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19.05.30
《つくり手ファイル》北欧先住民の伝統をひも解き、今に伝える/YOHEI NOGUCHI 野口陽平さん
北欧の先住民サーミ族に何百年と伝わる刺繍技法の装飾工芸品「Duodje(ドゥオッチ)」。その伝統を取り入れたアクセサリーをつくる「YOHEI NOGUCHI」の野口陽平さんにお話を伺いました。
■工芸品「ドゥオッチ」に魅せられて
レースのように繊細な編み模様がほどこされた、「YOHEI NOGUCHI」のトナカイ革のブレスレット。つくり手である 野口陽平さんが自ら模様を編み込み、刺繍しています。
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野口さんがアクセサリーブランドをはじめたきっかけは、学生時代バイト先のアパレルショップで出合った、輸入品の刺繍ブレスレットでした。
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それは、北欧の先住民サーミ族に何百年と伝わる刺繍技法の装飾工芸品「ドゥオッチ」のうち「サーミブレスレット」と呼ばれるアクセサリー。
トナカイの革、トナカイの角ボタン、 ピューターワイヤー…北欧の素材を使ったこのアクセサリーが気に入った野口さんは、現地のブランドや作家のものを何年もかけて集めるようになります。
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とはいえ、北欧でつくられたものはどれも現地人サイズ。大きかったので、サイズを直したいな…と方法を調べ始めましたが、つくり方はどこにも載っていません。
そこで、自分でいちからつくってみようと、これまで集めてきたサーミブレスレットを解体してみることに。
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「サーミブレスレットは、トナカイを食べて暮らす先住民のいる北欧ならではのアクセサリー。つくり方がわかっても、ほとんどの材料が日本で手に入らなかったんです」
野口さんは、やるからにはきちんと本物の素材を使いたいと、スウェーデン人と知り合い現地の材料を仕入れることにしました。
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スウェーデン、ノルウェー、フィンランド…国やブランドによってつくりが違うのかも検証。サーミ族の伝統を取り入れつつ、野口さんの好みに沿ったデザインのサーミブレスレットが完成していきます。
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■歴史を伝えるものづくりを仕事に
こうしてサーミブレスレットづくりに時間を注いでいる間、野口さんはIT企業で正社員として働いていました。
「つくったものは、はじめは友達にあげていました。でも一度、古着好きが集まるフリーマーケットで売ってみることにしたんです。
そこであっという間に売り切れて…お洒落な人たちに認められたみたいで、それが嬉しくて」
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趣味として活動しているうちに、 仕事以上のやりがいを感じるようになった野口さん。まわりには、自然と同世代の作家の知り合いが増えました。
私たちが信頼しお世話になっているSTUDIO LA CAUSEの栗山さんやさざなみの大路さんも、そのうちのひとりです。
「『仕事はつらいものなんだ、それが社会だから我慢するしかない…』と自分に言いきかせてIT企業で働いていたけど、ものづくりをする同世代の人たちが周りに増えて、そういう生き方も選択肢にあると気づけました」
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そうして、9年勤めた会社を思いきって辞め、アクセサリーブランド「YOHEI NOGUCHI」を立ち上げました。
■伝統を通じて交流を生みだす
野口さんのサーミブレスレットは、 伝統的な三つ編み模様ををあえてゆるく編んで、レースのような繊細さを表現。色も黒、グレー、シルバーと、モノトーンを中心としたシックな展開です。
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サーミブレスレットのようにいわゆる伝統的なアクセサリーをつくりつつ、新たな作品を生みだしてサーミ族のものづくりを広げていきたいと考える野口さん。
新作のシルバーリングは一見、編んだピューターワイヤーを輪っかにしただけように見えますが、実はその編み模様を型に取り、シルバーで精密に再現したオリジナルの作品です。
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「新しい作品ができたら毎回、現地の人にも送るんです。特にこのシルバーアクセサリーは『どうやってつくったの?』と驚いて、喜んでくれました」
つくるだけで完結せず、ものづくりによって生まれる交流を大事に、野口さんは制作活動をしています。
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「 サーミ族のものづくりをする日本人はほんのわずか。偶然だったけれど、 独学で勉強し、仕事にしたことはとても強みになっています。
人生を変えるものに出合えたからには、サーミ族にきちんと恩返ししたい。日本人にも、もっとサーミ族のものづくりを知ってもらいたいと思っています」
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