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18.12.14

《おいしいつくり手》昔ながらの在来大豆を守って/豊国屋

ほっくりと甘くて大豆そのもののおいしさが感じられる、豊国屋のきなこや蒸かし豆。その原料となるのが、相模原市で昔からつくられていた、津久井在来大豆。一時は消滅の危機にあった、「幻の大豆」を収穫する様子を見せてもらいました。

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■大豆に支えられる私たちの食卓

醤油、味噌、納豆、豆腐、油揚げ…。日々私たちの食卓に並ぶ食品づくりに欠かせないのが、そう大豆です。

けれどそのほとんどを外国産に頼っているらしい。そんな話を聞いて調べたところ、神奈川県で地大豆「津久井在来大豆」を守る取り組みがあることを知りました。

▲栗のように甘い津久井在来大豆。味はしっかりしているけど、脂肪分が少ないからあっさり

津久井在来大豆とは、もともと神奈川県津久井郡(現在の相模原市緑区の千木良〈ちぎら〉地区)で栽培されていた大豆。つくり手の減少とともに一時は絶滅しそうになるのですが、2000年代前半から昔ながらの大豆を守ろうという動きが広がっています。

フードホールでご紹介している「豊国屋」の岡本政広さんも、その取り組みに賛同する一人。おいしさに惚れ込み、同市内で酒屋を営みながら大豆を使った食品づくりを手掛けています。

▲豊国屋の「津久井在来大豆の蒸かし豆」(左)と「津久井きなこ」(右)。大豆ってこんなに甘かったんだ!そのおいしさに驚き、フードホールで扱わせてもらうことになりました

■パキーンとはじけ飛ぶ、生命力の強さ

「大豆が収穫の時期を迎えますよ」と岡本さんから連絡をいただいたのは、11月はじめのこと。岡本さんが生産をお願いしている、海老名市下今泉の塩脇和弘さんの畑を訪ねました。

ショッピングモールが並び駅前はにぎやかな海老名ですが、少し車を走らせた場所には田園風景が残されています。

▲津久井在来大豆は相模原市のほか、近隣の海老名市や座間市、厚木市などでもつくられています。ここ塩脇さんの畑では7月初旬に種をまき、紫色の花を咲かせるのが8月ころ。秋の訪れとともに葉が徐々に色づき、11月に収穫します

現在海老名市で大豆を手掛ける農家はわずかですが、以前はあちこちでつくられていました。

塩脇さんの家でも、塩脇さんが幼い頃には自家製の大豆で醤油や味噌を仕込んでいて、醤油になる諸味を搾りに職人が訪れていたのだとか。おぼろげな記憶ですが、醤油を搾ったときのいい香りを覚えているそうです。

7年前に大豆の栽培を再開した時には、昔つくっていた人たちが色々と教えてくれたといいます。「大豆は11月3日までに刈っときなさい」と教えてくれたのは、みんなから農業の仙人と慕われている人。

「11月の晴れの日は3日までで、4日以降は2週間くらい雨がつづくからって。今年は本当にその通りになりました。ここの気候風土を知り尽くしている人ならではの言葉ですよね」

葉が茶色く色づいた大豆が並ぶ畑。鞘(さや)をふってカラカラと音がしたら収穫のタイミングだそうですが、なんと大豆自身が鞘を破ってはじけ飛ぶのだそう。

▲自分から飛び出てくる豆。元気な証拠です

「パキーンって音を出して飛んでいくんです。子孫を増やそうと遠くにいこうとするんでしょうね。こっちは必死になってそれを集めにいって、追っかけっこしてるみたい。

津久井大豆は蒔いてすぐに芽が出るし、生命力が強いんだと思う」

品種改良されたものは収穫しやすい位置に実をつけて、おとなしく鞘の中におさまっているのだとか。

それに対し、津久井在来大豆は機械でとりにくい場所に実をつけます。人間が育てやすいように改良されていない昔ながらの品種は、何かと手間がかかるもの。塩脇さんは「結局これが一番」とハサミを手に一つ一つ収穫していました。

▲収穫後は畑で2週間乾燥させ、脱粒機で鞘から豆を取り出します

■生産者と手を取り合って

今年から大豆づくりをはじめた池田彰太さんの畑にも、お邪魔しました。

現在大学生の池田さんですが農業の経験は長く、小学生の頃からお祖父さんの畑で農作業をしています。

大根やキャベツ、ブロッコリなど冬に向けての野菜の中に、大豆を発見。まだ青い葉のものが残っていますが、このままいけば無事収穫できそうです。

▲大豆になる前の枝豆の状態

▲こんなにきれいな大豆ができていました。「彰太、来年はもっと場所を広げてつくってよ」と岡本さん

津久井在来大豆は消滅の危機は脱したものの、それでも人気が高まり需要に対して供給が足りていない状態。

機械化が難しく効率がよいとはいえない品種ではありますが、岡本さんが声をかけ、そのことを理解してくれる人によって育てられています。

▲左から岡本さん、塩脇さん、池田さん。今年はお休みしていましたが、岡本さん自身も耕す人。生産者が集まると自然と情報交換がはじまります

■この大豆が、なんでもおいしくしてくれる

最後は、岡本さんの店「豊国屋」(相模原市南区)でお話を聞きました。

▲食への意識が高い岡本さん。地酒だけでなく食材のラインナップも充実。店内で食に関連したワークショップも開催しています

岡本さんと津久井在来大豆との出合いは、平成18年のこと。味噌づくりのワークショップに参加をして、そこで食べた煮豆のおいしさに衝撃を受けたといいます。

その後、神奈川県農業技術センターで学び栽培をスタート。奥様とともに、大豆を使った加工品も手掛けるようになりました。

▲ほんの一部ですが、豊国屋オリジナル食品。どれもおいしくて、身体に優しいことを大切につくられています

「津久井在来大豆はやっかいもんの大豆っていってね、たんぱく質が少ないから豆腐をつくってもなかなか固まらないんだよ。でも他の品種と比べると、明らかに甘味が際立っている。何をつくっても大豆が全部おいしくしてくれちゃうんだ」と岡本さん。

風土に根ざした大豆を守っていきたいという思いから、これまで納豆や味噌、ドレッシング、お菓子など数々の食品を生み出しました。

豊国屋では、地酒とともに岡本さんが全国各地に足を運んで見つけた選りすぐりの食材も販売しています。

「その土地ならではのおいしいものでも、世に出ないで消えていくものっていっぱいあるんだよ」そう岡本さんは言います。

40年ほど前から安価な輸入大豆が入ってきて、徐々に居場所をなくしていった国産の大豆。それぞれに他の土地にはない味があったのだと思うと、もったいないと思わずにはいられません。

大豆の味に違いがあるなんて考えたこともなかったのですが、津久井在来大豆が多様性があることの面白さと、それを守る意義を教えてくれました。

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カテゴリ:エンベロープフードホール, おいしいつくり手

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