イベント・ニュースや読みもの note

21.06.18

《おいしいつくり手》東京でつくられる、砂釜焙煎の麦茶/川原製粉所

赤ちゃんから年配の方まで。日本の夏に欠かせないお茶といえば、麦茶。実は東京でもつくられているって知っていましたか。創業昭和15年の川原製粉所。東京都練馬区で昔から変わらずレンガづくりの窯で焙煎した麦茶の味を守りつづけています。

商品ページはこちらから

■東京練馬区で麦茶をつくりつづけて

川沿いの道を歩くと、風がほのかに香ばしい香りを運んできた気がしました。

池袋から数駅とは思えないほど閑静な住宅街、氷川台駅からほど近く。石神井川のほとりに川原製粉所はあります。

▲あたり一帯畑だったという時代から街の移り変わりを見てきた川原製粉所。販売所には近隣の方がひっきりなしに麦茶を買いに来ていました

今回お話をうかがったのは三代目である川原渉さん。「急に暑くなりましたね」と冷たい麦茶で迎えてくれました。

▲しっかり抽出されたお茶が、身体に染み渡るようにのどの渇きを癒してくれました。川原家では少量のお湯で煮出して淹れるそう

川原製粉所の麦茶は、ほろ苦さだけでなく甘味もあってまろやか。麦の香りが広がり、飲み干した時に満足感が残る奥の深い味です。その理由について、川原さんは煎った大麦を見せて説明してくれました。

「左が低温の熱風をあてつづける熱風焙煎で、右がうちの砂釜焙煎です。うちの方法だとどうしてもこうした色むらができるんですけど、それによって薄い部分で麦の甘味を、濃い部分で香りを出しているんです」

二つを比べてみると、砂釜焙煎の方は色の違いだけでなくふっくらしているのもわかります。

「麦がはぜてふくらんで大きくなるんです。表面積が増えることによって、成分がよく出るんですよ」

均一な味で大量生産できる熱風焙煎に対し、生産量は落ちるけれど独自の味が出せる砂釜焙煎。川原製粉所では濃く煎るのが持ち味、麦の香りを引き出した風味豊かなお茶をつくっています。

▲代表取締役の川原渉さん。「3人兄弟の次男なんですけど、性格的に考えて継ぐのなら自分かなって思っていました」

■砂の熱と窯の熱で、大麦の芯まで焙煎

ちょうど工場では焙煎作業中。その様子を見せてもらいました。

原料となるのは国産の大麦。メインで使用しているのは宮城県の久保勇さんが栽培中農薬不使用で育てたものを直接仕入れています。

砂釜焙煎はその名の通り、熱した砂の中に大麦を通して焙煎します。

こちらは模型ですが、石窯の内部ではこんな感じの円筒(実物は鉄製)が回転しています。この円筒に直火をあてその中に砂を循環させ、大麦を投入。石窯自体の熱と熱された砂によって、芯までじっくりと熱を通すのです。

「会社によって焙煎方法は違いますけど、うちでは一時焙煎で大麦をあたためて、二次焙煎で色をつけます。一時焙煎は約100度で30秒、二次焙煎は300度前後で1分半から2分ほど。

その日の気温や麦の水分量などちょっとした加減で、麦茶の色って変ってくるんですよ。なのでその都度状態をチェックしながら窯に入れる麦の量を調整するのですが、(材料の投入からできあがりまで)連続式になっているので慣れていないとどこが悪いかわからない。全体を見ながら作業するのはなかなか難しいんです」

窯の中も見せてもらいました。

「煙が出ますよ」そういって川原さんが窯の扉をあけると、湯気がふわ~っと広がり、きれいな茶色に色づいた大麦が姿を現しました。

■この味になくてはならない、レンガ窯

工場で目にしたレンガ造りの窯は、創業当時のもの。自社ブランド「東京麦茶」パッケージにも描かれている、川原製粉所を象徴する存在です。

夏場は毎日フル稼働するという窯は、80年以上変わらずに現役で働き続けています。 

熱風焙煎だと一日20トンくらいは生産できるのに対して、レンガ窯だと800~900キロくらい。熱風にしようと思ったことはなかったのでしょうか。

「みんなが大規模化を目指していた時期があるんですよ、昭和のころに。東京にあった工場は郊外に移転して、大型化っていうんですかね。その波のときにうちの父も考えたらしいんです。

でもうちの麦茶の味が好きって人の期待に応えるためにも、この味を守っていこうって思ったんです。僕も近代的な機械に憧れはあるんですけど、これも味かなと思ってます(笑)」

ただ気掛かりなのは今後のこと。60歳をすぎた釜職人さんには跡継ぎがいなくて、次の窯をつくることはできても年齢を考えると面倒を見るのは難しいとおっしゃっているそうなのです。

なんだかひやひやしてしまうお話ですが、それだけどこでもつくれる味ではないということ。調子が悪い時には修理をしながら、なくてはならない窯として大切に使われつづけています。

■焙煎の見極めは、誰にでもできる仕事ではない

話を聞いていると、職人が一人前に育つまでの道のりの長さにも驚かされます。7、8年の経験があっても完全にまかせるまでにはならないそうで、40歳の職人さんがようやく焙煎ができるようになったというから、いかに麦茶づくりが大変であることがわかります。

現在中心になっているのは川原さんのお父様ともう一人の職人さんの二人。

「夏場は窯のまわりで40~45度くらいになりますので作業する方も大変です。二人とも70近いので頭が下がります」

ただでさえオートマチックにいかない砂釜焙煎ですが、川原製粉所では焦げる直前の香り高い瞬間をねらっているのでなおさら技術が必要です。

「僕が会社に入ったのは2003年、18年前です。ずっと現場の作業をしてきて今も現場には出ていますけど、それでも焦がしたり薄いのができちゃったりとかがどうしてもあるんです。

職人歴60年のうちの父でも失敗することはあるので、まあ効率は悪いですよね。誰でもできる仕事ではないです」

「熱風焙煎の機械を入れれば新人が焙煎することもできるし量も沢山つくれるんでしょうけど、そうするとうちの会社の存在意義がなくなってしまう。うちの味にお客さんはついてきてくださるのでしょうし、このやり方がうちの売りなんじゃないかなって思うんです。

もうちょっと簡単にいけばいいと思うんですけど、でもやっぱり、飲みなれているからもしれませんが自分たちの麦茶が率直においしいと思うんですよね」

▲最近では台湾からの注文も増えている「東京麦茶」。海を越えて砂釜焙煎のおいしさが広がっています


カテゴリ:エンベロープフードホール, おいしいつくり手

「おいしいつくり手」バックナンバー
最近の記事
Top