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20.03.18

《おいしいつくり手》切れるように、研げるように。「吉實」のずっと使える包丁づくり

憧れの一生ものの包丁。そのための条件って何だと思いますか。値段?あるいは使う人の扱い方?大事なのは包丁の素材、そしてつくられ方だと教えてくれたのは、東京亀戸に店を構える「吉實」(よしさね)の吉澤和さん。今回は暮らしに欠かせない道具、包丁のお話。毎日使っているのに知らないことが沢山ありました。

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■包丁の話の前に、まずはカレーの話から

吉澤さんご登場の前に、少しだけ身内の話をさせてください。

エンベロープでご紹介することになった吉實の包丁、それ以前からお世話になっているのがオクシモロンのスタッフです。

さすがに玉ねぎのみじん切りはカッターを使うものの、オクシモロンではカレーの材料を包丁で切っています。

スタッフは使い慣れた自分の包丁で仕事をしていて、ほとんどの人が愛用しているのが吉實のもの。

▲店主でありシェフの村上をはじめ多くのスタッフが愛用(写真は8寸サイズの洋包丁)。定番のエスニックそぼろカリーの薬味も、もちろんこの包丁で

「野菜の繊維をつぶさずにふわっと仕上げられる」「肉の断面がきれいに切れる」「刃が薄く軽いから、長時間使っても疲れない」「 切り物が楽しいし、包丁を大切に扱うようになった 」…

使い心地をたずねると、出てくる出てくる。カレーづくりになくてはならない存在だと伝わってきます。

基本的には対面販売をされている吉實ですが、そんなご縁もあってオンライン上でのご紹介が実現しました。

■職人から職人へと引き継がれ包丁に

江東区無形文化財の老舗。名だたる料亭の板前も足を運ぶ店と聞いていたので、少しドキドキしながらの訪問でしたが、そんなこちらの緊張を和らげてくれた吉澤さん。

「包丁のことを伝えられるのはうれしいこと」と温かく迎えてくれました。

▲2代目であるお父様の背中を見て育った吉澤さん。継ごうと意識していたわけではなかったけれど、いざ職を決めるときに自然と同じ道を選んでいたのだそう

柳刃や出刃などの和包丁から、家庭で使われる三徳庖丁まで数々の包丁が整然と並び、その中心に研ぎ場が設えられている店内。吉澤さんいわく「ここは最終チェックの場所」なのだとか。

というのも吉實の包丁はひとところでつくられるのではなく、金属を叩いて焼き入れする鍛造、かたちを整える地研を経て、ここで刃を研ぎ上げる「本刃付け」をして完成するのです。

「手で仕上げると、材料のことや前の職人の仕事がわかるんですよ。ここでは本来の切れ味になるように仕上げるのと同時に、硬くて粘りがある金属がちゃんと使われているか、焼き入れに失敗していないかを確かめています。
 
何の判断もないまま、お客様の手に渡るのはまずいことですから。単純に心配性っていうのもありますけどね(笑)」

買ったものが壊れても誰も解決してくれなくて、泣く泣く諦めた。そんな経験はないでしょうか。そこは潔く責任を担うのが吉實流。

そもそも違和感を感じたものは商品にしないし、お客様のもとに送り出したからには、とことん面倒を見てくれます。つくりっぱなしで終わりではなく、そこから長いお付き合いがはじまるのです。

▲刃には見たことがない擦ったような跡が。これこそが研ぎ跡。間違いのない道具に仕上げましたよという証です
▲見てください、この切れ味。こんな風にすべらせただけですーっと切れてしまうんです

■切れると同じくらい大切なのが、研げること

「はじめて使ったとき、切れ味がよすぎて思わず笑ってしまった」とは、あるオクシモロンのスタッフの言葉。

そんな表現が大げさではないくらい、吉實の包丁の切れ味のよさは感動もの。なのですが、ご本人に言わせれば「切れるのは当たり前」。それと同じくらい大事なのが「研げること」だといいます。

どんなにいい包丁も、使っていくうちにどうしたって切れ味は落ちてきます。その時に刃先から刃元まで満遍なく研げるようにつくられていれば当初の切れ味が復活し、長く使いつづけることができるのだそう。

素材の硬さもまた大事な要素。 硬度があるよい材料でつくられていれば、切れがもつ のです。

切れるように、そして研げるように。吉實の包丁はその二つが叶うようにつくられています。

全国各地に赴く催事では、旅立った包丁が研いでもらうために戻ってくるそうです。色んな家庭の食を預かる包丁が、それはもう山のように。

中には研いで使ってを繰り返し半分ほどになった包丁もあるというから、お客様とのお付き合いの長さに驚かされます。

昔は一般的だったそうした末永いお付き合いも、今となっては珍しいものに。時代の流れでもありますが、先人の知恵が詰まった日本ならではの道具が廃れていくようで歯がゆさもあるようです。

「『ずっと使える道具』というのは、使い手にとっては一番いいことなんですよ。でもつくり手にとってはまずいんですね。儲かりませんから。

ものづくりが利がでる方にシフトしていった結果、本物をつくる人が減り、今はすぐに使えなくなっても安ければ許されるようになってしまっているように感じます」

そんな中ずっと使えるものをつくっちゃって、大丈夫なのだろうか。思わずそんな大きなお世話を口にしてしまったのですが、吉實さんは大丈夫じゃないですよって冗談ぽく笑ってから、「でもね」とこんな話をしてくれました。

「やっぱりそこにはつくり手の喜びがあるんですよ。

板前さんからはこんな料理をつくったって話が聞けたり、一般のお客様からは『この包丁がないとうちの食事はなりたたないのよ』とか『これで子ども何人育てました』なんて言葉がもらえて、そんな道具がつくれるなんて誉れなことですよ。

こうした経験ができるのはこの商売ならでは。だからいいんです。覚悟をもってやります」

■おろしたての感動、時間が経ってからも再び

吉實の商品は買ってすぐの「なんて切れるんだろう」って感動と、その後研いでみて蘇る切れ味に「いい包丁だな」って喜びの両方が味わえる包丁です。

研ぐって初めての人にとっては何とも難しそうな響きですが、ご心配なく。

「うちの包丁は誰でも研げるようにつくってあるし、ちょっとやそっとじゃ壊れないから大丈夫。万一何かあっても、たいていのことなら修理できますよ」って頼もしい言葉をいただきましたから。

だから安心してご自分でもやってみてください。包丁と仲良くしていると、研ぐ頻度や研ぎ方など自分にとってのちょうどいい具合がつかめてくるはずです。

キャベツの千切りをしながら思わず鼻歌が出てしまうような。「切れる、研げる包丁」には気分を上げてくれる、そんな力があります。

* 吉實の ステンレス 洋庖丁 はこちらのページでご紹介しています

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カテゴリ:エンベロープフードホール, おいしいつくり手

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