2019.5.05
気づけるひと
昨年、shedでの展示「fleurs sauvages et utopiano 二人展・野生の花たち」にゲスト参加してくれた、 自然造形家のノグチダイスケさん。遠く北海道から、見たことのないような素朴で美しい植物の標本を届けてくれました。
そのときご本人には会えませんでしたが、ノグチさんの話をする utopianoさん達は心から楽しそうでした。
「平日は普通のサラリーマン。札幌の中心でスーツを着ているのよ」「毎朝山に登って植物を採取して背中のかごに入れて…」そんな両立ができる人、存在するんだ!と思いました。
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いつかお会いしてみたいな…と思っていたところ、 つい先日、埼玉のイベントに出展していたノグチさんにご挨拶することが叶いました。
リネンの服に包まれた、丸眼鏡でマッシュルームカットの、私より年上の男性。 他の出展者がテントを張っている中、木陰にアンティークの椅子と机を置き、白い布を敷いて植物や古い小物を並べています。
「やっとお会いできましたね」穏やかな口調と子供のような笑顔は“森に住む画家(肩にはリス)”というイメージがぴったりでしたが、本当に、普段は札幌でスーツを着て働いているそうです。
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「これは2年前に拾った…」「これは北海道に生息しない植物の実だけど昔奈良から植えたおじさんがいて…」
なんでもない石や植物ひとつひとつ、出合ったときのことをノグチさんは全部覚えていて、私が手に取るたび、物語のように聞かせてくれます。
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「山の中はどこをみても美しいものがあって、なかなか足が進まず大変です」とおっしゃるノグチさん。私も同じ気持ちになったことがあると、昨年行った葉山の砂浜を思い出しました。
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永遠につづく砂浜のいたるところにきれいな石が落ちている、と気づいてしまい、拾って歩いていたらだんだんと日が暮れてきて「これは大変だ…終わらない」と、なぜか悔しくなりながら帰ったのです。
そのときのあたたかい日差しや海の音は、心地よい記憶として残っています。
ノグチさんに会ってその日のことを思い出し、普段の生活にもきっと当たり前のように美しいものがあるんだ、そのことをまた忘れていた…と改めて気づかされました。
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気持ちの良いこれからの季節。朝は川沿いを歩いて通勤してみたりして、私も当たり前の美しさに気づけるよう、余裕のある時間をつくっているところです。
葉山の砂浜にもまた石を拾いに行きたいなと思っています。
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