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20.07.31
《工場見学13》革靴工房/イギリス
2003年から2009年頃にかけてリネンバードのウェブサイトに掲載していた「工場見学」を改めてお届けします。今回お邪魔したのは靴工房。昔ながらの方法でものづくりをするご夫妻のもとで靴をつくってもらいました。
※この記事は当時のまま掲載しているため、現在の状況とは異なる点があります。
■ 昔ながらの貴重なcordwainersを訪ねて
ゲールとよばれるすごい風の日でした。ともだちのChristinaは一歩も外へ出ないでじっとしていなさいといいましたが、約束をしていたし今度はいつ行けるかわからない。
ロンドンから西へ約2時間。コッツウォルドの絵に描いたような村々を走り抜け、ローマ人がつくったお風呂で有名なBathの近く、地図を見ながら約束の時間にたどり着きました。Norton St. Philip の村に入ると目の前に古くておおきな宿屋がものすごい存在感!
イギリスでも最も古い宿屋のうちのひとつで、13世紀から開催されていたウール市に訪れる商人のためにオープンしたのだとか。
さてAnn とChristopher夫妻は、ローマ人のいた時代からほとんど変わっていない技法で靴をつくっている数少ないcordwainers(靴職人)としてCrispian shoemakersをやっています。
石造りのコテッジにかけられたブーツの看板をたよりに庭に入っていくと、物置のような建物からAnnと犬が出迎えてくれました。
自己紹介の後は早速、どんな靴をつくりたいのか説明することに。子供のころからの偏平足に加えて、立ち仕事が続いてアーチがすっかり崩れ、内くるぶしの筋を痛めた筆者はイギリスで買い求めたアーチサポートの中敷を使っていました。
これが調子いいのでこういう靴がほしいと訴えると、Annは「残念ながらそういう中敷はつくれないの」とやおら自分のブーツを脱ぎ、取り出したのが同じ中敷。これを使うことを前提につくることにしました。
指は自由に動き、足首の前の部分はしっかりサポート、つま先で地面をけりやすいようほんの数ミリ踵を厚くしてもらうことになりました。
床に広げた紙のうえに中敷を置き両足で立ちます。鉛筆で足の輪郭をなぞり、踵の出具合も書き写します。
メジャーで数箇所の寸法をはかり、その紙に書き入れてゆきます。こちらのほうが広がっているようね、といわれたのは痛みのひどい左足でした。なにやら判らないことも書き込まれています。デザインは5,6型。そのなかから甲を深く包んで一本のベルトで締める形を選びました。
Christopherが天井裏から3,4まいの素敵な革を出してくれました。素材好きとしてはわくわく感が高まる瞬間です。一番色艶のいいものを選んで、一通りの注文は終わりました。
物置の奥のさらに物置のようなところが作業場所でした。
壁一面の道具や材料に道具好きの目は釘付けに。あまりじろじろ見ては失礼になるかもと自制をきかせてChristopherとお話をしました。
「ほとんどの工程は昔からの方法でやっているよ。一足を仕上げるのに3か月かかるんだ。おいておく時間が必要だからね。こんなcraftsmanの仕事をする人はもうほとんどいなくなってしまった」と Christopher。
「若い人もたまにやってくるけれど、一週間でできあがらないと満足じゃあないみたいだよ。こんな仕事は習うのに何年もかかるものなんだ。いまは、たくさんつくメーカーはほとんど中国でつくっているらしいよ」
「ところで日本には水の中も歩ける木の靴があるんだってね?」
「え!? ああ、下駄のこと。木の板の下に2枚の木の歯がついていて、取り付けた紐を指でこう挟んで歩きます。指が自由に動くし裸足は気持ちがいいですよ。でも今は普通は履かないなあ」
「昔は女の人が小さい靴を履いていたらしいじゃない?」
「 うーん、それは中国です」
なんだか迷路にはまってきたのでこのあたりで。外はもう暗くなり、犬たち猫たちにもおわかれを。秋にフィッティングに来る約束をしておいとましました。
今日のお宿はBathの町外れのB&B。English breakfastが楽しみ。
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