半では「今の自分をかたちづくっているもの」について語ってもらいました。「二人のお店ものがたり」、前半はこちらからご覧ください。
■ 音楽の世界から食の道へ
いつどんな風に二人はその道に出合い、進んでいったんだろう。現在の自分につながるきっかけについて聞きました。
エンベロープ: 村上さんは子どもの頃から料理が好きだったんですか。
村上: それがそういうわけではなく、子どもの頃はバイオリン中心の
生活だったんです。中学で一度音楽から離れたけれど、
高校で楽器を替えて大学受験しました。
カレーづくりのきっかけは、以前もお話しましたが雑誌のdancyuです。
音楽を学んでいた大学生の頃ですね。
シェフ自身がこと細かにカレーのつくり方を紹介しているんですけど、
つくりやすいようにアレンジされてないところが面白くて
自分でもやってみたんです。
そこからどっぷりとはまってしまって…カレーづくりのはじまりはそこからですね。
エンベロープ: 今のカレーに集中する感じは、音楽で培われたものなんですね。
でも大人数分の料理をつくっていた経験があるとはいえ、
これまで歩んできた世界から全く違う道への転向は大変じゃなかったですか。
村上: そうですね、苦労話なら山ほどありますよ。
お店で働いた経験がないから右も左もわからなくて
それこそ仕入れをどうすればいいのか、どうすれば効率よく仕込みができるのかを
試行錯誤しながらのはじまりだったんです。
食べられないようなものを鍋いっぱいにつくってしまったこともあるし、
自宅で沢山の人にカレーをつくってはいたけれど、
お店をオープンしたからといって足を運んでくれる人は少なくて、
ふるまうのとお金をいただくことの違いも痛感しましたね。
最初の店をオープンした時は、
「今日お客様が一人も来なかったらどうしよう」と思うくらい
毎日ヒマだったんですよ。
今思えば、見通しのきかない地下にあったし
初めての人には入りづらい店だったと思います。
それでもめげずに毎日スパイスと奮闘していました。
楽しかったんです。
■ものづくりに生かされている幼い頃の経験
平: 振り返ってみると、私は小さい頃の経験が
今につながっている気がします。
外国のものにとても興味があったんですよ。
「大草原の小さな家」に登場するショールを編むお母さんや、
ボネをかぶりペチコートを何枚もはいたりする暮らしに憧れていた、
あの頃からはじまっているんじゃないかって思います。
平: また父がちょっと風変わりな人で、
古い洋館を好んで借りて住んでいたんです。
ガラス張りのサンルームやマントルピースがついているような家で、
子供心には素敵というより正直怖かったんですけど、
その記憶が今役に立ってます。
エンベロープ: マントルピースがある家というと、
表参道の新しい店みたいですね。
平: そうですね。表参道の店「UNE MAISON LISETTE」は、
私が生まれたころに建てられたであろう一軒家です。
小さな子ども部屋が二つあったので、
私ぐらいの歳の子供が住んでいたんだろうなとか、
家族はどんな風に暮らしてたんだろうとか想像を膨らませました。
移り変わりの激しい街並みの中で、この小さな家では
静かな時間が流れていたに違いないと思えるようになって、
ここで大切にされてきたものはなるべくたくさん生かそうって決めました。
あの「ちいさいおうち」みたいなお話ですけど、
結末は今のところ違っています。
エンベロープ: 古いものや昔ながらのものを受け継ぎながらの
服や店づくりは、子供の頃の経験からきているものなんですね。
それは、フランスのかごなど時代の変化とともになくなりつつある
いいものを紹介する姿勢にも通じている気がしました。
平: リゼッタで扱っているかごは、年に一度しか刈らないフランスの柳で
つくられているものなんです。だから丈夫で長持ちなのですが、
一日に1個もできないかごの作り手はどんどん減ってしまっているんですよ。
及ばずながらこの素晴らしい工芸が残ってほしい思いつつ
毎年かご展をつづけています。
リゼッタの服も、ずっとそばにおいてもらえるような
大切に着続けてもらえるようなものをつくっていきたいと思ってます。
***
出発点や歩く道はそれぞれ違っていても、自分たちがつくったものを
お客さまと近い距離で伝え提供していきたいという思いは共通している二人。
そんな二人のお店づくりはこれからもつづいていきます。