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20.02.12
《つくり手ファイル》さりげなくあたたかい、デンマークの糸仕事/vinoneliö 上野かおりさん
古いヨーロッパの日常着を元に服をデザインする、vinoneliö(ヴィノネリオ)の上野かおりさん。デンマークに留学し、おおらかな環境で学んだ手仕事が細部に落とし込まれています。二子玉川shedでの個展を前に、上野さんにお話を伺いました。
■日常にある、ひそかな楽しみ
vinoneliöの服を手にしたら、まずは近づいてじっくり眺めてみてください。
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よく見たらレースのような刺繍が施されていたり、袖口のボタンが糸だけを使ってつくられていたり…。ささやかだけど、細かな手仕事が隠れています。
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散歩中に立ち寄った夕日がきれいに見える坂、いい香りのする花が咲く道。vinoneliöの服にはそんな、自分だけが知るひそかな楽しみのような感覚があります。
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日々の延長線上にありながら、少しの遊び心を感じる服。その手仕事のきっかけは、つくり手である上野さんのデンマーク留学での経験にありました。
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■あたたかい環境が育てる手仕事
高校から大学にかけて服飾を学び、基礎的なことは何度も勉強したという上野さん。
一度アパレル企業に勤めたあと、自分の手を使って服づくりをしたいという思いが募り、 デンマークにある手工芸学校に留学を決めました。
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通ったのは、織り、刺繍、編みものなどあらゆる技術を学ぶことができる、60年以上の歴史を持つ手工芸学校。
「デンマークの学校では、授業中にみんなそれぞれ『こういうものがつくりたい』とやりたいことをやっていて。先生も、ひとりひとりに合わせて教えてくれるんです」
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学校は17.5歳以上なら入れるので、上野さんのクラスにはいろんな年齢の方がいました。
高校が終わって大学に入るまでの短期間で学びにくる女の子がいたり、近所のおばあさんが通っていたり…。世代や国を越えて、好きなものの同じ人々が集まって受ける授業は、とても楽しくて幸せな時間だったそうです。
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「この学校では、つくっているものを周りのみんなで自然と褒め合っていました。同じクラスのおばあさんが『いいじゃない!』と声をかけてくれたりして。それが嬉しくて」
どんなことも受け入れてくれる、あたたかく自由な環境で得た経験は、心から身につくものなのかもしれません。
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■デンマークの伝統刺繍に出合う
デンマーク留学を経た上野さんの服に詰まっているのは、今ではなかなか見かけないささやかな手仕事。
きっと機械で済ますことだってできるような、手間のかかる「ヘムステッチ」も、昔ながらの手仕事として取り入れデザインに活かされています。
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さらに、装飾はどれもさりげなくて繊細な印象。それは、白いリネンに白、黒いリネンに黒…という風に、同色の糸を使っているから。
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布と同色の刺繍をするきっかけになったのが、デンマークの古本屋で出合ったこの本。白いリネンに白い糸で装飾をする伝統刺繍HEDEBO(ヒーダボー)でした。
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「留学中にヒーダボー刺繍の存在を知って。織りものを中心に学ぶつもりが、気づいたら夢中になっていました」
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vinoneliöの服に使うボタンも、この本に載っていたとおり同色のリネン糸を使って手づくり。手芸道具ヒーダボースティックに、リネン糸を巻いてつくっています。
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■昔の生活着に着想を得て
上野さんが服をデザインするうえで参考にしているのは、昔のヨーロッパの生活風景の写真や、アンティークの古着。
図案やパターンを起こし、今の生活スタイルやファッションに合うようにアレンジしています。
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例えば、ブラウスのスリット部分には、糸でレースのような施しが。これも古いアンティークリネンの服から着想を得たそう。
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「昔の人は、織った布に切れ目を入れて、頭からかぶっていました。その時に切れめの部分が割けないよう糸で補強したのがはじまり。
はじめはシンプルな補強だったけれど、だんだんと装飾されて、華やかなものもみられるようになりました」
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ほかにも、リネン糸を織ってコートをつくったり、シミのあるアンティークリネンをコーヒー染めしてリメイクしたり…。
まるで当時の人々のように、身近にある少ない材料を使って、時間を惜しまず手間をかけて、愛着のある服づくりを続けています。
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二子玉川shedでの展示受注会では、定番デザインのオーダーや、アンティークリネンを使った一点ものの服が並びます。
さらに、アンティークリネンを染めたりダーニングを施したり、古いパーツを使ったり…上野さんが全日在廊してさまざまなオーダーに応えます。
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自分だけが知るような、ささやかな手仕事がつまった服。vinoneliöの服に袖を通すことが、日常のひそやかな楽しみになるかもしれません。
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vinoneliö exhibition
開催日時
2020年2月20日(木)-2月23日(日)
11:00-18:00(最終日-17:00)
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