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20.07.31
《工場見学10》Hermitage Holdings/スコットランド
2003年から2009年頃にかけてリネンバードのウェブサイトに掲載していた「工場見学」を改めてお届けします。今回訪れたウールミルHermitage Holdingsは、スコットランドとイングランドの境にあるHawickという町にあります。この辺りはスコットランドでも北の荒々しいハイランドとは異なり、なだらかな丘陵地帯や魚がいっぱいの川など、豊かな自然に恵まれた地域です。
※この記事は当時のまま掲載しているため、現在の状況とは異なる点があります。
■カシミヤ産業の中心地のウールミル
スコットランドの首都エディンバラは、町のなかに大きな丘がある美しい町。エディンバラからHawickまでは車で約1時間。
町で見にいくようなところはありますかと尋ねたら「ここは田舎なのに田舎らしくない中途半端なところだからなにもないよ」と断言されました。スコットランド流のユーモアだと思いましたが、町の風景は確かに意味のない国旗がはためいていたりして…
そしてこのScottish Bordersにはたくさんのテキスタイル関連の工場や、デザイナーが存在し、Hawickは特にカシミヤ産業の中心として有名です。
プリングルやピータースコットなどたくさんのカシミアメーカーの工場があり、ファクトリーショップをめぐるバスツアーもあるそうです。
社長のStephen Rendle(スティーブン)は大手のテキスタイル会社で働いていましたが、その会社がグローバル企業に合併されるのを機に退社。小規模でも自分のやりたいことをやるために現在の会社を同僚と始めました。
その後この伝統あるミルを買う幸運にめぐり合ったそうです。リべコの場合もそうですが、factoryではなくmillと呼ぶのは、工場ではなく工房という感じなのだと思うようになりました。
工場は整然としていています。訪れた日は金曜日で、毎週金曜日は午前中のみの操業で、掃除をしたらweekendだそうです。
パンチカードを実際に打っているのを見るのは初めて。下書など何もなく打っていきます。訂正はできるのでしょうか。
これはサンプル用にのみ織られる生地。スティーブンがこのミルを買取った際に引継いだのは、100余りのエステートツイードの顧客であったそうです。
Estate TweedというのはEstate(領地)を持つ貴族が、家族やその使用人のために特別に誂える洋服に使われるウール布地のことを指します。
家族のハンティングジャケットのためだけであったり、使用人の仕事着にする場合やら、その用途はエステートによっていろいろだそうです。もちろんそれぞれのパターンは登録され、勝手にコピーしたり使用することはできません。
パターンはそれぞれのエステートにある自然の色をモチーフにしていることが多いので、緑や黄土色といったものが結果として多いそうです。
引継いだ当初は伝統はあるけど新鮮味のない仕事と思っていましたが、そのうちにサービスの必要性と、何年かに1度は必ず注文が入る堅実性に気づき、今は英国中の顧客のエステートを車でまわっているそうです。
Estate Tweedと同じような柄のスポーティング・ジャケット用の生地、こちらは一般にも売られています。Estate Tweedは受注生産です。
数年前にイギリスのお屋敷に住むマドンナからも注文があり、コンサルティング会社を通じて、新しく柄を決めるところからサービスが始まったそうです。
その時に引継いだものの中には、こんなお宝もありました。屋根裏部屋で見つけたそうです。
小さなノートに万年筆で丁寧に書かれたパターンと生地のサンプルブック。どちらも1920年代のものです。
Lisetteでジャケットに使われる生地。ナチュラル(染色をしていない)の生地は微妙な色目が魅力。シェットランドの羊からとれたもののみ、ナチュラルの糸に使います。
昼食に出されたサンドウィッチとチーズを嬉々として写真に収めるにもいかず、でもほんとにおいしかったです。そしてもちろんいっしょに出された紅茶も。
ロンドンは少し異なりますが、その他の英国の地域ではかなりの確率で、紅茶をすすめられます。そしてyes, please と答えれば、かなりの確率でうれしい顔をしてもらえます。
帰りにおすすめされたMelroseという町に立寄りました。廃墟になったアビーにはスコットランドの宗教的背景を物語るものがあったのかもしれません。
町一番のティールームには、Estate Tweedのカラーモチーフになることも多いというThistle(あざみ)の花が。北国の夕日がなだらかな丘を時間をかけてゆっくりゆっくり染め上げ、次第に暗くなっていく様子に久しぶりの感動を覚えました。
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