フランスルーアンの街で服づくりをするデザイナー、
ソリアノ綾佳さんからのお便りをご紹介します。
ルーアンは、パリから電車で1時間ほどの場所にある街。
この街でソリアノさんは自身の目で選んだリネンで服を仕立て、
年に一度リリース。エンベロープでもその作品をご紹介しています。
ソリアノさんについての紹介記事はこちらから »
2024.6.03
ようやくあたたかくなってきたなと思いきや、
冬服を引っ張り出すほど寒い日もあり、
この春はまるでジェットコースターかのような寒暖差がありました。
我が家は食材のほとんどをマルシェか農場の直売所で
購入していますが、春先の悪天候で野菜の生育に影響があったようで、
今年は初物の出が遅いように感じます。
愛犬トラの散歩中、サクランボの大きな木を見つけました。
まだ緑色で実も小ぶりでしたが、この枝先がたわわになる頃は
フラックスも花畑になるかしら、と何を見てもついリネンのことに
思いを巡らせてしまいます。
フラックスは3~4月に播種をし、鮮やかな黄緑色の小さな葉を
たくさん生やしながら真っ直ぐに育ちます。
畑を見に行く毎にぐんぐん伸びているので、
5月は特にフラックスの生長期といえるのではないでしょうか。
その生長の早さは、会う度に大きくなっている
成長期の甥っ子みたいです。
フラックスも人間の子も皆どうか、立派な熟年期を無事に
迎えておくれよー!と祈るような気持ちでいます。
と言いますのも、ここ数年、夏の猛暑と雨不足により
フラックスの収穫量が減少しているそうです。
その「ここ数年」がもう毎年のように続いているので、
この先これがスタンダードになってしまうのではないか、
つまりこの異常気象のせいで更に収穫量が減るのではないか、
という心配をしています。
需要に対して採れる量が少ない、ということは製品コストの
上昇に繋がります。
生地を購入してご自分でお洋服やお裁縫をされる方は
お気づきかと思いますが、おそらくリネン生地の価格が以前より
高くなっているのではないでしょうか。
過去にこのアトリエだよりで、耕作期間をずらし
真夏の猛暑になる前に畑から収穫物を回収をする
「冬リネン」について書いたことがありました。
こちらとこちらのおたよりです。
名前のとおり越冬できるよう開発された品種で、
こちらは秋頃に種蒔きをします。
通常のリネンよりも収穫までに倍くらいの期間が必要なので、
それだけ生産コストがかかると想像されますし、
収穫量の足しにはなってもそれで生地代が下がるかといえば……
リネンの代替えとはまた違うのかもしれませんが、
フラックス農家さんがヘンプの栽培を始めたという話を聞きました。
そういえば前に生地屋さんでヘンプ生地を買ったまま
放置していたことを思い出し、早速ワンピースを縫いました。
繊維構造が中空のため通気性に優れている点ではリネンとよく似ており、
肌触りもさらっとしていて夏向きだと思ったので半袖にしました。
ヘンプは繊維が太くばらつきがあるので紡績が難しいのだそう。
そのためネップやスラブといった節が生じやすいそうですが、
確かにネップはあるけれど縫製過程ではそこまで気になりませんでした。
意識しながら布を扱ったので、リネンよりもブリンとした弾力があるなとか、
シャリ感もやや強めかななど、その違いは言われてみれば気が付く程度で、
何も知らなかったらリネンだと勘違いしたかもしれません。
ヘンプの生産地は世界各地にあるようなので、もしかすると近い将来、
生地屋さんのリネンコーナーにヘンプ生地が数多く並ぶ日がくるのでしょうか。
品種改良や代替え品を考えるのは必要なことですが、
根本の原因である気候変動が解決されない限り、
私達は永久に代わりを探す運命になってしまうと思います。
リネンを通して危機感を募らせています。
ENYO ソリアノ
http://laviedenyo.blogspot.com/