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20.01.14
《つくり手ファイル》埋もれた知恵を繋いでいく/ヌ 横張圭祐さん
長く使うことを前提に、見えないところにも思いを込めてつくられた「ヌ」の革小物。二子玉川shedでの個展を前に、つくり手の横張圭祐さんにお話を伺いました。
■鞄の修理のかたわらで
「古いものから知恵を発掘して、自分のものにしていくのが楽しいんです」
そう話す横張さんは、鞄の修理職人として働きながら、自身の革小物ブランド「ヌ」で鞄や財布を製作しています。
横張さんが勤めている修理会社は、かつて鞄のメーカーだったこともあり、修理するのは鞄のみ。その歴史と豊富な知識から、いろんなところに断られるような古い鞄が最終的にやってくる、駆け込み寺のような存在です。
「古い鞄の中には、見たことのないつくりのものが紛れているんです。こんな金具、こんな技法があったんだ!と修理していくうちに発見して…それを新しく形にしてみたい、と思うようになりました」
そうして「ヌ」の革小物づくりがはじまります。
■知恵と思いをしのばせて
「ヌ」の鞄には、横張さんの修理職人ならではの視点がいくつも取り入れられています。
たとえば、この「口枠バッグ(角型)」。一見すると、持ち手が本体に縫い込まれているようですが、実はねじで留められているんです。
「革小物を修理するときは、一度あいた針穴に刺すのが基本。たくさん穴があくと革が弱り裂けやすくなります。
この鞄の場合、ねじで留めたあとに下の一直線だけを縫い留めているので、修理しやすく革にも無理をさせない仕様になっています」
これも、古い鞄を修理したときに見つけた方法だそう。だめになりやすい持ち手を外して交換し、長く使うことができます。
そんな「見えないアイディア」は、持ち手の芯にも隠れていました。
ほとんどの鞄は、持ち手の芯にプラスチックや綿ロープが使われていますが、こちらの鞄は、表に使える程ぎゅっとつまった革を芯にしています。
「ある高級ブランドバッグを修理で解体したとき、持ち手の芯に革ロープが使われていたことに感激して。自分でつくる鞄も、見えない部分にきちんと気を使いたいと思いました」
修理のしやすさ、という視点から横張さん自身で生み出したアイディアも。
縫うことを最小限に抑えたこちらの「差し組み財布」は、切れ込みが入った革を交互に重ねることで、たくさんの仕切りをつくり出しています。
まるで飛び出す絵本みたいのように広がるお財布。使っているうちにばらばらになることはなく、不具合が出たら外して修理しやすくなっています。
「いつか修理に出されたとき、知らない職人さんが驚いてくれるかも…。いつかの誰かが考えた知恵を、また次の誰かが見つけてくれたら、 それはとても嬉しいことです」
■素材に無理をさせないものづくり
「ヌ」の鞄と財布は、形ごとに革の種類が決まっています。それも、使い方によって革に無理をさせたくないからだそう。
「差し組み財布」には、手の摩擦でつややかに変化するイタリア製のバケッタレザーを、「押し口」という近頃あまり見かけない口金を使った小銭入れには、柔らかなゴートレザーを使っています。
また、革に合わせる金属は、酸化するほど色に味わいが出る真鍮がメイン。それにはこんな理由がありました。
「メッキをかけたり塗装したり、いかに人工的に加工してもやっぱりどこかからか錆びてくるもの。
でも、酸化する=元あった姿に戻ろうとする働きだから、素材自身の気持ちになるとそんなに悪いことじゃないと思って。
革も使ううちに変化するし、金属も錆びたり変色したりすることで、生きている感じがして面白いと思っています」
修理職人として、長く大事に使われた鞄に触れることの多い横張さんだからこそ、時とともに変化した素材の美しさに気づいています。
二子玉川shedの個展には、「ヌ」のすべてのラインナップが揃います。
長く使うことを前提に、どこまでも横張さんの意識が行き届いた革小物。みなさまの中には、もしかしたら懐かしく感じるデザインのものがあるかもしれません。
ぜひ横張さんにお話を聞きながら選んでくださいね。
ヌ 個展
2020年1月24日(金)-1月26日(日)
12:00-18:00(最終日17:00)
shed(東急田園都市線、大井町線二子玉川駅から徒歩約3分)
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